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私のあしながおじさん


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ふぅこ(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
彼との出会いは、私が26歳の時だった。
 
私は高校の時から、海外に友達を作ることが好きだった。
「世界中に友達を作って、将来、全員に会いに行くんだ♪」と、よく思っていた。
 
社会人になってもそれは変わらなかった。海外のペンパルサイトに登録して、色んな国の同世代の子たちとメールを楽しんでいた。そんなある日のお昼休み、ペンパルサイトの受信ボックスに「ピコンッ!」と一通のメッセージが届いた。
 
そのメッセージの一文目を、私は今でも鮮明に覚えている。
 
「お昼休みに投稿したのですか? (笑)」
 
この一文を読んだ瞬間、直径7cmくらいの木のボールが、私の頭頂部から尾てい骨に「スコンッ」と落ちる感覚があった。誰かが何かを、私に知らせるかのように。
 
ペンパルサイトには、自己紹介を投稿した年月日、時間がメッセージの下にずっと残っているのだ。
 
「Hello!」とか「はじめまして!」などの決まり文句が多い中、「お昼休みに投稿したのですか? (笑)」という出だしは、なぜか衝撃的で思わずクスッと笑ってしまった。メッセージを送ってきたのは、大阪の男性だった。
 
私は海外の友達が欲しかったので、日本人の友達をネットで作ろうとは思っていなかった。さらに、ネットで男性と知り合うのは危険だという思いがあった。
 
しかし、今振り返っても全く思い出せないのだが、なぜか私は彼に返事をした。彼からの返事はいつも即レスだった。一方、私は1、2日に一回、短い返信をするくらいだった。
 
彼とのやり取りは続いた。理由は簡単。楽しかったのだ。
いつしか彼は、私の大阪人の友達・第一号となっていた。そして、サイトを通してではなく、プライベートメールで毎日1通やり取りをするようになっていた。
 
「今日はめちゃくちゃ忙しい時に、上司から仕事をふられてほんと大変だった。
暇そうな子にお願いしてくれればいいのにー。」とメールをすると、
「暇そうに見えたんが、ふぅこちゃんやったんやな。(笑)」と返事が。
 
なぜか彼のツッコミは、イラッとせずに思わず笑ってしまうのだ。
関西人らしい面白さと、彼の性格の優しさがメールからいつも伝わってきていた。
 
私はてっきり、彼は同世代だろうと思っていた。私は投稿サイトに、自分の年齢を載せていたからだ。しかしある時、私は衝撃的な一文を目にすることとなる。
 
「私は41歳です。」
 
「!?」
思わず文章を2度見した。
 
「41歳……!? 41才……? 41さい……!!」
何度唱えようが、数字は減るはずもないのだが。
 
「えーっと。えーっと。41-26は。っと。」
 
「15歳年上! なんちゅーじじぃとメールしてたんだ、私は!!」
 
心を落ち着け、頭を整理するために、トイレに行ったり水を飲んだり。
何をしても減らない彼の年齢を、頭の中で何度も繰り返した。
数時間で心は落ち着いた。年齢よりも、彼の性格の面白さが勝ったのだ。何事もなかったかのようにメールのやり取りは続いた。
 
彼の初めてのメッセージから、半年くらい経っていただろうか。
「東京に出張があるので、お昼一緒にどうですか?」と連絡が来た。
随分と仲良くなってはいたが、私はネットで知り合った男性と会う気は全くなかった。その旨、はっきり彼には伝えていたのだが、出張当日のお昼にメールが来た。
 
「お店の前で、花束と携帯のおもりをしています。」
 
「か、か、可愛いー。おじさん可愛いすぎるー。」
しかし、私は電話しなかった。
その後、一向に会おうとしない私に、とうとう彼は私と会うことを諦め、楽しいメール友達になってくれた。
 
その頃、私はインテリアコーディネーターの勉強に興味を持っていた。しかし、授業料が40万円もした。今までそんな大金を払ったことのない私は、スクールに申し込むかどうか毎日悩み続けていた。
 
「今は高いと思うかもしれんけど、やりたい時にやっといた方がええと思うよ。色んな事に繋がっていくこともあるしねぇ。」と、彼は背中を押してくれた。
 
彼の言葉で私は決心し、清水の舞台から飛び降りる気持ちで40万円を振り込んだ。
インテリアコーディネーターの勉強は楽しかった。こんな楽しい仕事があるのか!と思うほど楽しかった。
 
彼は大手電機メーカーに勤める照明デザイナーだった。彼と出会うまでは、そんな職業があることすら知らなかった。インテリアコーディネーターの資格を取った後、私は照明デザイナーのスクールに通った。その後も興味が湧くことがあったら、後悔しないようにと、色んなスクールに通った。
 
彼に背中を押されてインテリアスクールに入っていなければ、その後もやりたいことがあってもやらず、貯金が趣味の人生を送っていた可能性が高い。慣れ親しんだ自分の思考を変えて、行動するのはなかなか難しいものだ。
 
彼は、私の人生を変えてくれた。
 
インテリアコーディネーターと照明コンサルトの資格を取った私は、実家のリフォームの設計を担当した。その時、彼は私がプランした照明設計について無償で色々と教えてくれた。
 
彼と知り会って数年後、彼は東京に転勤になった。
彼はいつでも私を助けてくれた。私の参考になりそうな本などは、職場に送ってくれた。物のやり取りは、お互いの職場に送り合っていた。
 
会おうと思えば、すぐにでも会える距離に住んでいたのに。
お互いの職場は、電車で5分もかからない場所だったのに。
 
私は、彼の誕生日に一冊の本を送った。
その頃、彼は海外で働きたいと思いながらも、なかなか一歩が踏み出せないでいた。
 
「ええ本ありがとう。本に刺激を受けました。会社を辞めてイギリスに行きます。」
 
彼は大手企業の管理職の座を捨て、イギリスへ渡った。彼がイギリスに行った後も、メールは続いた。帰国後、彼は照明デザイナーの会社を立ち上げた。
 
その後なぜか、段々とお互いの連絡の頻度が減っていった。そして私たちは、全く連絡を取り合わなくなった。まるで、お互いの出会った役目を終えたかのように。
 
今振り返っても、彼との出会いは不思議だった。ネットで知り合い、一度も会うことはなく、4、5年くらいメールのやり取りをしていた。
 
彼との会話は、いつも楽しかった。
彼は、いつも背中を押してくれた。
彼は、困ったときはいつも相談に乗ってくれた。
 
私のあしながおじさん。
 
元気ですか?
 
29歳の誕生日に送ってくれた、カードと写真立て。
今でも大切に持っています。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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