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死がふたりを分かつまで


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記事:小桜(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
その緑色の生き物が初めて我が家にやってきたのは、私が大学生の頃だった。
和名:コザクラインコ
英名:Rosyfaced Lovebird
オウム目インコ科ボタンインコ属の鳥である。
 
なぜ我が家に来ることになったかというと、きっかけは姉の引っ越しだった。
もともと海外で生活していた姉が飼っていたのだが、別の国へ移住するため実家で引き取ることになったのだ。
犬を飼ったことはあったが、鳥は初めてである。
なんともユーモラスな、2頭身の生き物との生活が始まった。
 
飼ってみると、いろんな発見があった。
インコはとても愛情深い生き物である。特にコザクラインコはラブバードと呼ばれ、オスメス問わず、ペアになるとベッタリの関係になる。
 
感情表現も豊かだ。ただしインコに表情筋はない。なので無表情。これは空を飛ぶために体を軽量化する方向で進化したためだ。羽を動かす筋肉は存分に発達させたが、ただでさえ重量のある筋肉を顔にまで張りめぐらすわけにはいかなかったのだろう。
だがイコール感情がないわけではない。怒るとくちばしを開けて威嚇してくるし、甘えたいときはうっとり目を閉じて人間にすり寄ってくる。だがこれは個体差による。同じ種類でも性格は十鳥十色だ。
 
そして驚いたことに、意外と飛ばない。羽があるのに、徒歩で移動するのだ。もしくは人間を呼んでタクシー代わりに使ったりもする。
 
私はすぐにインコの虜になった。家族みんなが口を揃えて言った。「鳥がこんなにかわいいなんて!」そしてそのインコから、私はパートナー認定を受けた。
 
インコのフワフワの羽毛に包まれた体は、側にいてくれるだけで癒された。インコの平熱は40℃前後あり、人間のそれよりも高い。そして眠くなってくるとさらに体温は上がり、まるで赤ん坊のように足に熱を帯びてくる。その様子がこれまたとても愛らしい。
 
インコの匂いも癖になるアロマだ。ひえ・あわ・きびなどのシード類を主食としているからか、炒った穀物のような香ばしい匂い、はたまたお日様に干した布団のような香りがする。
自分の掌でまったりしているときは、インコアロマを思う存分吸い込むチャンスだ。
 
そんなインコなしでは考えられない生活を7年くらい過ごした頃、インコが突然体調を崩した。
きっかけは……、いろいろ振り返ってみても思い当たるものがなかった。
 
突然ご飯を吐くようになり、体重が減っていった。
数日様子を見てもよくならない。近所の動物病院に連れこんだ。それでも原因はわからない。
鳥は哺乳類と違い体の構造も複雑で、犬や猫の獣医療と比べると後れをとっていた。
 
一向によくならないので、人伝に聞いた鳥専門病院に藁をもつかむ思いで車を走らせた。
だがそこでも治療という治療はできず、自力で食べられないので強制給仕をしたり、ホメオバシーを施すのみだった。
体重減少は止まらず、体力も落ちてくるので体温が下がっていった。
首元に寄ってきたらポカポカと温もりを分けてくれていた愛鳥を、今度は私が温めるようになった。
 
こうした闘病生活が半年近く続いたある日。
それは1月の寒い夜だった。
体温が低い愛鳥を温めるため、夜はひよこ電球と電気ストーブをインコの傍に置いて温度を保つようにしていた。
その頃にはもう足の力も弱くなっていたので、止まり木はすべて外して床にうずくまるように寝ていた。私もその横でうとうとと眠っていた。
 
夜中の3時くらいだっただろうか。ふと虫の知らせで目が覚めた。
嫌な予感がして愛鳥を覗き込む。「バサバサッ! バサバサッ!」
いつもは頼りなげに目を閉じてふらふらと眠っている愛鳥が、突然羽ばたき始めたのだ。
その瞬間、切れかかった電球が、最後の力を振り絞るかのようにピカッと光る様子が思い浮かんだ。
 
「いっちゃだめ!」
咄嗟に愛鳥を抱きしめた。
それでも羽ばたくことをやめずに、しばらくしてはたと動きが止まった。
 
それからどのくらい時間が経っただろうか。家族もみな集まっていたと思う。
私は声を押し殺して泣いた。
泣いて泣いて、泣き疲れて、愛鳥の亡骸を抱えていつの間にか眠ってしまっていた。
夢の中で、愛鳥は何度も生き返った。「息を吹き返したよ!」と喜んだところで目が覚め、手の中の冷たくなった愛鳥を見てはまた泣いた。
 
もしかしたら、強制給仕などして延命させていたのは人間のエゴだったのかもしれない。
苦しい思いを長引かせていただけなのかもしれない。
あの時、私は何をしてあげられたのだろう。そして何をしてはいけなかったのだろう。
後悔と自責の念に苛まれた。
あんなに愛情をくれたのに、私はちゃんと返してあげられたのだろうか。
答えのない問いがいつまでもぐるぐる頭の中を巡った。
 
あれから十数年、今私の肩には新たな羽の生えたパートナーがいる。
いつかまた、別れを経験する時がくるだろう。
そこに至るまでどんな経緯であろうと、「ああすればよかった、あれをしない方がよかった」と、きっとまた後悔と自責の念に駆られるだろう。
 
だけど今は、精一杯の愛情を注ごう。死がふたりを分かつまで。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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