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父さん、俺って本当に息子ですか?


記事:たか(ライティング・ゼミ)

この前、前から気になっていた重力ピエロを見た。重力ピエロはとても簡単に要約してしまうと、家族の絆の話。特に、父と息子の絆の話だ。僕は映画でしか見ていないのだけれど、父が春に「お前は俺に似て嘘が下手だな」というシーンにはグッときた。そして、羨ましくもあった。なぜなら、僕と父はまるで正反対の人間で、本当に血が繋がっているのか、と思うほどだから。

僕の父は、真面目、という言葉が擬人化したような人物だ。

父は、どの側面を切り取っても真面目がうごめいている。

父が働いていた頃、起床時間は毎日早朝5時半。1時間で身支度を整え、6時半には必ず家を出る。朝食もコンビニで買うようなことは決してせず、ご飯と味噌汁と、おかずを食べて出て行く。帰宅時間は絶対に7時。会社の人とご飯に出かけるから、夕飯はいらない、なんてことは年に数えるほどしかない。だから、たまに出張や、帰りが遅いと、ピザやケンタッキーなんかを食べることができて、学生時代のちょっとした僕の楽しみであった。なぜなら、父は絶対に家族と夕飯を共にするからだ。だから、いつも母は6時ごろになるとご飯を作り始め、7時になったら、皆でご飯を食べる。それが、我が家の暗黙のルールのようなものだった。小学生くらいの頃は気にしなかったけれど、思春期くらいになると、やっぱりバラエティとかが見たくなるのが普通の学生。ただ、僕はバラエティを父と一緒に見るのが本当に苦痛だった。これが、また真面目な父の性分なので、仕方のないことなのだけれど、父はバラエティ番組で滅多に笑わない。それだけでなく、芸人やタレントが使う不適当な言葉に対してつっこむのだ。

「全然、は否定文でしか、使えないのに、なんで肯定文で使ってるんだ?」

「変えれない、じゃなくて、変えられない、だろう」

といった具合に。極め付けなのが、アイドルソングに対するツッコミだ。以前、確か松浦亜弥がテレビに出ていて、桃色の片思いだかなんだかを歌っていた時に、その歌詞に対して父が、意味がわからない、という感じでツッコんだのだ。それ以来、僕は父と一緒にテレビを見るのが嫌で、あえてニュースを一緒に見るくらいである。とはいえ、大学生になるまで、自分の部屋にテレビがなかった僕は、父が寝てからこっそりと、イヤホンでバラエティを見るようにしていた。これもまた、父の超真面目エピソードなのだが、父は必ず10時には就寝するのだ。夕食の後、夕刊を読み、家計簿をつけ、多少自分の趣味の時間に費やしたら、シャワーを浴びて寝る。そして次の日、5時半に起きて会社に行く。僕が生まれる前はどうだか知らないが、少なくとも僕が知ってる限りの20数年間は、ずっと、このサイクルで生活をしている。加えて言うと、父は酒もタバコも一切やらない。

土日も基本的には7時ごろには起きてきて、だいたい本を読んでる。休日の父の楽しみ、それは駅伝とマラソンをテレビで見ることだ。接待ゴルフなど絶対にしない。僕の記憶を辿る限り、休日の駅伝中継、マラソン中継は基本的に欠かさず見ている。特に箱根駅伝は父のお気に入りだ。第何回大会からかは知らないけれど、優勝校の記録を全部取ってあるのだ。父は、クソ真面目とは言っても、小さい頃は一緒にゲームをしたりして遊んでくれた。多分、こんなことをしてくれる父親はうちだけだと思うが、スーパーマリオや、ドンキーコングのようなアクション型RPGのフィールドの図面を、父が手書きで書いてくれるのだ。まるで測量士が地図を作るように、マリオを動かして地図を書く。まぁ、地図を書く際もクソ真面目に細部まで丁寧に描いてくれるものだから、当時の僕は攻略本いらずだった。父は僕とは真逆のバリバリの理系で、働いていた会社もゼネコンだったから、得意分野だったんだろうけど。

恋愛に関してもバカみたいに真面目だ。24年間、僕は一切両親の馴れ初め話を聞いたことがないのだが、最近、父と母は小さい頃からの知り合いだということを知った。僕の家系はカトリックなのだが、父方の祖父母の家と、母方の祖父母の家が一駅しか離れておらず、同じ教会に通っており、そこで出会ったらしい。両親の恋愛遍歴など、こっぱずかしくて聞けるはずもないのだが、もし、お互いが付き合った初めての恋人なら、純愛も純愛すぎる。もはやドラマだ。しかも、父は東大に現役合格までしている。膝の上に猫を乗せて勉強するのが、好きだったらしい。おそらく、父は勉強がもはや趣味なのだと思う。理系のくせに、歴史に関しては、大学受験時代のピークで頭の良かった自分と同じくらい知っているし、(しかも世界史も日本史も)、もちろん地理も詳しい。父の部屋には昔の名所が和書、洋書、問わず詰まっている。

僕は父の真面目すぎる性格を否定する気は全くないが、そのおかげで、高校生くらいの時から、ろくに口を聞いていない。仲が悪いわけでは決してなく、干渉しない、と言った方が正しい。とは言っても、子供の頃は普通に遊べていたのだから、こっちが勝手に壁を作っているだけなのだと最近気づいたのだけれど。それを父の真面目な性格のせいにして、話すことをちょっと避けていた。友達の家に遊びに行った時などに、友達と友達のお父さんが、友人のように冗談を言ったりしているのがひどく、羨ましく思えた。父の真面目な性格に反抗するかのように、大学の前半なんて、遅寝遅起き、毎日飲み会。授業はサボるは、髪の毛は金色だわ、不真面目の塊のような存在だった。父の話をするとよく「お前、本当に親父の子供かよ」と冗談半分にからかわれたものだ。あまりにちゃんとした交流を取らなすぎて、もはやどうやってコミュニケーションをとったらいいか、正直わからなくなっていた。大学2年で一人暮らしを始めて、ますます父と会う機会は減り、その距離がどんどん遠くなった。

ところが、半年前、父から突然メールが来た。僕が留学するように、トランクを買いに行こう、というものだった。正直、親が使っていたものを使えばいいと思っていて、一度は断ったのだが、父が、どうしても、というので久しぶりに、10年ぶりくらいに父と2人で買い物に出かけた。自分が大人になったからかわからないけど、買い物に行こうと頼んでくる姿は、どこか子供みたいだった。特に何か面白いことが起きたわけでも、何か大きな変化が起きたわけでもなかったけれど、何となく、自然に父と会話できたような気がした。父は、クソとバカの二つが接頭語につくくらい真面目だけど、同時に不器用なのかもしれないと、ふと思った。言葉で直接伝えてくることは、多くはないけど、ちゃんとこっちの話を聞いて、態度で示してくれる。

高校の卒業式の日、会社で卒業式に来られなかった父から、絵文字が沢山入ったメールが届いて思わず苦笑してしまったことがある。未だにガラケーの父は、ほとんどメールはおろか携帯を使わない。だから、父なりに、真剣に考えて、絵文字を使ってくれたんだろう。体育祭もちゃんと毎年来てくれてたし、演劇の舞台もちゃっかり見に来ていた。全然自分のことを話さない息子のことを、不器用なりに真面目に考えて、いっつも動いてくれていた。

そういえば、就活中、自己分析の一環で、親しい友人や恩師に、自分はどういう人かを聞いたことがある。すると、「お前は真面目で不器用だ」とよく言われた。

なんだ。僕もちゃんと父親と似てるじゃないか。

今度は、僕の方が、ちゃんと父に歩み寄ってみよう。

 

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2016-06-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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