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勝利の女神をスマホで買ってみた

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記事:染宮愛子(ライティング・ゼミ)

 

『成功を売る商売』が流行っている。能力、身分、外見、学歴、職歴、居住地、経験、一切不問で、ただ『お金さえ出せば成功を売ってくれる』商売がある。2007年にはわずか4億円規模だったその市場は2015年には5500億円まで膨れ上がり、なおも勢いを増し続けている。

夢破れ、自分の能力に絶望し、周りと比べては劣等感を育て続け、日々諦めどころを探るような人生。成功体験を『必死で思い出さなければ』見つからない人生に疲れ果てた人々に、その商売は優しく誘いかける。

「ありのままのあなたが、今すぐ買える成功がありますよ」

彼らの言葉に嘘はない。本当に、彼らの言う『成功』は買える。

成功したい。できるなら努力せず、苦労せず、泣かず怒らず成長もせず、今すぐこの場で成功したい。お金で買えるなら、成功だって買いたい。口には出さないものの、誰もが抱える願い。その願いに答えてしまうのだ。平等なんか嘘っぱちのこの世界で、限りなく平等な『成功』が買える……さらには成功報酬に好みのイケメンや美女がいるときたら、クラッと来る人が続出するのは自然なことだろう。

 

だから流行る。

ソーシャルゲームという『成功を売る商売』が。

 

ソーシャルゲームというのは、スマホで遊べるゲームの一種だ。パズルやアクション、RPGなど内容はさまざまだが、どれも共通の課金システムを持っている。『ガチャ』という名前のくじ引きシステムだ。このガチャに数十万円をつぎ込む人々を『重課金者』といい、ソーシャルゲーム業界は彼らによって支えられている。

ガチャで当たるものは、大体共通している。露出度の高いイラストや心がとろけそうな甘い声がついたデータだ。ゲームによっては進行に有利になる効果がついていたり、一発逆転の切り札として使えたりする。

それだけ。

現実に何かが動くわけでもないし、家に何かが届くわけでもない。身の回りには何の影響もなく、ゲームの中でちょっと有利になるだけ。パチンコや競馬などのギャンブルは当たればお金が儲かるが、こっちはお金が戻ってくることなどない。

馬鹿げたことと思うだろう。こんなものにお金を費やし、下手したら生活費からカード限度額までつぎ込んでしまうなんて、正気の沙汰とは思えないだろう。

 

でも、そういう人はいる。今、この文章を読んでいるあなたの目の前に。

 

何を隠そう、私がその一人だ。重課金とまでは言わないが、今までに両手で足りるか足りないかぐらいの福沢諭吉をゲームに捧げてきた。望みのカードを引き当てたこともあれば、手に入れるまで引き続けられず終わったこともある。自分の行動を振り返って、後悔がないといえば嘘になる。

 

だから言いきれる。

 

どんなにくだらなくても、どんなにバカバカしくても、他人から見てどれだけ無意味だろうとも、ソーシャルゲームに魅了される人は後を絶たないだろう、と。

 

ソーシャルゲームの『当たり』は、約束された成功だ。

当たりの確率は1%ぐらいなので、とにかくひたすら引き続けることになる。その間にお金が湯水のように消えていき、焦りも出てくるが、この時点では後悔することはない。なぜなら『当たりは逃げない』からだ。『諦めたらそこで試合終了ですよ』という名言があるが、まさにその通り。当たりはいつか必ず来る。5回目か30回目か200回目かは分からないが、来ることだけは確定している。そこまで引き続けるかやめるか、運命の分かれ道はそれだけだ。

見事に当たりを引けば、身体に電撃が走る。体中の血液の温度が3度上昇する。そこまでに重ねた外れの山が超えてきた苦労の跡のようになり、当たりを引き立てる。つぎ込んだ金額が一瞬にして報われ、未来がバラ色の幸せに包まれたような気分になる。何もしていないのに、圧倒的な苦労の果てに栄光を掴み取ったヒーローのような錯覚を起こす。

手に入れたのは、ただのデータ。検索すれば出てくるイラストだ。

でも、そんなことはどうでもいい。

『この私が』『当たりを』『引き当てた』……何者でもない私が、何もできない私が、まるで英雄のような成功を手にした、その事実が輝くのだ。

もちろん、その感覚は長続きしない。10秒で冷める。しかし、スマホの画面には成功の証であるレアカードが映っている。『私はあなたの成功の証人よ』と微笑んでくれる。

その姿を見て、私は満足感に満たされる。そして、新しい当たりが準備されたときに、戦いに飢えた戦士のようにくじ引きに挑んでいくのである。

 

ソーシャルゲームに課金する人が求めているのは、女の子のエッチなイラストでもゲームが有利になるアイテムでもない。『こんな私でも成功できる』という成功体験であり、いつか必ず自分に微笑んでくれる勝利の女神だ。

くじ引き(ガチャ)の当たりは確率で決まる。数本の当たりを奪い合う露天のくじ引きや宝くじと違い、何人でも当たりを引くことができる。ただのくじなので、戦略も何もないし、今の実力も立場も無関係。ギャンブルにはテクニックがあるが、こちらにはそんな気の効いたものはない。抽選は機械がやっているので、人間によるえこひいき、コンディションの確認、調整もいらない。関係するものがあるとしたら運くらい。それすら平等だ。当選確率が決まっている以上、いつかは必ず当たる。

あらゆる人に、平等に『当たりを引く』という成功を約束してくれる。

不平等、不公平、能力差でできたこの世界で、これほどまでに平等な『成功の仕組み』があるだろうか。これほど平等な勝利の女神がいるだろうか。もちろん、出せるお金には限りがあるし、なかなか当たらないこともある。それでも『誰にでも平等な仕組み』なのは揺るぎない事実だ。

 

そりゃ、流行って当然だよなぁ。

成功保証なんて、いまどき悪魔だってしてくれないんだから。

 

本能で求めているのに得られなかった成功を、何とかして手に入れようとしている人々が、ソーシャルゲームで成功を買う。企業は彼らの『魅力的な成功が欲しい』という思いに答えるべく、せっせと報酬を増やしていく。

『お金で買える成功』。負け組だらけのこの世界の、新しい救世主。残酷で魅力的な誘惑に鼻先をくすぐられながら、私は今日もスマホを覗き込んでいる。

 

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2016-06-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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