メディアグランプリ

そういえば京都には2年間住んでいた 床の季節どすえ編


京都

Mizuho Yamamotoさま(ライティング・ゼミ)

 

5月になると京都に行きたくてそわそわして

くる。鴨川に床(ゆか)が出る季節だから。

 

「何ですか、その床(ゆか)って?」

 

「はい、鴨川沿いの五条から二条あたりまで

の飲食店が、川に張り出したテラスを期間限

定で作るんです。川のせせらぎと街明かりを

眺めながらのお酒と食事は格別!」

 

京都にしては歴史は浅く、始まりは江戸時代

だという。昭和50年代の女子大生には、期

間中1度限りの贅沢だった。当時リーズナブ

ルな床は数えるほどしかなかった。今は結構

だれでも入れそうなお店が増えている。ただ

し、要予約。週末は、ふらりと入ることは不

可能だ。

 

私はここへ、フランス人とアメリカ人の友人

を案内したことがある。わが街佐世保の米軍

基地前集合で、車で7時間で京都に到着でき

る。その計画は、何気ない会話から始まった。

 

フランス人の友人とその2人の娘と私の4人

で友人宅でランチ中、

(以下 英語及びフランス語は日本語に翻訳

いたします)

 

「ねぇ、京都に行こうよ~」

 

「私たち行ったことがない!」

 

2人の娘たちは当時小学校5年と3年。

 

「長女が赤ちゃんの時に日本へ旅行して、東

京と京都を回ったけど、この子覚えてるはず

ないわ。ねぇ、一緒に行こう! せめて3泊

はしたいなぁ」

 

「てことは、仕事を2日休むことになるけど

難しいなぁ。金曜か月曜を休んでも2泊3日

にしかならないしねぇ」

 

「ね、金曜の朝出発で、月曜の朝は風邪をひ

いたことにして京都から職場に電話したらど

う?」

 

ここだけは、娘たちに聞こえないように小声

で話す友人。

 

「よし! 決~めた!」

 

決断が早いのが私の長所であり最大の欠点で

もあるんだけれど…… 。

 

米軍基地のレンタカーで、友人の運転で行く

ことにした。私は助手席でナビゲーター。

娘たちは後部座席で、歌を歌いおしゃべりを

して時々けんかしてプンプン。良い塩梅のサ

イレントタイム。

 

関門海峡と宮島SAで休憩を取って、朝7時

出発で、午後2時過ぎには三十三間堂にいた。

ずらりと並ぶ千手観音を見て、ここに住んで

いたよとすぐ西隣の私の下宿をのぞき、ホテ

ルにチェックイン。

 

徒歩で四条河原町を抜け花見小路へ。舞妓さ

んの御出勤に時間を合わせたので、あちこち

のお茶屋から出て来る、出て来る舞妓はん。

娘たちは狂喜乱舞でシャッターを押す。

 

そしてリーズナブルな床にご案内。

ちょっと肌寒い5月下旬。心地よい鴨川の風

とせせらぎと。ついでにひざ掛けを借りて。

 

連なる屋根の上をどこまでも歩く猫に娘たち

はくぎ付け。友人と私はビールで乾杯して、

ワインに切り替えたところで、隣の床がにぎ

やかになって来た。

 

なんとまぁ、お偉い旦那衆の宴会に同伴の舞

妓はん芸子はんのお接待。

 

「今日はラッキー! なかなか見られないよ

この光景は」

 

「すごい、すごい!」

 

大喜びの娘たちは、今度はお隣の床にくぎ付

け。きれいどころの歌や踊りに大感激。

 

私たちのワインも進む進む。

 

帰りしなにお店の人から名刺を渡された。

 

「個人旅行のガイドはんですか? またお客

さん連れてきておくれやす」

 

立ち話で短大の先輩であることが分かり、意

気投合。数年の後、アメリカ人の友人を6名

連れて再訪した。

 

外国人を京都へ案内するときは、21日か2

5日を旅行日に入れる。東寺の弘法さんか、

北野の天神さんの市を見せるため。上品に言

うと骨董市、まぁがらくた市と言った方がし

っくりくる感じ。

 

「これなぁ、不二家が景品に作った歩くペコ

ちゃんやねんけど、ちょっと歩いただけで倒

れてしもて商品化されへんかってん。でな、

わしが買うたんや。価値あるでぇ」

 

大阪のおっちゃんが、ねじまきペコちゃんを

店先にたくさん並べていたのを覚えている。

弘法さん、天神さんは見て歩くだけで楽しい

し、時に掘り出し物があれば幸せ気分になる。

 

部屋のタペストリーとして飾る着物や帯、小

物づくり用の端切れが外国人は大好きで、友

人も御多分に漏れずそんな店の前に来ると足

が止まる。

 

数千円の買い物だが、丹念に柄と色を見て古

着を選ぶ。曰く、

 

「赤と緑とゴールドの柄はクリスマス用、オ

レンジと黒はハロウィン用、パステルカラー

はイースター用」

 

着物の色と柄をそんな風に見るのもまた楽し

い。

 

友人が買い物をしていると、また名刺を渡さ

れる。

 

「個人ガイドさん? またお客さん連れてき

ておくれやす。お店にはもっといろいろ置い

てますえ」

 

いっそのこと外国人向け京都ガイドになろう

かと思ったりして。でも当時は教員の仕事が

あったので、諦めた。

 

3泊あれば奈良にも足をのばすことができ、

かなり楽しめた旅だった。

 

そこで1つ気づいたことがある。

 

フランス人の友人が、女優のように美しく、

娘たちがまた子役のように可愛らしかったの

で、おじさんたちがありえないほど親切だっ

たのだ。

 

バスの席を譲ってくれたり、買った品物にお

まけをつけてくれたり。

 

京都のおじさんはたちは、フランス女性に弱

い。ちなみにアメリカ女性を連れて行っても

そんなことはなかった。

 

月曜日の朝、京都のホテルから職場に電話を

した。

 

「申し訳ありません。朝から熱が高くて、風

邪だと思うのですが、今日は1日年休をお願

いします、ごほっ。授業のクラスには、いつ

も準備しているプリントが机の引き出しの1

番下にありますので、自習をお願いします」

 

木曜の夜に頑張って用意した、50分集中し

ないと終わらないプリントを引き出しに忍ば

せておいたのだ。

 

そしてわれわれ一行は、ゆっくりとホテルで

朝食を取り帰路についた。彼女曰く、

 

「やっぱり旅行って、その街を知る人に案内

してもらうのが最高! 本当の京都を見た感

じがするわ」

 

そして、10年後に今度は友人に南フランス

を案内してもらうことになる。アビニヨンの

そばの小さなリル・シュル・ラ・ソルギュの

街では、パリに次いで規模が大きいといわれ

る骨董市にも出かけた。

 

夜、川べりのテラスで食事をしながら、

 

「京都でも、こんな風に食事をしたね」

 

と友人。次回はどこの国の川べりで一緒に食

事をするのだろうか? どこの国にいても、

川からの風は心地よく、お酒が美味しい!

 

とりあえず、今日はなんだか鴨川の床が私を

呼んでいる気がして。

 

落ち着かない5月の朝だ。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
【平日コース開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ2.0《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《6月開講/初回振替講座有/東京・福岡・全国通信対応》
 

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。

【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】

メルマガ購読・解除

【有料メルマガのご登録はこちらから】

天狼院への行き方詳細はこちら


2016-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事