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『世界一難しい恋』と、突然できた小さな食堂



記事:まみむめ もとこ(ライティング・ゼミ)

あるとき地元に、突然小さな食堂ができた。
しかしここはとても田舎の常識では考えられない、ヘンテコなご飯屋さんだった。営業は昼のみ。そしてメニューは“日替わり定食”1種類のみ。若い女店主が一人で切り盛りするこの食堂。地元のおじちゃんやおばちゃんはとっても戸惑った。だってご飯屋といえば、蕎麦屋、洋食屋、ラーメン屋、寿司屋と相場が決まっている。どのカテゴリーにも属さない、このよくわからない“食事処”はいったい何なんだろう?
みんな興味はあるが、店内に入る勇気がない。そのかわり「1年も、もたないで潰れるだろう」という、ウワサだけが町中を駆け巡っていた。

しかし3年後、ここは地元の人が集まる食堂になっていた。ランチタイムはいつも満員御礼。その秘密は、ズバリ1種類しかない日替わり定食の、品数の豊富さと丁寧な仕事にある。定食といえばメインがあり、その横に冷奴や、納豆など食材を切って並べるだけの小鉢が2個ぐらいつくのが定番のスタイル。だがここの定食は違だった。
例えばある日のメニューを紹介すると“チンヂォロースー”、“はるさめサラダ”、“ピリ辛茄子のオムレツ”、“ほうれん草のキッシュ”、“スープギョーザ”。どれもメインとして成立する料理ばかり。これがお皿に盛られてやってくるのが、この食堂だ。
しかも一応、メインとされている“チンジャオロースー”は定食屋さんのそれと比べると、やや少なめ。でもその分、ほかの献立は付け合わせというにはボリュームがあって存在感をアピール。しかもどれもちゃんと手作りで、時間をかけて丁寧に作られているのがわかる。どの料理もみんなアツアツで、作り置きではない出来立てほやほや。メインや小鉢など、そんな境界なんて存在しないここの定食は、地元の老若男女、みんなに受け入れられた。

さて2016年4月から始まったドラマも、この6月で最終回を迎える。その中で高視聴率をマークした『世界一難しい恋』(日本テレビ系)。主演は人気グループ“嵐”のリーダー大野智。そして相手役にはNHKの朝ドラ『あさが来た』でヒロインを演じた波留。
大野演じる鮫島零治は、若きホテルチェーンの社長。彼は自分のホテルで働く波留こと柴山美咲に恋をしたことから物語は始まる。ビジネスマンとしては有能だが、恋愛偏差値は0の鮫島の行動は、滑稽で笑える。
しかしそこに運転手の杉本哲太、秘書の小池栄子、そしてライバルホテル社長の北村一輝らが、ためになる? アドバイスをしては、鮫島の恋を助けてくれるラブコメディ。
このドラマを知らない人がここまで読むと「よくある話しみたいだけれど、本当に面白いの?」と聞きたくなるはず。その通り。このシンプルな物語は、もう手垢がつくぐらい同じようなものが作られている。ちょっと前なら『101回目のプロポーズ』。そして最近では女が男を追いまくる『のだめカンタービレ』もそのパターンではないだろうか。きっと少し昔ならこのパターンだけでも十分に視聴率はとれたはず。アイドルや、人気の女優を使えば視聴者は食いつき、高視聴率がついてきたはずだ。

しかし最近はこれだけで視聴率をとるのは難しい。その証拠に、今クールで放送された月9の福山雅治主演『ラブソング』は残念ながら惨敗だった。福山はプライベートで結婚したとはいえ、まだまだカッコイイ。そんな彼が恋愛ドラマのセオリー通り「好きだ、嫌いだ、すれ違いの胸キュンだ!」とがんばったのだから、視聴率1桁なんてことはないはずだと、関係者は思ったに違いない。でも蓋を開けてみたら、ビックリポンな時代が飛び出し、見事に恋愛ドラマの王道、フジテレビの月9神話が崩壊した。この手法では、もう通じない時代がやってきているようだ。

ではこの『世界一難しい恋』の成功はなにか? と考えると、ずばり脇を固める芸達者な役者たちではないだろうか。個性あふれる彼らの芝居は、主人公たちをドラマティックにするためのサポートというだけではなく、彼ら、彼女たちだけでも面白く、見せ場もしっかりつくっている。そして主演の大野や波留を盛り上げつつも、杉本や小池、北村が十二分に存在感を主張し、このドラマのアクセントとして大暴れしているのも要因だ。そして脇役が物語の箸休めではなく、大野と波留のラブストーリーがなくても「もしかしたら楽しめるかも?」と、思えるぐらい勢いを感じた。だからラブストーリーだけでない、ドラマがいっぱい詰まっていて、物語に膨らみが生まれた。その丁寧な作り方が、高視聴率につながったと思う。

また最近は『踊る大捜査線』『相棒』など刑事ドラマでは、スピンオフドラマを作るのが流行っている。恋愛ドラマではまだ珍しいが、もしかすると『世界一難しい恋』は、そこまで見据えて企画されたドラマではないと思っている。登場人物それぞれドラマがあって、そこに物語が幾重にも紡がれ、絡まり、進んでいくのが今は視聴者に受けるようだ。

そして話しはまた元にもどって、定食の世界でもドラマと同じ現象が起きているのではないか。定食屋の『アジフライ定食』のアジが福山雅治だとしたら、あとの出演者は添え物の冷奴や納豆の扱い。しかしそれでは、もうお客は飽きてしまって、足を運んでくれない。
これからは『世界一難しい恋』のように、メインとして主張しつつも、そこに控える献立も、それぞれがきちんと主菜として成立するような、そんなスタイルがうけはじめている。

 

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2016-07-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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