メディアグランプリ

あやうくカレー屋で魂を引き抜かれるところだった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:内野真紀(ライティング・ゼミNEO)
 
 
魂が、浮いた。
今、確実に、私の魂が浮いた。
 
 
あまりの衝撃に脳が情報を処理しきれず、一旦全ての情報をシャットアウトしようとしてまぶたが勝手に閉じた。
そして深呼吸をして体の力を抜くと、気づいたら天を仰ぐような体勢になってしまった。
 
 
 
そこはネパール人女性のオリジナルカレーのお店。
 
私はひとりランチだったこともあり、「なんでもいいや」と一番手頃なキーマカレーを注文した。
 
そうして出されたカレーが事件だったと言う話。
 
 
「待て、待て……」
 
まずビジュアルが良すぎる。
キーマカレーとネパール風おやきのセットで、そこに豆の薄いスナックとピクルスと豆腐のトマト煮込み的なものとパクチーがついている。
そして「お好みで」と、スパイスが瓶ごと出された。
ひとりランチにしては豪華な見た目にテンションが上がる。
 
 
まずはカレーを一口。
「スパイスの香り・独特の苦味・肉」みたいな、シンプルでも複雑でもある味だった。
美味しい。
 
 
「バラ」という名のネパール風おやきは「初めまして」だったが、「ライスとバラ、どちらか選べます」と言われたので、新しいものが好きな私は迷わずバラを選ぶ。
豆特有のモサモサ感とエキゾチックな味が良い。
 
 
パクチーに関しては「何に使うんだろう?」と疑問に思ったが、「食べ方は自由です」とご丁寧にメニュー表に書いてあったので、私は自由にカレーと一緒に食べることにした。
 
これがすごかった。パクチーの香りがこれまでのカレーの味を一新。
「新しい風」という言葉があるが、パクチーはこのカレーにおいて「新しい風」であり、その「新しい風」が鼻を抜けた。
それがあまりにも幸せだったので、残りのパクチーを私は大事に、大事に、食べることになった。
 
 
そしてようやく私はサイドに出されたスパイスの瓶を手に取った。
「何に使うのだろう?」とこれも謎だったが、試さないわけがない。
とりあえず、ある程度の量を皿に盛り、それをスプーンで掬って鼻に近づけた。
 
これが一番の事件だった。
 
 
「なんなんだ、これは」
 
衝撃的な香りだった。感動的だった。
魂が抜けるかと思った。
現に、魂が浮いたのを感じた。
ふわっと浮いたのだ。
 
世界と世界の境目を彷徨うような、そんな感覚。
全くあたらしい世界を知った瞬間だった。
 
 
私はこの瞬間を何度でも味わいたくて、同じようにスプーンでスパイスを掬い、その香りを楽しみ、ふわっとした感覚に酔い、最後はそれをカレーに混ぜて食べる、という一連の儀式を何度も繰り返した。
変な客だっただろう。
 
 
私はただ、「ちょっと良い場所でランチができたらいいな」と思っていただけなのに。
それだけの気持ちで注文したカレーだったのに。
 
 
感動して、興奮して、「食べ終わったら読もう」と思って持ってきた本を開いても、全く言葉が頭に入ってこない。
「カレーが……スパイスが……こんなにも素晴らしいなんて!」
 
 
「もしかして私はとんでもなく面白い世界に入り込んでしまったのではないか?」
ゾクゾクしながらそんなことを考えた。
 
ああ、この気持ち!
この気持ちは、ハリーポッターにドハマりした小中学生時代の気持ちと物凄く似ていた。
 
「私が今まで生きてきた世界とは全く別の面白い世界がここにはあるかもしれない!」という、期待とワクワクがいっぱい詰まったこの感じ。
ドキドキが止まらない!
 
 
 
「いつまでもこのカレーを食べていたい……」
そう考えながら、あと数口分残してあるカレー皿を私は見つめた。
 
「落ち着け」と自分に言い聞かせ、ひとまずコーヒーを飲んで深呼吸。
 
すると、食べ終わったかと思われて店員さんがお皿を片付けに来た。
 
「あ、違うんです。まだ食べます。」
そう言うついでに、私の口からは賛辞と質問がとまらない。
 
「物凄く美味しくてびっくりしました」
「感動と興奮で今ドキドキしてます」
「このスパイスってなんですか?」
「どこで買ってるんですか?」
 
あれこれ話したあとにお会計に行くと、そこには料理を担当する例のネパール人の女性が待っていた。
 
私があまりにも褒めちぎっていたから、店員さんが厨房から呼んできてくれたらしい。
 
「あまりにも美味しくて、私もスパイス勉強したいと思いました」
そう言うと、彼女は喜んだ。
 
 
正直、ここに入る前まではカレーは人並みに好きなだけだったし、チャイに少し興味が出てきたくらいの、「にわかスパイス好き」だったのだが、お店を出る頃には人生最大のスパイス熱で爆発しそうだった。
 
家に帰ってからは早速スパイスの本を調べてみたり、「スパイス 勉強会」と検索してみたりと、完全にスパイスに染まっている。
 
 
 
今週もあのお店へ魂浮かせに行こうと思う。
もうすっかりクセになった。
 
 
私の人生を変えたスパイス。
私の人生を変えた彼女。お店。
 
 
感動的な体験は人生を変える。
 
 
私もお客さんの人生を変えるような、そんな仕事がしたい、と思った。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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