メディアグランプリ

1杯1200円のコーヒー


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山本のぞみ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「えっ、あれ?うそでしょ?」
一杯のホットコーヒーを飲んで、こんな驚きの声を上げたことがあるだろうか。
私はこのゴールデンウィークに、魔法のようなコーヒーと出会ってしまった。
 
前回沖縄を旅行した時は、まだ長女が産まれていなかった。
ミニ新婚旅行として、夫と2人、定番の観光スポットを巡った。
数年前に焼失してしまった首里城も、偶然とはいえあのタイミングで見ておくことができて本当に良かったと思う。
 
あれから5年経ち、長女は4歳、次女は2歳となった。
たまたまゴールデンウィークのタイミングでホテルの予約が取れたことから、少し早い夏を感じる旅行に出かけたのだ。
 
前回の大人2人の旅行とは違い、今回は子どもがいる。
コロナの感染リスクを少しでも下げたいので、なるべく本島の北側でのんびり過ごすことにした。とは言え子供連れの旅では、子どもが楽しめる観光スポットが中心だった。
 
美ら海水族館、瀬底島の砂浜、リゾートホテル内のプール、
そして3日目、この日は特別な予定を何も入れなかった。
「うーん、どうする?道の駅とか行ってみる?」
ガイドブックはもう何度も見返しているが、なかなかピンとくる行先が見つからなかった。
グーグルマップを見ながら、悩んでいると、ふと知り合いから聞いた「コーヒー農園」の話を思い出した。
実は、日本で唯一コーヒー豆を栽培できるのが沖縄県だ。
知り合いがかつて、自分の店で出すコーヒー豆を探して沖縄に滞在していた体験談を聞いたことを思いだしたのだ。
 
すぐに地図で調べる。
……あった。口コミはそれほど多くないが、滞在しているホテルから車で30分ほどの距離だ。ホテルの従業員から聞いたお勧めの「道の駅」も比較的近く、ここだったら道すがら楽しめることもあるだろう。
早速、開園時間に向けて、家族4人レンタカーで出発した。
 
グーグルの口コミではかなりの高評価である。会社にもコーヒー好きがたくさんいるので良いお土産が買えるかもしれない。ワクワクしながら道を進めた。
 
この日は、少し曇りがちなお天気だった。
晴れた日ほどではないものの、沖縄の海は綺麗だ。海沿いの道を車で走らせるのはとても気持ちが良かった。
目的地まであと数キロというところで、海沿いから一転山道へと変わった。
亜熱帯の気候は、普段見なれた山の景色とは異なる。ヤシの木の一種なのか、鋭い葉っぱの生えた木々が生い茂り、自生していると思われるパパイヤの青い実が、それこそ異国の雰囲気を漂わせている。
 
山道を進むと、どんどん車幅が狭くなる。
「道大丈夫かな?本当にここいける?」
そんなやりとりを何度かする。
こんな旅行者の不安を察してか、「〇〇コーヒー園 0.6キロ」と小さく看板が出ていた。
それから所々に設置されている看板を頼りに、恐る恐る山道を登っていった。
車がすれ違うには厳しいくらいまで車幅が狭くなっている。
 
生い茂る木々の中に、その農園は現れた。
 
敷地内に入ると、先客の車が2台ほど停まっていることに安堵した。
「あぁ、ここで合ってるわ」
 
車から降りるとそこは、まるで熱帯地方のジャングルを思わせる農園だった。
もちろん、コーヒーの木を栽培しているエリアは開けているが、それを取り囲む木々のうっそうとした状態は、沖縄に来ていることさえも忘れそうになるほどだった。
 
農園に入ると小さな小屋がある。私たちが到着したことを察した若い男性の店員が外まで出迎えてくれた。
軽く挨拶をして、小屋の方へ進んでいくと、小屋と隣接するウッドデッキに、ジャングルを眺めながら休憩できるカフェスペースが4席ほど設けられていた。
 
促されるままに小屋へと足を進めた。
道中、山道が不安だったという話をすると店員は笑っていた。つい2日ほど前に看板を設置したところだったそうだ。あの看板が無ければ、確実に私たちは道の途中で引き返していただろう。
 
「あちらのスペースでコーヒー飲めますけど、飲んでいかれますか?」
「はい、飲みます!」
「では、こちらがメニューです。ここの農園で取れた豆も出していますし、海外産のものもありますので、お好みで選んでくださいね」
 
せっかくここまで来たんだから、そりゃあこの農園オリジナルがいいよね!
そう思いながらメニューに目をやる
 
〇〇コーヒー園 オリジナル 1200円
 
たっかっ!!
いや、でも、せっかくここまで来たし、これ飲まないわけにはいかないでしょうよ。
「……じゃあ、あの、オリジナルのを……ホットでお願いします」
 
一杯1200円のコーヒー。皆さんは飲んだことがあるだろうか。
一体どんな味がするのか。観光客向けのお値段設定なのか。
まぁ、旅先での出会いは良くも悪くも思い出だから、失敗しても勉強料だよね。
 
コーヒーを淹れる間、最近開花したコーヒーの花を見学させてもらった。
白くて小さくて、可愛い花がいくつも木に咲いていた。子供たちは、農園で飼っている犬と猫に夢中だ。そういえば、独身の時から育てていた「コーヒーの木」を、下の子の出産で実家に帰っている間に夫が枯らしてしまったっけ。
そんなどうでもいいことを考えているうちに、コーヒーの準備が整った。
 
農園オリジナルのカップに入れられたコーヒー、見た目はもちろん普通の代物である。
おもむろに香りを嗅ぎ、一口啜ってみる。
 
「あれ? えっ?」
なんだ、これ。
 
そしてもうひと口。
「うそでしょ? なにこれ? ちょっと飲んでみてよ! 信じられない!!」
そう言って夫に手渡す。私は語彙力を失った。
 
それは、これまでの概念を軽々と覆すものだった。
優しい口当たり、雑味が一切ないスッキリとして、最後には甘味が残る。
コーヒーに違いないのだが、今まで数えきれないほど飲んできたコーヒーとは各段に違う。紛れもなく格別な一杯と、私は出会ってしまったのだ。
 
ジャングルの中にある、白い花の咲くコーヒー農園で飲んだこの特別なコーヒー、
今までの人生の中で間違いなく最も高価な、そして最も美味しい、特別な体験となった。
「美味しい」という言葉では足りない大きな感動がそこにあった。
 
子ども連れの旅はどうしても子どもが主役になってしまう。
子どもが楽しんでいるところを見ると私も嬉しい。ただ、自分自身の満足度というと少し物足りなさがあったのも事実だった。
今回の旅行では、それを埋めてくれるのが今回の一杯のコーヒーだった。
 
この感動は、空港から自宅へ戻る車の中までフワフワと私の中に残っていた。
感動的なあの体験を夫と共有しつつ、思い出してはまだ微かに興奮する。
そして、道中のサービスエリア、眠気覚ましにいつも飲んでいるコーヒを買った。
 
「あ、まっず!」
舌が肥えるというのは、割と不幸なことなのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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