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母の日 〜世界一尊敬する人へ〜


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田中 惣規(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「お母さん、ありがとう」
 
 
その言葉を最後に口にしたのは、いつのことだろうか。
 
 
__これは、母親に感謝を伝えたいけれど、伝えられずにいる。そんな人(特に私と同世代の20代前半の人)に贈る私なりの「エール」である。
 
 
私の母は、一言で言うなら「ド田舎から来た陽気なおばちゃん」だ。
天然で、陽気。楽観的。常に笑っている。声が大きい。車に乗れず、いつも自転車に4人の子どもを乗せて走っている。1人の時はカブ(バイク)で移動する。中でも、「小さなことは気にしない性格」と「底知れぬサービス精神」はとことん突き抜けていた。そんな母は、近所でも、学校でも、移動中の道でさえも、周囲からは「変わり者の田中さん」として、いつも世間を賑わせていた。
 
幼少期の私は、どこに行っても注目を浴びてしまう母の横で恥ずかしさと闘うこともしばしばあったが、それも含めて“変わり者”の優しい母が好きだった。
 
 
そんな平和が崩れ始めたのは、おおよそ10歳を過ぎたあたりだったと思う。
 
これまでと大して変わらない“変わり者”の母が、なぜか「うざい」のである。
 
 
__そう。思春期、反抗期だ。
 
母への態度は一変した。
呼び方は「ママ」から「ババア」へと変わった。
 
父はほとんど家に帰らない人だった。そのため、母はシングルマザー同然で4人の子どもを育てていた。当時、一番下の子はまだ5歳だった。
父はなぜか家にお金を入れず、家計を支えていたのはほとんどが母のパート代。数ヶ月に一度の育児手当は4人の学費で一瞬にして消えていった。
母は多い時は3つの仕事を掛け持ちしていた。
 
そんな母親の苦労も知らず、私は不満の限りを母へぶつけていた。
 
 
「まぁ、ご飯が食べれてるならまだいい方だぁ」
 
そう言い、相変わらず母はよく笑っていた。
 
 
当時、特に私が不満に感じていたのは、「経済的不自由」とその原因となっていた「父への憤り」だった。私が10歳を迎えるあたりから、家計が著しく貧しくなっていた。
 
私は思春期で、他人と自分とを比較する機会が多くなっていた。お小遣いがもらえない。外食に行けない。新しい服が買えない。習い事に行けない。
「お金が無い」という不自由に息が詰まった。
父親に文句を言おうと思っても、父は家には帰ってこなかった。帰ってきたとしても、怒る父の姿が目に浮かび何も言えなかった。
 
 
「この父への怒りはどこにぶつければいいんだ……」
 
 
父へ向けるはずの不満も、結局母へと向かった。
母のせいではないと分かっていながら、怒りの矛を内に鎮めるにはまだ幼かった。反抗をしながらも母のことは好きだった。「ごめん」と心の中で思いながらも、結果的には母に当たっていた。
 
そんな中でも、
 
「プリン買ってきたぞぉ! ジャンケンで勝った人は2個だぁ!」
 
私の怒りがひどい時は、母は私をなだめるため、お金が無い中サプライズを用意した。
 
(この時、実は、父親が事業に失敗し、多額の借金を募らせ自己破産をしていた。母は実質、一人で4人の子どもを育てていた。当時10歳そこらだった私がその事実を知るのは、もっと後のことだった。)
 
 
母の優しさと愛情はもちろん分かっていたが、それ故に自分が何もできないことがもどかしく、惨めだった。
 
その惨めさを拭うように、反抗は歳を重ねるごとにエスカレートした。
帰りの遅い母がつくる夕飯を、「まずい」と言ってゴミ箱に捨てたこともあった。尻を蹴飛ばしたこともあった。母も、その他3人のきょうだいも長男である私を止める術はなかった。
 
 
 
__間もなく私は中学生になった。
 
私は気持ちの整理をつけるのも少しばかり上手くなり、母親に当たることも前ほどはなくなっていた。
 
だがその矢先、父と母の会話から3年前の父親の自己破産のことを秘かに知った。私はこれまで長きにわたり家族が大変な中、家に帰ることもしなかった父のことが許せなかった。特に、これまでの母への負担を考えると余計に腹が立った。
 
 
「父の身勝手の結果が家族を苦しめた。私も身勝手なことをして父に思い知らせてやろう!」
 
 
そして間も無く、万引きをした。
 
 
万引きで手に入れたお菓子やグッズは、おやつを買えない弟や妹にあげた。
悪いことだとはもちろん分かっていた。罪悪感もあった。
だが、やっと何か母の力になれているようで、それが嬉しかった。
 
 
そして、半年が経った時、学校の先生に呼び出された。
 
 
「田中、◯月◯日、△△で万引きしたな?」
 
 
「……」
 
 
母親が学校に呼び出された。
関係者一同が、反省文を書かされ、指導教員からキツく叱りつけられた。
時間は既に21時を回っていた。
 
 
帰り際、私の母と、万引きをした際に一緒にいた友達の両親とが話すのが聞こえた。
 
 
「お宅の息子を、うちの息子と、もう関わらせないでください」
 
 
仲の良かった友達の親だったが故に、ショックは大きかった。
だが何よりも、母の気持ちを思うと、心が張り裂けそうだった。
 
 
「本当に、取り返しのつかないことをしてしまった」
 
 
自分が惨めすぎて、一瞬、死んでもいいとすら思った。
 
後日、母とともに万引きした店舗へ返金しに行った。ただでさえ余裕のない中で、数万円のお金を支払わせてしまった。
 
 
母に合わせる顔がない。心が痛い。
 
 
家に帰ると、母が話し始めた。
どんなに怒られても、何を言われても仕方ないと思った。
 
だが、母の一言は、私の予想を大いに裏切った。
 
 
 
「ごめんね」
 
 
「えっ……?なんで?」
 
思わず返した。
 
 
「実は前からおかしいなとは思っていたんだよ。ごめんね。もっと私たちに余裕があったら、そうくんにこんなことをさせなくて良かったかもしれないね」
 
(私は、思わず泣き出した。数年ぶりの涙だった)
 
母は続けた。
 
 
「でもそうくんはこういう失敗も含めて、きっと誰かのために、世の中のために活躍する、立派な人になると信じてるから」
 
 
私はこの日、泣き疲れて眠ってしまった。
反抗期はこの日を機に、ぱったりなくなった。
 
 
 
__あれから約10年。
 
私は今でも、たまに当時を振り返る。今の私の原点になった日を。
 
私は今、大学を休学し、夢中になっていることがある。
『日本一楽しい地球貢献型コミュニティGAT(ガット)』という団体の運営だ。
現在この団体では、これからを担う150名の若者たちとともに、より良い社会がどのような姿なのか、日々追求しながら楽しく社会課題の解決に向け取り組んでいる。
 
そして、他にもやりたいことがある。
「家庭教育」に携わること。特に、一番子どもに影響を与えると思われる「親」の教育だ。
 
私に何ができるかはまだまだ未知だが、私を育ててくれ、信じてくれた母の教育が、本当に素晴らしかったという証を残すことが私の人生の目標の1つだ。
 
これからも「母の信じてくれた自分」を信じて、歩み続ける。
 
 
 
__最後に。
 
今年も、また来年も『母の日』がある。
 
私は、自身の体験から、家庭教育に携わる第一歩として、母親に感謝を伝えたいけど伝えられない人へ「エール」を送りたい。
 
 
「きっとあなたならできる!」
 
 
『母の日』とは、
人は誰でも、誰かを喜ばせることも、支えることも、元気を与えることもできる。今より少し、優しくなれる。それを、母親への感謝から学べる日。
 
 
 
__世界一尊敬する人へ
 
「お母さん、ありがとう」
 
来年も、また言えますように。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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