私の大切な人を、天狼院さんに
記事:しの(ライティング・ゼミ)
GW、大好きな彼に会いに行った。
「久しぶり!」
「久しぶり、正月以来かな?」
久しぶりに会った彼は、相変わらずのチェックシャツで少し安心した。
でも、髪型がさっぱりしたし、靴も流行のものになっている。
「ちょっと変った? なんか……小奇麗だよ」
「うーん、しのちゃんに会わない間に、こっちも色々あって……
これからも俺、変っていくかもなんだけど……」
私のやや失礼な軽口も受け流す彼。
でも、ちょっとなにかが違う。
ねえ、色々ってなに? 変っていくの?
彼は私の幼馴染で、私が小学生になるとき、家の都合で引越しして別れてしまった。
けれども、私がこちらの大学へ進学して再会した。
楽しい学生時代を過ごして、就職で私が関東へ行って2年が経つが、それでもたまに会っている。大切な友人だ。
決して派手ではなく、流行の最先端! という感じはないけれども、私が小さいころから変らぬ笑顔で、ほっとさせてくれる。
その彼が、変ってしまうのか。
「……あのさ、最近動物園から、チンパンジー、逃げたよね! 画像見たけどすっごい面白かった!」
「あ、うん。 あれは俺もびっくり」
彼が変ってしまうことへの動揺を隠しながら、最近のニュースを話す。
久しぶりに会った私たちは、学生時代、落ち込んだときに二人で登った城址や授業の合間に訪れた美術館、度々デートで使った景色の良いカフェなど、思い出の場所を訪れた。
彼と話すうちに、変らぬ景色と笑顔に、出会ったときの不安はどこかへ消えてしまった。
カフェでコーヒーを飲みながら、彼は言った。
「動物園、行こうか。逃げたチンパンジー、見に行かない?」
彼の発案で、動物園へ行くことになった。たくさんの動物がいる楽しい場所だ。
しかし、動物園への道すがら、私は気が付いた。
彼の笑顔は変わらないけれども、彼は確実に変わっていることを。
夜。
繁華街でお酒を飲む。学生時代の安い飲み屋よりちょっとランクアップしたバーへ。
「今日は楽しかった。ありがとう」
「こちらこそ。度々来てもらえてうれしいよ」
回り歩いた楽しい一日も、もうそろそろ終わりを迎える。
カクテルの最後の一口を飲んだとき、彼は言った。
「しのちゃん、俺、やっぱり変わったと思う?」
私が彼に感じていた違和感は、隠しきれていなかったようだ。
ううん、別に、と答えることは簡単だけど……。思い切って言ってみる。
「うん。変わったと思う。
まず、駅の東口、すごくおしゃれ! びっくり!
あと、市バス、交通マネー使えるんだね。とっても便利。イクスカ可愛い。
地下鉄の東西線、動物園まですぐ行けるの、すごい」
嬉しそうに微笑む彼。
……そう、彼は私の心のふるさと、「仙台」君である。
幼少期も、大学時代も、緑がまぶしい定禅寺通り、キラキラ光る広瀬川、賑わうアーケード、街を一望できる青葉城址、そこから遠くに見える海…… 変わらず心地よい街だった。
今、私の愛して止まないところを残しながら、仙台はどんどん変わっている。
今年の3月から、整備された仙台駅東口がお披露目になり、お土産屋やグルメ街、お洒落なショップが立ち並んだ。また、南北に伸びていた地下鉄に、東西に伸びる線、東西線が加わり、交通の便も良くなった。
「そうだね。準備はずっとしていたのだけど、一気に変わったと自分でも思ってるよ」
そう答える仙台君の顔は、まだなにか隠しているようである。
「なにか、まだあるの?」
「実は……天狼院書店、できるみたいなんだ。
東京に本店のある、クリエイティブでお洒落な感じの書店……」
え! そういえばそうだった!
就職してからたまに訪れ、4月からはライティング・ゼミにも通い始めた東京の天狼院書店。
面白くどんどん見てしまう本棚はもちろん、興味そそられるイベントの数々、楽しそうに働くスタッフの皆さん……。
学生時代に近くにあったらよかったのに、とずっと思っていた。
「いいな!」
「しのちゃん知ってるの?」
「うん、うらやましい! 私のいるときにできてほしかったよ!」
「へへ、いいでしょう」
「仙台にも本好きな人たくさんいるだろうし、学生さんも多いし、きっと喜ばれるよね」
仙台の一箱古本市、すてきなあのブックカフェ、バイトもしていた大好きな書店……。
仙台のブックシーンが眼に浮かぶ。そこに天狼院書店が加わるとは!
「うん、そう思う。
でも、天狼院書店って変わった名前だよね?」
「確かに……
仙台の街中で言うと、語感的には、
瑞鳳殿・晩翠草堂・天狼院 みたいな感じかな?」
「バス停になれるじゃん!」
くだらないことを話しながら、どんどん変わっていく仙台は、天狼院書店ができてもっともっと変わっていくのだと思った。
私の大好きな仙台は、もっともっと素敵になっていく。
GWの仙台は、定禅寺通りは木漏れ日がきらきらして、さわやかな風が吹いて、にぎやかな声が聞こえた。
晩秋の、どことなく人恋しくなる季節には、すっかり葉が落ちた定禅寺通りに、光のページェントのための灯がつけられる。そのときに、また変わった仙台君に会いたいと思う。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
【天狼院書店へのお問い合わせ】
TEL:03-6914-3618
【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】
【有料メルマガのご登録はこちらから】