メディアグランプリ

沈黙のラジオ 



記事:谷合美香(ライティング・ゼミ)

 

別れは突然にやってきた。

つい先週まで受信できていたラジオが受信不可になってしまったのである。

 

そうはいっても海外のラジオ局なので、いつ聴けなくなっても文句はいえない。が、これは地上波ではなくインターネットラジオ。ほぼ世界的に受信可能なはずのもの。

ところが、提供ラジオ局が受信不可を通達してきてから一年以上経っているだろうか。

『あなたの国は受信可能地域ではありません』

英語で書かれた無情な字幕と共に、今まで恩恵に預かっていた局のサービスがシャットアウト。リピート放送もライブ放送もすべて利用不可になってしまった。

 

国外の人間だって、このラジオ局でしか聞けない番組を聞きたいんじゃー!

 

そこで越境ラジオである。

受信ができる局を経由して、おこぼれにありつくのである。

ほかの海外ラジオなんて聴けなくても構わない。この局の、番組ひとつだけ聴取したい。

本家のリピート『Listen again』は利用できなくなった。越境のライブ放送を逃したらその週はぽっかり穴があいてしまう。

なのに最後の手段であった越境ラジオにまで、

『あなたの国には提供できません』

とのナレーション(英語)と共にふられてしまった。

やたら早口で三回まくし立てたあと、ウンともスンともいってこない。

このラジオ番組のためにライティング・ゼミを通信にし、ゼミのライブをいわば犠牲にして獲得していた至福の二時間だったのに。

 

本国で番組が終わってしまったなら諦めもつく。

番組は続いているのにもう聴けない。

海外ラジオだから文句いえないとか書いておいて、未練タラタラなのである。

ほかの越境サイトを、検索で引っかかった順にあたっていっては玉砕の繰り返し。

番組の始まるまでにできるだけ多く探したい。

刻々と迫るリミットに焦るこちらを無視して、聴かせてくれるサイトひとつのヒットが遠い。聴けるアプリのダウンロードができるとあればクリックし、セキュリティソフトに削除される。

番組開始時間を過ぎても、聴取できる手段にはたどり着けなかった。時間切れはさすがに試合終了。今週はダメだったなあ。

 

そもそも同じ国の国営放送は受信可能なのに、なんでここだけ電波法みたいなこといってるんだろう。国営が聴かせてくれるのに、民放が規制してるなんて。

カナダやオーストラリアだって宗主国として仰いでいるのに受信不可だし、基準がさっぱり不明。理不尽さえ感じる。

しかもサイトは全世界対応なので、プレイリストはリアルタイムで更新している。

今、この番組ではこの音楽を提供しています! と世界に発信しておきながら、放送には規制をかける。なにこのヘビの生殺し。ドジョウの地獄鍋。

 

それをDJがどんな風に曲紹介しているのかが気になって仕方がない。

曲と曲の間を、今日はどんなトークでつないでいるのかが聴きたい。

音楽はいつでも聴ける。音源はCDで入手できるものばかりだから。

でも、DJのトークはその時だけのものなのだ。

 

四年間を録音した音源があるのだから、もう充分ではないか、といわれそうだし、自分でもそう思って諦めようと努めている。

しかし、持っているもので埋められる喪失感ではないのだ。

なにしろ生殺しである。ギリギリと締め付けられる聴きたい欲求。

ライブの良さを知ってしまったら、録音など次のライブまでのつなぎでしかないのだ。

 

さて、私の聴きたい番組のDJは世界的なシンガーなので、ファンクラブに入っている人も世界的規模で多彩。

そうだ、コミュニティに頼るんだ!

タイムリーに

「聴けないから誰か音源ちょうだい!」

とおねだりしている人がいて、おお同士! と喜んだのも束の間。音源は提供できませんと丁重なお断りがリプされていた。私が頼んでも同じことかー!

前は運営してる人が音源公開したりしてたじゃないか。ぶちぶち。

ファンクラブでも音源が入手できなかったらどこを頼りにすればいいのか。

 

越境の検索をしながら、こう考えた。

英語に不案内な私が自力で解決するには知力が足りない。

ラジオ局になんとか規制を解除して欲しいと情に訴えるとしても言葉が足りない。

絶対聴きたい、と我を張れば自分の首を絞めているようなもの。

とかく日本は住みにくい。

気分はすっかり『草枕』状態。

 

日本にいるから聴けないのだったら、聴ける英国に永住。

いや永住は大げさか。移住でいいじゃないか、DJの番組が続く限り。……やはり永住?

人手を頼らないとすれば、自力で聴ける環境を手に入れるしかない。

けれど、EUから離脱するかやっぱりやめるかと不安定な英国に飛び込めるほど英語が達者だったら、日本で規制のかかったラジオを聴けるように画策することなど朝飯前なのでは。

 

非現実的すぎる企画は置いといて。

 

今週からはぽっかり空いた穴をどう埋めていくかが問題である。

早寝早起きでもしようかなあ。

いやいや、八月からバージョン3.0が始まるのだから、ゼミのライブに専念したほうがいいのか。

 

 

***
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2016-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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