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幽霊屋敷から早く出たい


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記事:のんのんの旅(ライテイング・ゼミ2月コース)
 
 
「死にたくない。できれば見たくない、自分も死にたくないから」
白髪の医師が、涙ながらに訴えた。
コロナ感染症が、ついに日本に上陸した2年前のことである。
 
「自分はどうなのか?」
心の中で、何度も自分の気持ちを確かめた。
 
覚悟したつもりでも、初めて防御服を着る時、手には汗がじっとりしたことを覚えている。
マスクに何度も隙間がないかを確かめていた。
やっぱり自分も怖かったのである。
 
おそらく、多くの医師が同じ状況であったと思う。
なぜなら、誰も分かっていないウイルスであったから。
本当に、自分も感染しないという保証はなかったから。
医師だって怖いのである。
そして、毎日現場で濃厚なケアをする看護師の恐怖はもっと大きかっただろう。
 
あれから2年、すでにコロナ第6波である。
日本でも全面的に蔓延防止策が解除される。
今では、多くの若者は、感染しても軽症だからと緊張感は完全に薄れている。
感染を自覚しても積極的に検査をしているとは思えない。
無症状の感染者もかなりの数になるだろう。
公表されている以上に、感染者の数は多いだろう。
 
当初は、クラスターが院内で発生すれば、院内の感染管理体制を猛烈に責められた。
連日院内クラスター報道がマスコミを賑わせた。
医療者といっても経験もしたこともないウイルスなのに。
 
今では、どこからウイルスが侵入しているかは分からない。
ワクチンを接種していない、こどもの感染を完全に防ぐことは不可能である。
オミクロン株は、家族内感染のリスクは極めて高い。
医療者にも家族がいる。
だから、院内に感染を持ち込まないことは極めて難しい。
毎日、細心の注意を払う日々が続く。
 
子供の頃、はじめて体験した遊園地の幽霊屋敷を思い出す。
入り口から、すでに怖そうな建物である。
子供にとって、幽霊は見たことのない未知の世界である。
本当に幽霊がいるのか、いないのか、子供は半信半疑で幽霊屋敷に入る。
「大丈夫、すぐに終わるから」 という、親の言葉を信じる。
そろりそろりと真っ暗な通路を歩く。
親の手をギュッと握りしめ、うっすらと目を開けながらすすむ。
何が起こるか分からない。
とにかく、早く出たい一心で、何度も大声を出しながら、体験した幽霊屋敷。
 
最初に中国での報道があった時に、日本中の病院で警戒心が日に日に高まっていった。
一例も日本で感染が確認されていないにも関わらず、なんとも言えない空気が流れていた。
家に帰って話すと、家族からは相手にもされない。
中国のことで、日本のことではない。
他人事である。多くの日本人が当初は同様だったであろう。
 
ウクライナとロシアの戦争。
これも、多くの日本人にとっては、関係のない戦争かもしれない。
遠く離れた国で起きている戦争だから。
本当だろうか?
自分たちが思っているより、世界はつながっている。
コロナの感染があっという間に世界に広がったように、この戦争も世界に広がっても不思議はない。
 
コロナの感染も、戦争も、そして幽霊屋敷も同様である。
これから何が起こるか予測できない恐怖。
先が見通せない恐怖。
どの国で生まれても、どの国で育っても、大人になっても、医療者であっても、初めての体験は怖いのである。
 
幽霊屋敷では泣きながらも、何とかゴールにたどりつければ日常に戻ることができた。
今回のコロナ感染は、まだまだ新種の幽霊が出現しそうだ。
そのたびに、チームで、地域で手を握り締めながら日常の医療現場に戻ることを模索し続けるしかない。
 
医療の現場が厄介なのは、幽霊だけを相手にするわけではないことだ。
コロナという幽霊を相手にすると同時に、日常の世界にも対処しなければいけない。
現場には、コロナ患者以外にも、常に生命の危機に直面している患者がいるのである。
コロナの診療と日常の診療の両立。
思っているより、難しい。
 
ウクライナとロシアの戦争では、ゼレンスキー大統領が必死に世界に助けを求めている。
手を握ってくれる国の支援を求めている。
幽霊屋敷で小さな子供が親の手を握りしめるように。
その手を握りしめるか、突き放すかは、世界のリーダーの意思次第である。
いや、われわれの意思次第かもしれない。
 
アフターコロナがどうなるかは、世界中の誰も解を持っていない。
確かなことは、後戻りはできないということ。
強制的に世界は変えられた。
しばらくは、ウイズコロナが続きそうだ。
 
白髪の医師の涙は、死に対する恐怖である。
誰も経験したことのない、未知のウイルスに対峙することに対する恐怖である。
間違いなく、年齢に比例して感染による重症度は高くなる。
この客観的事実は2年以上の経過でより一層明らかになってきた。
 
2022年3月15日現在、日本国内の死者数は24,899名である。
そのうち50歳以上は98.1%に及ぶ。
医師も高齢化がすすんでいる。
白髪が増えてきた自分の頭を眺める。
まだまだ、幽霊屋敷から出られる日は遠そうだ。
未知の変異株が、まだまだ暗闇である未来の途中で、われわれを驚かそうとしている。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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