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メディアグランプリ

カウンターに近づくとなぜかこうなる男子たちの話



記事:Mizuho Yamamoto(ライティング・ゼミ)

「ねぇねぇ、この前僕がリクエストしたあれ来てる?」

「ごめん、あれって何だっけ? なんせ700人以上を相手にしてるからさぁ」

「え~、僕が頼んだあれ忘れたの? ひどいなぁ」

「『都会のトム&ソーヤの5巻』なんだけど」

学校図書館のカウンターでの会話。

私は国語科の教員の仕事と共に、図書館の運営を一人でやっていた。朝、昼休み、放課後カウンターに座って、生徒の対応をするのも仕事だった。

当時私は中学3年生の担当で、図書館でしか出会わない1、2年生は私を「図書館の先生」=司書だと思っていた。

国語の教科書を開いて、カウンターで調べ物をしていると、

「えーっ、先生、国語の授業もやるの? びっくりだなぁ」

3年生の生徒は「何をいまさら」という顔で

「お前ら知らなかったんだ」

大規模校とはこんなもので、教員と生徒が互いを認識していない。自分の学年以外は。

まぁ、1,2年生にとっては図書館のカウンターの中にいるオトナだったんだろう。それも悪くない。

とにかく彼らは、朝からカウンターにやってきては、昨夜の家庭での出来事、今朝の登校時の出来事を話すのだった。なぜか学年を問わず男子が多かった。

カウンター前にわざわざ椅子を運んできて、座り込んで、

「昨日さぁ、兄ちゃんとけんかして、むかつくんだよ、あいつ」

そうそう、この兄弟、廊下で喧嘩したりしてるもんなぁ。

ある時はカウンター前に置いたスツールに座ろうとして、勢い余って、カウンターの角で歯を打って即歯科医に連れていかれた生徒もいた。

養護教諭から、

「図書館でケガしたって一体? それも歯を折ってるし」

不思議がられ事情を話すと、

「男子生徒って、聞いて聞いて! が多いよね」

共感してくれた。ここの学校は、みんな図書館に行くから、保健室は朝も昼も静かで助かると。保健室にはカウンターがないからか?

彼らの話は続く。

「昨日お父さんが駐車場のとこにきて、おこづかいくれたよ」

ん? 母子家庭だといってたのになぁ。この生徒は。

「うちさぁ、離婚してるけどお父さんたまに駐車場まで来たよとメールくれて僕が出ていくとおこづかい渡して帰っていくんだよね」

「へーっ、いいお父さん持ってるなぁ!」

「うちはさぁ、子連れ再婚でさぁ、なんと同い年の女の子といきなり兄妹になった。これやばいんだな、初めての夕食の日なんか、し―んとして気まずくて、ひたすらご飯食べてた」

「で、今は?」

「まぁ、慣れて来たから、ちょっと会話出てきた」

「俺んちももうすぐ再婚するんだけど、やっぱり向こうにも子供がいて、二人姉弟がいきなり倍の四人だよ。そっか、初めての夕食はやっぱ気まずいんだなぁ」

結構子どもながらに、気遣いがあるんだな、子連れ再婚って。

「ねぇ、僕が頼んだあれはいつ来るの?」

「だから、一人ひとりのリクエスト本を覚える頭は持ってないのよね、私。ごめんね」

「えーっ、プロなら覚えるはずだ!」

「そうそう!」

ふと、バーのカウンターが思い浮かんだ。
カウベルを鳴らして入った来た紳士が、おもむろに椅子に座って言う。

「いつものあれを!」

黙ってうなずくマスターは、さっと紳士の言う「いつものあれ」をグラスに注いで差し出す。

そんな展開を期待しているんだろうなぁ、男子たちは。

図書館のカウンターにいると、間違いなくわかることがある。男子は、常連客扱いを望んでいるのだ。

カウンターという装置が、学校の中で唯一心安らぐ場所を演出しているのは間違いなかった。

その点女子はあっさりと、

「私がリクエストした○○は来ましたか?」

と書名を言ってくれる。なんだろうこの違いは?

私がイケメン男子司書だったら、女子が同じような反応をするのだろうか?

「私が予約したあれは戻ってきましたか?」

う~ん、言わない気がする。今度知り合いのイケメン男子司書に聞いてみよう。

朝の読書開始のチャイムが鳴るぎりぎりまで彼らは、カウンター前にいる。

「教室行きたくないなぁ、宿題してねえし」

「1時間目から数学だよ、最悪!」

きっとこの子たち10年もしたらバーのカウンターで、

「明日、会社行きたくねえなぁ」

「課長の顔見たくねぇ」

なんてつぶやき、マスターに、

「世の中つらいことだらけですよね。お互いに」

なんて言われているのだろう。

「はいはい、今日も元気に頑張ろう!」

私の場合は、生徒を追い出したらすぐに、自分も教室に走って、廊下で朝読書中の5クラスをひとりで見ていた。

廊下を二宮金次郎みたいに歩きながら読書しつつ、教室で読書する200人を見て回る。

さっき図書館でぐだぐだ言っていた男子も、ちゃんと本を読んでいる。そう、やれるんだけどちょっと愚痴りたい。そういう生徒にはカウンターという装置がうってつけなのだろう。

常連でない生徒が、カウンターに来るのは貸出の手続きの時だけだ。あとは奥の閲覧机で読書をする。

カウンター族は、とにかく読書をするのもカウンター回りだ。

もしも天狼院に図書館仕様のカウンターがあったなら、周りにわざわざ椅子を運んで話をしそうな昔男子の顔が浮かんでくる。

しかし、カウンターに店主が座ると、さーっと昔男子は散ってしまいそうな予感。

あっ、女子は集まってくるかなぁ?

 

***
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2016-07-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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