Happyな伯母さんの話 「夏の戦争は大変よね~」編
記事:Mizuho Yamamotoさま(ライティング・ゼミ)
どうにか頑張って時間を作って訪れたのに、
いつものテレビの前のソファーの特等席に、
伯母の姿はなかった。あれ~???
老人ホームの職員さんが、私を見つけて、
「伯母さんは風邪をひかれて、部屋で休ん
でいらっしゃいますよ」
このホームに入所して1年が過ぎたが、伯
母が部屋で休んでいるのは初めてだった。
いつもテレビの前のソファーの特等席で、
「世の中には悪い人がいるもんだ!」
とサスペンスドラマを見ながら、つぶやい
ているのに。
部屋をのぞくと伯母は、ぽっかりと口を開
けて寝入っていた。こうして見ると、いつ
もの美貌も台無しのただのおばあちゃんで
あることにびっくりの私。
「ほら、来たよ! 起きて!」
「あらぁ、来てくれたんだぁ! 戦争はいや
ねぇ」
目を覚ました伯母は、何を今見ているのか?
話題は突然「戦争」一色だった。
ま、いいか! 伯母と一緒に時空をさまよっ
てみることにした。
「ねぇ、夏は暑いからね!」
「兵隊さんは。大変ねぇ。暑いのに背中には
結納しょって!」
「ん? それってさぁ、背嚢でしょ!?」
「わははは、結納は結婚前に貰うものだった」
やっぱり楽しい伯母。
「この暑い夏に汗かいてもね、シャワーも浴
びられんしね、ろくなもの食べられんしね」
「そうそう、うちのお父さんが言ってたよ!
戦時中、兵士はね、糧は敵にありって、自分
の国で用意しないで、よそから略奪すること
にしてたんだって」
「よっそわ~し!!! 日本ひどかね~」
佐世保弁の「よっそわし」とは、「ひどいね
、汚いね」の意。
「日本負けて当たり前よね!夏に戦争するも
んじゃなか。鉄砲もね、持ってみたら重かっ
た。私じゃ持ち上がらんやった。それを持っ
て結納しょってあるくのはつらかよね」
「はいはい、背嚢ね!」
「あら、また間違えた! ふふふ」
「だいたいね、竹やり訓練とか意味ないしね。
こんなもんで飛行機とは戦えんって、女学生
同士でこそこそ話しよった」
風邪をひいて寝ていた伯母は、おそらく戦時
中の夢を見ていたのだろう。
「暑いのにさぁ、兵隊さんはね、足にはぐる
ぐる巻いて」
「あっ、ゲートル?」
「そうそう! みんな汗びっしょりでジャン
グルの中をあるいて」
「気の毒だったなぁ、兵隊さん。夏に戦争す
るもんじゃない」
伯母が戦時中にいたのは満州の大連だった。
まじめを絵にかいたような両親のもとに生ま
れたのに、女学生でロシアの士官と仲良くな
って、なぜかロシア基地に入るパスまで持っ
ていたらしい。
あまりの自由奔放さに、家に連れ戻され2階
に親から軟禁されたら、兵児帯をつないで窓
から脱出したという猛者の伯母だった。
5歳下のこれまたまじめだった私の母は、2
階からぶら下がった兵児帯が風に揺れる様子
が目に浮かぶ~とよく話していた。
だからジャングルの兵隊さんなんて、知るは
ずもないのだけれど。
「戦争はね、兵隊さんが大変だからしちゃい
かん」
完全に戦争の夏バージョンの伯母と同じ時空
をさまようのは、なかなかの知識が必要だっ
た。
「おまけにね、頭にかぶってるのが暑くてさ」
「ああ、ヘルメットね!」
「鉄兜は、暑かろう」
「戦争は夏にするもんじゃない」
ひょっとしたら、今の日本が戦前の状態に似
ていて、戦争への足音が伯母には聞こえてい
るのかもしれないと疑ってみたり。
そこへ、
「はい、おやつですよ!」
バームクーヘンをお皿に入れて、介護士さん
が、持ってきてくれた。
ウインクする伯母。
だいたい、86歳のおばあちゃんは、ウイン
クなんてしないんだけどなぁと思いつつ。そ
ういえば、小さいころ伯母の家に行くとほっ
ぺにいっぱいチューされて、キスマーク(当
時そんな言葉は知らなかったけれど)つけら
れ辟易したっけ。従姉一同みんな。
なんせ、
「ズドラーストビーチェ」
突然ロシア語でご挨拶の人だからなぁ。
「おやつ半分こしよう!」
伯母に言われて、半分に分けたバームクーヘ
ンを一緒に食べた。
「おいしいねぇ、兵隊さんに悪いなぁ」
しきりに気にする伯母。
「兵隊さんは頑張ってるのに、暑い中を歩い
て、ただ歩いて」
「なんもしとらんでも、上官に殴られてね。
兵隊さんは気の毒だ」
「夏の戦争はいかんねぇ」
ともに時空を漂いながら、暑い夏に汗だくで
食べ物もなく、ただただ歩いていた兵隊さん
を思うと、戦争はいかんと心から思う。
「平和が一番やけんね」
「戦争はいかん」
なぜか、その日の伯母の頭の中には、そのこ
としかなかった。
そして迎えた参議院選挙の結果を見て、伯母
のいっていたことは、案外今の世の中を見て
のことかもしれないと思うのだった。
そういいながら伯母は、私のネックレスを見
て、
「それは私のほうが似合いそうだから、私に
やりなさいよ!」
などと言い出す。
私ももう少ししたら、こんなHappyな伯母
さんになれるだろうか?
なんだか怪しい方向に、我が国が世界が動い
ているように感じられる中、伯母のようにた
くましく、そしてHappyに生きていたいも
のだと、暑い夏に思うのだった。
***
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