あなたは強すぎたのです! 早すぎたのです!
記事:渋沢まるこ(ライティング・ゼミ)
拝啓
暑さが日ごとに加わってまいります。お元気でお過ごしでしょうか。
あなたとお会いしなくなってもう5年ほど、いやもっとになるでしょうか。以前はあんなに頻繁に会っていたのに、今では会うことがなく、あの頃が懐かしく思えます。
あなたはよく私を頼ってくれました。あれはあなたが中学生くらいの時でしたでしょうか。私はお母様に紹介されてあなたに会った日のことを覚えています。あなたはまだ生意気な盛りでしたね。そんなあなたの力になれることが私の楽しみでもありました。
あれから高校、大学を経て社会人になってゆくあなたをそばで見続けられたこと、とても嬉しく思っています。
あなたはこの時もしばしば私を必要としてくれましたね。その度に、私は全力であなたをサポートしようとしてきました。けれども、いつしかあなたは私を少しずつ遠ざけるようになっていきました。あなたは私に気づかれないようにしていたのかもしれませんが、私は気づいていました。あんなに私のことを頼りにしてくれていたのに、時折、他の人を頼ったりしていましたよね。私はあなたの幸せを願っているとはいえ、複雑な気持ちでいました。それでも時折、私を必要としてくれていましたので、私はこれもあなたの成長なのだなと考えていました。
「あなたとはもう会わない」
とあなたが宣言された時のことは今でも忘れられません。私は青天の霹靂といった感じで驚きのあまり何も言えませんでした。何が起きたのかよくわかりませんでした。けれども、あなたはそう言っているだけで本当に困った時には私を必要としてくるだろうと高をくくっていたのです。しかし、このときばかりはあなたも本気だったようですね。まさか、あれから会うことがなくなるなんて思ってもみませんでした。
その後あなたは別の方と意気投合され、その方を頼りにされていると風の噂で聞きました。なんでもその方は私とは違い、穏やかな方とか。私はあなたの求めに応じて、とにかく早く、スマートに対応することがあなたのためなのだと信じてやってきていました。ですから、別の方にお願いしていることがわかったときには、きっと私よりもっと優秀な方がみつかったのだろうと思っていました。それがまさか正反対の方を選ばれるなんて! 私には理解ができませんでした。私ならあなたのことをすぐに助けられるのに、どうしてよりによってそんなゆるい対応をする方を選ぶのか? 今でも本当の意味で理解はできていません。その間にも私はどんどん進化しているというのに。
私はあなたのことを尊重しようと、あれから何も言わずあなたの前から姿を消しました。けれども、どうしてそうなったのか、やはりどうしても知りたくなり、今頃お手紙を差し上げました。
もしできるようでしたら、お返事を頂けると幸いです。末筆ながら、ご自愛のほどお祈り申し上げます。
敬具
拝啓
厚さ厳しい折、そちらもお元気でお過ごしでしょうか。
お手紙拝見させて頂きました。結論から言いますと、あなたは強すぎたのです。あなたに別れを告げる頃には、あなたの限界を感じていました。強すぎる、早すぎるがゆえの限界だったのです。
あなたは体面をとても気にされているように思いました。いかに早く表面を取り繕うのか。私も最初はそれが、それこそが素晴らしいことなのだと思っていました。けれども、そうしていくと表面ばかりで根本の問題が解決していないということに気づいてしまったのです。根本が解決しないので、私はあなたに依存するようになっていきました。何かあればあなたに頼ればすぐに解決してくれる! なんて素敵な方なのだろう! と。けれども、何事も依存関係はやはり不自然なことなのです。最後の方はあなたなしでは安心して暮らしていくこともできなくなっていました。
こんな関係はやはりおかしい! と思い、私なりに色々調べてみました。すると、あなた以外にも私の問題を解決してくれる方が沢山いるということがわかりました。私は自ら会いに行ったり、来ていただいたりして、私と相性の良い方を探しました。そこで出会ったのがあなたの言う穏やかな方でした。
その方によれば、私の不調はどうやら「冷え」からもたらされている部分が大きいようでした。あなたと別れてから、私は靴下を何枚も履き、半身浴をして、下半身を徹底的に温めはじめました。「冷えとり健康法」というものだそうです。これをはじめてからというもの、あなたのように即効性はありませんでしたが、身体も心も変化していくことを感じています。穏やかですが、自然に、そして何よりも根本から変わっていく自分を感じています。
消炎鎮痛剤さま、あなたには長きにわたり大変お世話になりました。あんなにつらかった頭痛、ときにはのたうちまわるほどの痛みをいつだって早急に解決して頂きました。どんなに助けて頂いたことか。本当にあなたには感謝しております。
ですが、途中からお互いの考え方が変わってきてしまったのです。決してあなたのことを否定しているのではありません。このことをご理解頂けると嬉しく思います。
あなたを必要としている方は私の他にも沢山いらっしゃると思います。今度はその方達のために、お力になって差し上げて下さい。あなたの一層のご活躍を祈念いたしております。
敬具
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
【天狼院書店へのお問い合わせ】
TEL:03-6914-3618
【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】
【有料メルマガのご登録はこちらから】