いい歳をして、20時過ぎの騒動
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記事:山田THX将治(ライティング・ゼミ書塾)
40年程前の話。
家庭の事情で、シングルファーザーと為り男手一つで子育てをしている友人が突然、
「子供ってさぁ、決まって20時を過ぎると騒ぎ出すんだ。明日の学校のことで」
と、言い出した。
子供が居ない私は興味津々で、聞き耳を立てていた。
何でも、20時を過ぎると子供が学校に持参する物を想い出し始めるというのだ。それもたいがいは、図工で使う小箱とか包装紙、家庭科で使う布等といったものだそうだ。
前もって言っていれば何の苦労も無いが、前日の夜に為ってから騒ぎ出されるので適わないとのことだった。しかも時代は、未だコンビニが少ない時代だ。仮にコンビニが有っても、24時間営業が珍しかった時代だ。
彼は子供が中学に上がる迄、毎晩の様に冷や汗をかき続けたそうだ。
そんな思い出話が有る私も、1年前同じ様なことをしてしまったのだ。
20時が過ぎてから、明日必要な物が無いことに気が付いたのだ。
サラリーマンではない私は、普段から滅多に白無地のワイシャツを着用しない。持っている白無地シャツも、多くは襟や袖口を御洒落に変化させた物ばかりだ。
それと、黒無地の靴下も同様だ。
それらは中高時代、制服として御仕着せられた閉塞感の反動から、滅多に身に付けないからだ。結果として、白無地の無難なシャツと黒無地靴下は、それぞれ1セットしかクローゼットに納まっては居なかった。
何故1セットは有ったかというと、無難な白シャツとくと無地靴下は、葬儀に際にしか着用しないからだ。
葬儀は大概、通夜か本葬のどちらかしか出席しないからだ。
ところがだ、1年程前の夏、近親者に突然不幸がやって来てしまった。
都内の親戚だったので、通夜と本葬の両方に出席しなければならなくなったのだ。
親戚の葬儀は、父親が亡くなった12年前以来のことだった。
通夜からの帰宅後、私は白無地シャツをクリーニング袋に、黒無地靴下をランドリー袋に投げ込んだ。
一息ついていると、ふと思い出したことがあった。
明日も今日と同じ格好で出向かなければならないことに気付いたのだ。
ところが私は、白無地シャツと黒無地靴下は1セットしかもっていなかったのだ。
夏場のことだったので、とても着用済みのシャツや靴下を使う訳にはいかなかった。私は無類の汗っかきだ。
コンビニへ買いに行く手が有ったが、私のサイズはコンビニに置いてある普及品で間に合う筈が無かった。
仕方なく、一先ず黒靴下は手洗いをし直ぐに干した。ナイロン製なので、朝までには乾くと思ったからだ。
問題は、白シャツだ。
私はめぼしいシャツを何枚か出してみた。お洒落な袖口を捲り上げれば何とかなりそうな物と、極薄い黄色いシャツを候補に残してみた。
試着したところ、袖を捲り上げると喪服の上着の袖が纏わり付き、どうにも動きが取れなかった。薄い黄色のシャツは、黒い上着と黒いネクタイを合わせると、想定以上にシャツの黄色が浮き立ち、常識的ではないと思われた。
途方に暮れた私は、シャツが収納されている箪笥の引き出しを、全て開けてみた。そして、底の方まで全て探してみた。何か代用出来そうなものは無いかと考えながら。
これは余談だが、黒いシャツは喪の席には相応しくない。何故なら、黒いボウタイ(蝶ネクタイ)と同じで、正式の礼服に使うものだからだ。
或る時の夏の通夜の席で、堂々と黒シャツ(上着無し)で焼香に現れた輩を見て、私は卒倒しそうになった。
箪笥の隅々まで探し回った私は、もう何年も袖を通していない白無地のシャツを探し当てた。
但しそのシャツは半袖だった。普段から半袖シャツを着用しなくなった私は、一枚だけ半袖の白シャツを残してあったのだ。
これなら、上着脱がなければ失礼に為ることは無い。
ただし、暑いけど。
次の日の本葬に、私は探し当てた半袖白シャツで出席した。上着を脱ぐことが出来なかったので、大汗をかいてしまい礼服迄クリーニングに出すことに為ったが、失礼をすることは無く一安心した。
葬儀明けの週末、私は早速白無地シャツと黒無地靴下を買いに出掛けた。
その時に購入したシャツと靴下の御蔭で、半年後に見送った母(義理の)の葬儀では、一切慌てることが無かった。
普段からスーツを着ない職業の方、特にサラリーマンでない方、葬祭時に着用する白シャツと黒靴下は、必ず2セット用意しておきましょう。
葬儀前日の20時過ぎに、大慌てをすることに為りますから。
***
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