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夢を叶えるおむすびの話


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記事:多紀理 めい子(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「突然ですが来月夢を叶えます」
友人は言った。え? なになに? と身を乗り出して聞く。私たちは、お金に不安のあるぐうたら主婦の集まり……のはずだった。
 
結婚したばかりのころ、私はお金のやりくりの難しさに毎日驚いていた。嘘のような本当の話だが、私たち夫婦は節約しているつもりなのに、生活費が自分たちの収入を超える生活を何十年も続けていたのだ。それに気づいたのは、この友人の話を聞いてからなのだから本当に情けない。
 
「実は家を買ったの。夢だった輸入住宅なの。遊びに来てね!」
輸入住宅? うらやましい。うらやましい。うらやましい。大きなソファも置ける広々としたリビングに煙突のある暖炉、最新型のアイランドキッチン、天窓のある寝室、芝生の庭、犬とか飼っちゃってクォリティーオブライフが爆上がりするに決まってる! なんてこと! 私が一番欲しかったものを目の前で手に入れる人がいるなんて! 私たちはお金に不安のあるぐうたら主婦仲間じゃなかったの?
私はただただうらやましくて、頭の中で彼女をまくしたてた。
 
「今までずっと黙っていたんだけどね、もう本当に夢が叶うから、みんなにも自信をもって話しても大丈夫かなと思って。聞きたい?」
教えて教えて! 私たちはプライドをかなぐり捨て、さらに身を乗り出して彼女の話に聞き入った。
 
それは、毎日作るご主人と自分のお弁当の話から始まった。え? 節約の話? そんなら私もさんざんやって失敗してきたんだけどなぁと少々不安に思っていたら、その話は私の想像とは違っていた。
 
「あのね、おむすび一つの材料費知ってる?」
一瞬の沈黙の後、そこにいた全員が首を横に振った。彼女はそれが一番大切なことなのだと言う。
「じゃあさ、お米10キロから何個くらいおむすびができると思う? ちょっと考えてみて」
私たちは全員スマホを取り出して調べる。すると一人が声を上げた。
「ということは、お米10キロでだいたい100個くらいできるってことか」
夢を叶える彼女は大きくうなずいて笑った。
「そう。そういうことなの。これで、おむすび一つ当たりにいくらかかるか分かったじゃない?」
そうなのだ。自宅でおむすびを作ると、だいたいひとつ30円前後で済んでしまう。
「それでね、コンビニで2個買うと、一番安いのを選んでも200円以上はかかるから……」
「倍以上かかるってこと?」
計算の早い一人が突っ込む。ところが、たった100円ちょっとの差に私たちはまだピンと来ない。
 
「旦那のお昼ごはん、どうしてる? 自分たちは? 働き始めてから何年その生活続けてる?」
私たちはまたスマホを取り出して、それぞれが計算を始めた。
 
週に5日働いている夫のお昼ごはん代は、コンビニ弁当なら飲み物もあわせるとだいたい800円。都内の外食なら1,500円前後だろうと思う。それを週5日、働き始めて約20年。うわ……。
600万円以上の数字がそこには叩き出されていた。二人あわせると1200万円以上。
私たちは絶句した。
 
「ワンコインの概念、変わるよ」
彼女は言った。
 
自宅に帰った後、早速夫にこの話をする。
「おむすびかー。お弁当作り続いたことないじゃん! 作れる? 弁当より簡単か? でもさ、最近どこもお店やってないし、コンビニは味が濃くて……。ちょっと一回作ってみてよ」
 
一日目。炊きたてご飯に母が漬けた梅干し。ごま塩をまぶして、とろろ昆布で巻いたおむすびを2個持たせた。70円。感想は……
「いやぁ旨かった! ごま塩の飯ってあんなに旨かったっけ?」
 
二日目。生姜を刻んでゴマ油で炒め、麵つゆで味付け白ご飯の中へ。味噌を塗った大葉で巻いて持たせた。80円。
「今日のすげー旨かった! 味噌汁も欲しいな」
 
三日目。沢庵を刻んで白ゴマと一緒にご飯に混ぜ、海苔で巻く。カニ風味のかまぼことわかめを入れた味噌汁も一緒に持たせた。100円。
「今日もめちゃくちゃ旨かった! 保温ジャーの味噌汁ってずっとあったかいんだね。毎日これでもいい! 余計なものも買わなくて済むし」
 
こうやって一か月間おむすびを続けてみた結果、一番驚いたのは私である。
計算機によると、1万円以上が手元に残る。噓でしょ? 恐る恐る残った生活費を確認してみると、そこにはなぜか計算機の3倍以上の金額が残っていた。夫の帰宅が待てず、ラインでそのことを告げるとお昼に返事がきた。
「やったじゃん! その友達にお礼を言ったほうがいいよ。今日のも旨い!」
 
早速教えてくれた友人にお礼を言おうと思い、スマホで彼女へメッセージを打とうとした時、ふとあることに気付いた。
あれ? おむすび? おにぎりじゃなくて? 何か意味があるのかな。
  
せっかくなのでお礼がてら彼女のお家に遊びに行き、ついでにおむすびの秘密を聞いてみることにした。
 
「続けたの? 一か月も? すごいね。でもさ、何にいくらかかるのかを知るとありがたみが湧くんだよね。材料も大事に使い切る。これが大切なんだと思うの」
私は大きくうなずきながら、本当に大切なことを教えてくれたんだなと、こみ上げてくるものがあった。
 
「おむすびのこと? うふふ。よく気づいたね。おむすびっていうのはさ、神様の山の形なんだって。神様のパワーが宿りますようにってお米を結ぶからおむすび。私ね、子どもの頃うちが貧乏で、自分の部屋もずっとなかったの。で、部屋がほしくて泣いていたらおばあちゃんが教えてくれたんだよね」
 
そうか。もううらやましいなんて、簡単に言えなくなった。大きな夢を叶えるには、それなりの歴史があったんだ。おむすび、何十年も結び続けて夢を叶えたんだね。
「ありがとう。なんだかすごく大切なことを教えてもらったよ。それから、おめでとう! 本当に素敵なお家だよね」
隅々まで整った彼女の家のリビングを見渡して、私は心からそう言えた。
 
 
 
 
***
 
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