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夫婦喧嘩は自分のものなら食ってみると意外な発見がある


*この記事は、「実践ライティング特別講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

「実践ライティング特別講座」文章を書く前にするべき7つのこと

記事:藤野ナオミ(実践ライティング特別講座)
 
 
夫と口論の末、腹の底からわきあがってくる怒りをこらえることができず……。
手近にあった料理用のボウルを何度も床にたたきつけ、ボコボコに変形させてしまいました。
 
 
口論のきっかけは、ほんのささいなこと。
 
中3の息子が、突然オシャレに目覚め、1本5,000円もするシャンプーとトリートメントを買ってほしいとねだってきたのです。
受験勉強から逃避するために、オシャレに目覚めたのに違いありません。
「高すぎるから、もうちょっと安いものにするよう言ってみようかな」と思い、洗い物をしながら夫に相談したのです。
ところが、夫は、テレビに夢中。
反応してくれません。
 
「ちょっと! 私の話、聞いてる!?」
「え? 何?」
「また、聞いてなかったの!? ないがしろにされた気がして傷ついた!」
「ないがしろにするつもりは、全くない!」
「事あるごとに『俺は、ナオミの話を全力で聞くよ』って言うのに、結局、テレビとか、自分が興味のあることとか、自分が話したいこととかに気を取られて、人の話を聞いてないじゃない! 嘘つき!」
「話を聞きたいっていう気持ちは嘘じゃない! ナオミだって、俺の話を聞かない時があるのに、なんで俺ばっかり責めるんだ!」
 
私たち夫婦の間では、よくある口論です。
たいていの場合、口論になると夫は決して自分からは引きません。
私がケンカを切り上げようと別室へ移動しても、追いかけてきて自分の正しさを主張し続けます。
 
さすがに、結婚して16年が経ったので、夫も私も相手のことが分かってきました。
数年前からは、私が、「私のことを大切に思う気持ちがみじんでもあるなら、私から話しかけるまで、私に話しかけないで! 私に話しかけてくるということは、自分の正しさを主張したいだけで、人の気持ちを踏みにじっても構わない人間だという証拠だからね!」と言い放つと、夫は静かに去っていきます。
私も夫も一晩寝ると気持ちが収まり、翌朝、お互いに謝って仲直りします。
 
今回も、そのパターンかと思っていたのですが、ふと、「夫に謝ってほしい」という考えが浮かびます。
え? 何を謝ってほしい?
 
言っていることとやっていることが違っていることを謝ってほしい。
 
いつもと違う展開が面白いなと思う気持ちもあり、夫に伝えてみました。
 
「私の話を全力で聞くって、常々言ってるけど、今、聞いてなかったじゃない。『話を全力で聞くよって言っておきながら、話を聞けなくてごめんね』って言ってほしい」
「はあ!? 話を聞くって気持ちは嘘じゃないから、そんなことは言えない!」
「お願いだから、謝ってほしい」
「できなかったことは、これから努力すればいいだけのことだろう!」
 
いきなり、腹の底からものすごい怒りがこみあげてきて、近くにあった茶碗や皿を床にたたきつけたい衝動にかられました。
 
いやいや。茶碗や皿をたたきつけたら、もったいないし、片づけが大変。
一瞬のうちに考えがめぐり、手近にあったステンレス製のボウルを床にたたきつけました。
 
ゴーンという音が辺りに響きわたり、ボウルが変形しました。
途端に爽快な気分が全身を駆け抜けます!
初めての体験!!
 
二度、三度、四度と、ボウルを床にたたきつけたら、ボウルがチューリップのような形になり、「意外にもろいんだな」と思っている私がいます。
 
「近所迷惑になるから、やめろよ……」と、いきなりトーンダウンした夫。
それならと、クッションをベッドの上に何度も力いっぱいにたたきつける私。
 
夫がその横で呆然と立ち尽くしていました。
私が、泣いたり、わめいたりするのを見たことはあっても、気がふれたように物に当たるのを見るのは初めてだったからでしょう。
 
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」と言います。
ケンカのきっかけは、大抵の場合、本当にくだらないこと。
他人にとっては、「勝手にやっとけ」というレベルのものばかりですよね。
 
それに、当の本人たちにとっても、「相手のせいで腹が立った。相手が悪い」と、プンプン怒る程度。
そのうち、怒りが収まってきたら、「まあ、いいか」となり、日常に戻っていきます。
夫婦間の折り合いがつかなくなり、「まあ、いいか」で済まなくなると、別居や離婚に発展するかもしれません。
 
私たち夫婦も、人から見れば、うんざりするようなくだらないケンカを、ひたすらにくり返してきました。
 
結婚して数年が経った頃は、金遣いが荒く、自分勝手な夫に対して、私は「夫が悪い! 許せない!」と思い、夫をひたすらに恨んでいました。
離婚したいと願うほどでしたが、夫がどうしても離婚したくないと言い張るので、1つ1つ問題点を解決してきました。
 
そのため、このところは、それほど腹が立つことも減っていたのです。
それなのに、今回ばかりは自分でもビックリするほどの怒りがこみあげてきたので、ちょっと考えてみました。
 
いったい何に腹が立ったのだろう。
 
やはり、夫の言動が一致していないことが一番腹立たしいのだ、という結論に至りました。
口では「ナオミの話を全力で聞くよ」と言いながら、私が話をしても別なことに夢中になって聞いていない。
 
あれ?
どこかで体験したことに似ている。
 
私の母も、言動が一致していない人でした。
口では「子どもたち3人を平等に育てた」と自慢していましたが、実際は、弟のことは溺愛し、妹のことは愛玩対象とし、私のことはイライラのはけ口にしていました。
 
ああ、そういうことか。
私は、母に謝ってほしかったんだ。
「口では3人を平等に育てたって言ってたけど、実際は平等じゃなくてごめんね」って。
 
母に対する怒りや恨みはなくなっていたと思っていたのに、夫の姿に母を重ねていたのか。
 
そのことを夫に伝えてみました。
いつもは強情で、自分の考えを曲げない夫が、神妙な顔をして聞いています。
そして、「口では話を聞くよって言っていたのに、実際は聞けなくて、ごめんな」と謝ってくれました。
 
夫の言葉を聞いて、涙が流れてきました。
どうしてもほしかったけれど、手に入れられなかったものが、ようやく手に入ったような嬉しさ。
それまで、なかなか手に入らなかった切なさも一緒に込み上げてきます。
 
「そう言ってほしかった。ありがとう」
 
夫とは仲直りをしました。
それ以降、ちょっとした口喧嘩はあるものの、私が物をたたきつけるような出来事は起きていません。
 
激怒するほど心が揺さぶられている時は、その底に切なる願いがこめられています。
かつて得たかったのに得られなかった体験が潜んでいて、似たような状況で、「あの時、こうしてほしかった!」という思いが湧き出てくるのです。
「もしかしたら、今なら得られるかも!」という期待があるのかもしれません。
 
私の場合、職場ではほとんど腹が立ちません。
無意識のうちに、「ここで怒っても何も得られない」と分かっているからでしょう。
 
夫には申し訳ないのですが、夫に何をしても夫は私を裏切らないという甘えがあるからこそ、夫に対して激怒するのです。
「夫からなら、かつて欲しかったものが得られるかもしれない」
そんな期待を裏切られるから、怒りが生じるのです。
 
怒りは相手のせいで生じるのではなく、相手の発する言葉や態度が、自分の中にある何かに響くことによって生まれてくる。
夫婦喧嘩も「自分事」で起こると思って眺めてみたら、自分を知る貴重な機会となりました。
 
「夫婦喧嘩は犬も食わぬが、自分のものなら食ってみると意外な発見がある」のですね。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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