あの公園はトイレの位置が悪い
記事:のんさ~ん!さま(ライティングゼミ)
ある日私は、お昼ご飯を食べようと小さな公園にやってきた。飲食店や住宅街が入り混じった雑多な場所にあるこの公園は、砂場の真ん中にポカンと空洞が空いているような空間である。その公園のベンチに座って私は一人、お弁当を食べ始めた。話し相手もいないので、まっすぐ正面を向いて鮭や唐揚げ、煮物、そしてご飯がたっぷりと入っている和食テイストの、見るからにおいしそうな弁当を食べ始めた。
「もぐもぐもぐもぐ……うえっ」
ご飯はおいしい。だが、おいしいはずのご飯を食べる食欲が一気に失せた。なぜなら、私の数メートル先に公園のトイレがあったからだ。トイレがあるだけならまだマシだ。耐えられないのは、男性が用を足しているところがちょうど見えてしまうことだ。これは食事をとる人にとっては一番見てはならないはずのものである。
私は、一口目にして、ものすごく不快な気持ちになった。本当にがっくりである。それから何人もの男性が用を足しに来てすっきりして出ていった。私がご飯を食べている30分という間に、この公園に一体どれくらいの男性たちがやってきただろう。おそらく20人はこの公園のトイレに入って出ていった。いやそれ以上だったかもしれない。本当にたくさんの男性がやってくるのだ。そういうわけで、どんなに気にしないようにしていても、気になってしまい、チラチラと視線がトイレへとむかってしまう。どうしたものか。
見たくないのに、様々な方向から男性がそのトイレへ向かって用を足しに行くので、いやでも気になってしまうのである。
正面を向かないために、空を見上げてみたりした。なかなかいい景色である。木々が茂っているところもあれば、高いビルが立ち並んでいて、ビルの側面にある飲食店の看板が目に入り、あんなところに店があったのか、行ってみたいと、ふと考える。かと思えば、スーツ姿の男性が公園中に響くくらい大きな声で「待ってー! 待ってくれー!」と公園に面した道路を全力で走りながら必死に叫ぶので、子供と公園に来ていたお母さんも驚いていた。どうやらその男性はあるトラックを追いかけていたらしい。運転手が幸いそれに気づいたため、事態は収束にむかったようだ。
私の思考がぐるぐる回り始め、丸くつながり始めた。この公園のトイレの位置は悪い。あるいはこの公園のベンチの位置が悪い。この公園の設計者は何を考えてここにベンチやトイレ、遊具などを配置していったのだろうか。
まず、この公園の周りには幼稚園やマンションが立ち並ぶため、親子がここに遊びに来て、ベンチに座り、ちょっとしたピクニックをすることは多いだろう。さらに、飲食店も密集しているため、納品物を配送してきた業者の人や、タクシーの運転手などは公園に面した道路にある駐車スペースに車を止め、業務のついでにこの公園のトイレに立ち寄るのだ。この行動パターンはほぼ明確で、というのも、そういう視点を持つようになってから、この公園を通るたびにその視点で人間観察をするようになったからである。
このことをおそらく設計者は知らなかったのではないか。そして、こんな不愉快な思いをしたのは、私だけではないはずだ。だから私は、食事中に用を足すところを見てしまった被害者の一人として、せめてこう言いたい。ベンチを置く場所を決めたならば、一度そこで弁当を食べてみるべきだ、と。そうすれば、トイレの位置を変えなければ、とか、ベンチの角度をもう少し変えよう、とか、遊具で目隠しをしようとか、思いついたはずである。少なくとも真正面にトイレが来ることはない。ましてや用を足しているところが見えることなど、絶対にない。
何度も繰り返すが、食べるということに幸せをとてつもなく感じる私にとって、食事中に用を足すところが見えるというのはとんでもなく許しがたい事態であるのだが、千歩譲って良かったといえることがあるとすれば、この何気ない日常環境の中から、公園を設計する時の一つの視点を学べたということである。
今回の思考の始まりは、公園の位置が悪いことだった。これは、何気ない日常にちょっとした違和感を見つけると、様々な視点が見えてきて、思考回路がぐるぐると回りだすということである。とすれば、私にもその技術が、少しずつではあるが身に付いてきているのかもしれない。そう思うと、さっきのトイレのことは忘れてしまって、ちょっとだけ嬉しい気持ちになった。
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