満員電車の戦いに勝つには?
記事:大友(ライティングゼミ)
通勤時間帯の駅のホームや満員電車は,朝も夜もそれぞれ独特の雰囲気で満ちている。朝は,これからつらい一日が始まるという重苦しい空気で覆われている。観光客がいるとまた雰囲気は変わってくるのだが,サラリーマンしかいないとほぼ確実に空気は重たい。一方,夜の満員電車では,ストレス解消のために飲んだくれてぐったりした人たちも含め,人々がすし詰めになって,家々へ向かって運ばれていく。「もう限界! 一刻も早く家に帰りたい!」という無気力感が車内から感じられる。
そんな中,満員電車内で特にストレスが大きいのは,赤の他人と密着させられることだ。開放感とはほど遠い。たとえ奇跡的に座れたとしても隣の人が爆睡して,肩にもたれかかってくるときなどは最大の悲劇で,他のことが何も考えられなくなるくらい心が乱される。「肩を動かして,押し返そうか? せっかく押し返したのに,何故か同じ方向にまた倒れてきた! なんで?」そう思ったことがある人は少なくないはずだ。立っている場合では,他人と顔が向き合わなければならない状況が結構つらい。どこをみていいかわからずとてつもなく居心地が悪い。
ある日,これらの重苦しい雰囲気とは別の雰囲気を感じることがあった。それは小田急線の新宿始発の電車の列に並んでいるときであった。私はその電車に乗るのがはじめてで,勝手がわかっていなかったから,大きな失敗を犯したことに数分後に気がついた。電車のドアが開いたとたんに,ものすごい勢いでそれまで整然と並んでいた人達が人が変わったように車内になだれ込み,席が一瞬にして埋まったのだ! たくさんのボールがごろごろと一気に坂を転がりおちて,区切られたマスに奥から順にパコパコっとはまっていく感じであった。私は,周りの人と同じくらいの気合があれば座れたであろう位置に並んでいたのだが,完全に出遅れたというか,のんびりかまえすぎて,その一瞬のうちに行われた戦争に惨敗したのだった。確かに,ここでこの戦いに勝つか負けるかで,満員電車の中でつぶされるように30分以上過ごすのか,席に座って夢の世界に旅立つのか,運命が大きく別れてしまうのだ。その出来事があってから,その電車に乗るのが少し怖くなった。ドアが開く前から,この人とこの人はこっちにいきそうだな,とか,あの人がもしこっちにいったら私はこっちに進もうとか,シミュレーションまでするようになった。そこまで考えても戦いに敗れることもあった。
始発の際の熾烈な戦いの話をしたが,途中下車の戦いのエピソードもある。友人は自分は,途中下車だけど,座る方法というのを編み出しているといっていた。当時,空いている電車に悠々と乗っていた私は,その友人のことを必死すぎる! と内心思っていたのだが,この新宿の出来事のことを思い出すと,その必死さも理解できる。
その友人の秘策とは? それは,人間観察による手法だった。毎日同じ車両に乗ることによって,座っているけれど途中駅で降りる人の顔を覚えるというのだ! しかも,一人だと確率が下がるので何人かの情報をもっているという。そして,その降りる人の前に立つ。そうすればかなりの確率で座れるというわけだ。みんな,真剣そのものだ!
ただ,そこで安心してはいけないのだ。降りる人の前に立ったとしても,必ず座れるとは限らない。なぜなら,私自身も体験したことがあるのだが,両脇に立っている人もその席をねらっている! そして隙あらば座ろうと狙っているからだ。私があるとき,目の前の席が空いたときに,のんびりとした動作で席に座ろうとしたのだが,目にもとまらぬ早さで左の人が身体をすべりこませ,席に座ってしまったことがあった。そのときのショックは言い表せないものだ。そこまでするか? という,あきれる気持ちが湧き上がり,呆然と立ち尽くした。しかも,私自身は座ろうとする動きをスタートさせていたから動作が中途半端となり,格好悪い感じになってしまった。格好悪さを気にする人は,そこまであからさまな行動には出る人はあまりいないが,ある種の人たちは,その辺の羞恥心はとっくに捨て去っているので,油断は全くできないのだ!
その逆バージョンを体験する機会があった。先日電車に乗っていて,
「なんだこの人は! どいてよ!」といいたくなる場面に遭遇した。私が席に座っており,降りる駅がきたので,立ち上がった。だけど,前にたっている人が普通は一歩下がるか,横に少し避けて道をあけてくれるものなのだが,ピクリとも動かないのだ。おそらく私が座った席をなんとしてでもゲットするべく,ガンとして動かないつもりなのだろう。仁王立ちのように立ったその人は全く微動だにしないので仕方なくその横に私は身体をすべりこませて,なんとかその電車を降りることができたのだった。全くもって,電車は戦場だ!
でも,こんな電車だけれども,悪いことだけではないのかもしれない。自分自身は体験したことはないが,もし好意をもっている異性と一緒になったとき,隣に座れたりしたら,特別な理由なく相手の体温を感じるくらいに密着できるだろうし,向かい合って立つことになったら壁ドンなみに接近できるだろう。そんな,楽しいこともたまにはあれば,よりよい電車ライフを送れるようになるかもしれない。
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