メディアグランプリ

セクシュアルな本棚



記事:奄海るか(ライティング・ゼミ)

あるゴールデンウイークの一日。行楽日和としか言いようのない、気持ちの良い晴れた日に、私は本棚の整理をしていた。何の事はない。単に平日は忙しいから、連休には溜まった片付け物をするのがお約束で、この日は「本棚担当の日」だったのだ。

我が家には合計5つ、本棚がある。ざっと紹介させていただくとリビングにある「1軍」と呼んでいる本棚。これは「人の目に付いても問題ない本」が並んでいる。経済書や新書、旅行ガイドや趣味の魚図鑑や家庭菜園の本、これ見よがしに料理の本を並べ、こういうの読んでお料理作ってますよ、主婦ですもの、アピールも忘れない。

次は趣味本棚。これは2つあって、私が独身時代から揃えた漫画やストレッチやダイエット本(買っただけで満足するので、ほぼ開かれない)「ブログの書き方」「SNSの活用」など仕事に必要な本がずらりと並んでいる。

そして夫の本棚。彼の書斎にあり、仕事関係の雑誌や 趣味のジョギング本が並ぶ。仕事関係の雑誌は内容が法律やその時の流れで変わるため、定期的に入れ替えが発生する。

最後に、私の仕事専用本棚。これは仕事部屋にあり、いわゆる「人に見せられない本棚」だ。

あなたにもあるのではないだろうか。エロティックで無くとも、何となく人に見せるのを躊躇ってしまう。そんな本。「人に見せられない本棚」は、そんな本たちでぎっしり満たされている。
この本棚には、仕事関係の本をずらっと並べている。
が、私の仕事は「占術業」。占い師、霊能者と呼ばれる職業。その為どうしてもラインナップが特殊だ。一部を紹介すると、書店の占いコーナーに有るような「はじめてのタロット占い」「星占い」的な本から、戦前の占い本、全て漢文で書かれている家相の本、果てには呪術の本など、もう「胡散臭いとしか表現できない本」しか並んでいない。
そして仕事関係の本はピンと来たら買ってしまうので、どんどん増える一方。いい加減溢れ出してきて余裕が無くなってきたので、思い切って整理していたのだ。
 
黙々と本を並べ、虫干ししながら 五月晴れの明るい空を見上げる。
「人に見せられない本棚って、裸や下着姿のようだなあ」
思わずそう、口に出していた。

当たり前だが本棚は、本を並べるもので、そこには趣味嗜好が強く現れる。
当然だ。本人の趣味嗜好で選んだものしか並ばないし、個人の縮図、心の状態が顕著に反映される。本棚を見ればその人が解る、と言われるのはそういう事なのだろう。
見せられない本棚は更に、もっと色濃い趣味嗜好が現れる。それは性癖とも言えるかも知れない。自分しか知らない自分の暗部のような、でも甘美な喜びに溢れている。

だからこそ、見せられない本棚は見せられないのであり、心を許した相手にすら、見せる事は難しいのかも知れない。これを見せる事は、一糸まとわぬ自分の心、即ち全裸の自分を晒すことになってしまうからだ。ありのままなんて生易しいものではない。

この本棚を見せる時、それはある意味、その相手との初エッチと同じかも知れない。
ドキドキしながら、生まれたままの自分を見せる。その時、恥ずかしいと思う気持ちと、見せる勇気を出した自分を誇らしげに思いながら、相手に嫌われないか、おかしくないか、変じゃないだろうか。そんな期待と喜び、不安がごちゃ混ぜになる中で、裸の自分をさらけ出す。相手が受け入れてくれるかそうでないか、これは実際にその時を迎えないと解らない。

想像するだけでゾクゾクするじゃないか。

実は本の趣味や好みが違うのは大した問題ではない。並んだ本たちに、相手がどういった発言をするか。これがチェックポイントなのだ。好意的な発言なら、考え方や感性が違っていたとしても、受け入れる準備が整っている。そうなると違いは刺激になって、お互いに良い影響が得られる。ここからお互いの嗜好が交じり合い、融合していく事も多く、そうなると二人の間に新たな感性や一致点が生まれる。これは二人だけの価値観であり、交流点であり、誰にも侵されない聖域と化していくのだ。

この人と結婚していいかどうか。そういう悩みを持ったなら、本棚の隅々まで、見せることが出来る相手かどうか、考えてみると良いかも知れない。見せられない本棚を見られても大丈夫だった相手は、一生の伴侶になる可能性を秘めている。あなたがさらけ出した全て、陰部、恥部とも言える部分も、丸ごと自分の中に納めてくれたのだから。

見せられない本棚に、虫干しが終わった本を戻していく。
夫が私にお茶をしないか、声を掛けてくれる。
「またそんな怪しい本ばっかり並べて」と笑顔で話しながら。

私の見せられない本棚は、夫にだけは例外な本棚に成長したのだ。

実はもう一つ、見せられない本たちの入った箱がある。

これは夫婦揃って興味のある本だが、人に見せられないものばかりだ。
この箱の中身は、夫婦の秘め事として、二人の永遠のヒミツにしたいと思う。

 

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2016-05-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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