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野良猫の色恋沙汰は痒みも忘れさせる禁断の世界だった話

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記事:ミュウさま(ライティング・ゼミ)

「ミャオー!」
「フミャー!」
最近の目覚ましはいつも猫のけたたましい喧嘩のような鳴き声だ。
ニワトリが夜明けと共に決まった時間に鳴くのとは違い、猫は夜中じゅう鳴いているし暴れていることがある。だから眠りが浅い時はしょっちゅう起こされてしまっている。

私の部屋は1階でベランダに小さな土のスペースがある。両隣とも仕切りはあるが小動物が通り抜けするには簡単な造りになっている。
この部屋に住むようになって3年目。毎年の春と秋の2回、猫の盛りの大騒ぎには気づいていたが猫そのものを見かけたことがなく特に気に留めることもなかった。
しかし、今年の春の盛りの声がいつもにも増して激しく聞こえたのはそれが部屋のすぐ近くであったからだったのだとようやくわかったのはここ3週間ばかりのことである。

ある夜、家に帰ってくつろいでいると部屋の窓の外が騒がしい。明らかにすぐ外で音がするのだ。部屋の外は個人スペースであり、家人以外が立ち入る場所ではない。なのに物音がする。

ガサゴソ、ガサゴソガサゴソ
ガッシャーン!

部屋の外に置いてある何かが倒れた音だろうが風に吹かれて倒れた訳ではない。
明らかに何かがいるのだ。
駅から20分ほど離れた私の部屋は夜になると人通りもなく静かなところである。
そんな静けさの中での雨風以外の音というのはどうしてもビクリとしてしまうものだ。

何がいるのか正体を確かめたい気持ちとなんだか怖い気持ちでいると、そのドタバタの音と共にミーーという猫の鳴き声が混じったのに気づいたのである。しかも大人の猫ではなくまだ小さな子猫の声のようなのだ。
おっかなびっくりだった私は急に興味が沸いてベランダの窓をそっと少しだけ開けた。
そこには園芸用の土を入れた麻袋の上に子猫が3匹かたまって丸まって寝ていたのである。おそらく生後1ヶ月~2ヶ月くらいかと思われる小さくて頼りない赤ちゃん猫である。窓は静かにあけたのだが、子猫たちは異変を感じて急に体を起こして小さなまん丸な目をあけてこちらをじっと見たが、それ以上なにも起きないとわかるとまた丸まって寝てしまった。小さな体たちの塊が呼吸をするたびにちょっとだけ大きくなったり小さくなったりする。

私は動物を飼った事がないし特に興味もなかったのだが、初めて間近で見るその愛らしさにもう少しだけ窓を開けてしばらくその姿を眺めていた。

私はすぐに友達に自慢げにLINEでメッセージした。
「今ね、赤ちゃん猫がウチのベランダで寝てるんだよ。可愛い! いいでしょ?」
猫好きのその子も「いいなあ」と返してくる。
小さな感動を共有できた私はこれから可愛い子猫の成長を見ることができるかと思うとちょっと楽しくなっていたのだが、翌日猫の生態に詳しい別の知人に話すと事態は一変してしまったのである。

「ふむ。野良猫ファミリーが君んちに住みついたってこと? もし君がそれを許容するなら注意する点があるからね」

許容する? それは許すってことだよね? その一言が妙に気になりながら話を聞く。
知人はいくつかの注意点を言ったのだが、私にとって最も衝撃的だったは次の一言だった。

「それで、だ。野良猫に対する接し方の一般的な注意とは別に、きっと君にとって一番問題となることがある。それはね、蚤だ。網戸をしていたとしても窓を開けていれば入ってくる可能性があるってこと。蚤は網戸を簡単に通り抜けてしまうからね。もしそれに噛まれたらその痒みは筆舌に尽くし難いんだよ。痒みに弱い君に耐えられるとは思えないねえ」

一瞬にして戦慄が走る。
私が苦手な体感覚の一番手にくるのは何といっても痒みなのである。
私はちょっと蚊に刺されてもぷっくりと赤く腫れてくるに従って痒みが全身に広がって爆発的に痒みを感じる。数箇所一度に刺されて気が狂いそうになるほど一晩中患部を掻き毟ってしまい朝起きたらシーツが血だらけになっていたこともある。それくらい痒みに弱いのだ。

「痒いのはイヤ。絶対に絶対にイヤだーー!」

泣きそうなほど絶叫する。
筆舌に尽くし難い痒みっていかほどか。
無理。絶えられる訳がない。

可愛い子猫ちゃん、とか呑気に言っていた昨日の夜から10時間も経たずに私にとって野良猫ファミリーは一瞬にして痒みの原因の蚤を連れてくる悪者となってしまったのである。

野良猫ファミリーに退去いただく作戦が開始された。

まず犬猫禁忌剤を入手しようとホームセンターに行った。
普段用事の無い犬猫コーナーに行って見るがそこには愛犬愛猫の為のペットフードやおもちゃなどが大量にあるだけで犬猫を愛する飼い主さんの為のコーナーには当然ながら禁忌剤はない。発見したのは園芸コーナーの除草や蟻や鼠の駆除剤を売っている棚だった。

愛犬愛猫家の人たちが自分たちの可愛いペットの為にと選んでいく商品がある一方、それを忌み排除しようとする人の為の商品がごく近くに置いてある。
なんだか複雑な気分だ。草だって動物だって存在として変わらないのに、人や場所によってその存在の意味が180度変わってしまうのだから。

そういう私だって同じだ。
はじめは可愛い子猫だと心躍らせていたにもかかわらず、その存在が自分にとって不快な痒みを引き起こす元を連れてくるかもしれないから、という自分の都合で野良猫に移動するように促そうとしているのだから。

禁忌剤が全く無意味であることはすぐに判明した。
撒いたそのすぐ後に親猫だけでなく子猫たちも完全無視して平然と侵入してきたからである。ネットで調べるとこれに関するサイトが山のようにあり野良猫に困っている人が相当いるということを知った。私もいくつか試してみたが未だ平和的解決には到らず、その後も野良猫ファミリーは部屋の前のスペースを我が物のように闊歩していた。

退去してもらう作戦は一向に進まなかったが、この作戦の為に私は野良猫ファミリーを観察するようになっていた。親子の会話のパターンがわかるようになってしまうほどだ。そして、やってくるのが成猫3匹に子猫3匹である事、子猫のうち1匹だけが明らかに色が違っていることに気づくと私は知人が言っていた事を思い出した。雌猫は妊娠中であっても別のオスと交尾することは可能だしそこで受胎すれば同時期に生まれた子猫たちの父猫が複数であるということが起こり得る。色が全く違う子猫が同時に生まれるのはこのケースの可能性があるということを。

て、いうことはこのファミリー……
もしや、親猫三角関係、フクザツな家庭ってこと?
いつも現れるフワッとした毛を持つ美猫がきっと母猫だ。メスは同じテリトリーを複数で共有することがあるというから全てがメスである可能性は否定できない。1匹のメス猫が出産した子猫たちを複数のメス猫で育てているのかも。が、もし、あとの2匹が子猫たちの父猫だとしたら……
人間界では起こり得ない現象ではあるけれど、私は思わずこの状態を人間に置き換えて想像してしまった。こりゃ、ある意味ホラーだ。

野良猫の世界では複数の父猫の子を同時に妊娠出産するのは大して珍しくもないのかもしれないが、どうしても愛憎ドラマのイメージが浮かんでしまい、その姿を見かける度に君たちも大変だねえ、と野良猫たちの色恋沙汰を思った。

蚤の侵入を防ぐために野良猫たちには退去いただかなければならないはずなのに、子猫が親にか細く甘えるように鳴くミーミーという声を聴くと余計に親同士の関係や親子関係などが思い起こされ、あり得ないほどのドロドロした激しくフクザツな人間関係を描いた韓流ドラマさながらの韓流ドラマもどきが頭の中で展開されてくるのであった。
野良猫の色恋は禁断の世界がプンプン匂う何とも不思議な魅力を放っていた。

そしてあんなに激しく拒絶した痒みの原因となる蚤対策は別の手段を考えるとして、どうせ素直に退去してもらえないのなら、いましばらくはこの脳内ドラマの続きを楽しむべくこの野良猫ファミリーをもう少しだけ許容してみようかと思うようになってきたのである。

奇想天外な設定だったり禁断の世界だったり、意外な展開を見せるドラマというのは時に自分が最も苦手に思うモノすら飛び超えてまでもっと見たい知りたいと思ってしまう、実に麻薬性のあるものなのだということに気づいた一件である。
 

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2016-06-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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