男性恐怖症!? から救ってくれた彼との別れを、和らげてくれたのはリモコンだった。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:平田台(ライティング・ライブ福岡会場)
朝、出勤して、デスクのPCを立ち上げた瞬間
「うわっ……。思い出した……」絞り出すような低い声でそう言って、デスクに突っ伏した。全くの無意識だった。
「平田さん、大丈夫?」イケメンの上司が眉を下げて、やや困惑顔で声をかけてくれた。我に返り、「大丈夫です……。すみません」と言ったが、全然、大丈夫ではなかった。
前夜に見た、人生最大の悪夢が、突然蘇ったのだ。
数日前に別れを告げた彼が、自分の目の前で命を落とした。
名前を呼ばれて、マンション5階の自分の部屋の窓から外に目をやったその瞬間だった。
私をじっと見ながら、彼が自分の頭に銃を突き付けて、引き金を引いたのだ。
そのまま朝を迎えて、頭から消えていたはず悪夢を、思い出したのだ。
今から、15年前のことだが、ドラマのワンシーンのように、覚えている。
私たちは関東で同じ大学に通っていた。彼はラグビー部の選手、私はアメフト部マネージャーだった。筋トレルームや体育館での練習で、背の大きな私が気になったらしかった。彼の3学年上のラガーマンと付き合っていたアメフト部の先輩マネージャーから「一度、ご飯にでもいってみて」と言われ、連絡先を交換した。
数日後、その先輩カップルと一緒に大学近くのファミレスで食事をした。スクラムを組むポジションの彼は、とにかく大きくて、金髪に染めた髪が派手さを象徴するようで、正直全然タイプではなかった。おまけに博多弁をこよなく愛し常に炸裂させていた。「なんしよーとー?」「元気にしとる? 俺は、元気に練習頑張っとるバイ!」そんなメールが続いた。我が道を行く感じが強くて、圧倒されていた。それでも、お構いなしに「そろそろ、俺のこと好きになったんやない?」なんて言ってしまうのだから、もう、笑うしかなかった。
あまりに繰り返されるので、私の心は揺れたのだが、いつも答えは「ううん」だった。
自分が男性と付き合うなんて、一生ない。そう思っていた。
厳格で、お酒に飲まれるタイプの父をずっと見てきたからか、男性を心から信用することができない感覚があった。だから、「ううん」を繰り返していた。多分、怖かったのだと思う。
ある夜、彼から電話があった。体調が優れないと言って、辛そうだった。「大丈夫? 大事にしてね」それだけだったが、「声が聞けたけん、元気が出た」と言ってくれた時に、彼の存在が大きくなった。自分でも、力になれたようで、本当に嬉しかった。
それから、何度か食事に行き、1つ年上の同級生だと知った。彼が、高校時代はどうやらスター選手だったらしく、前の学校のラグビー部でヒドイいじめに合い、退学したのだと話してくれた。見た目からはわからない、辛い過去と、夢を持っていた。「ラグビーは、本当に面白いけん。日本ラグビーを盛り上げて、もっと広げたい!」
カッコいい! 素直にそう思えた。
私たちは、付き合うことになった。19歳の時だ。
恋愛初心者の私に、彼は優しかった。忙しい練習の合間に食事やデートに行ってくれたし、試合で傷だらけになっても、会う時間を作ってくれた。
お互い、両親にも挨拶をしていたし、彼の大きな試合には、私の両親も会場に行き、おもいっきり応援していたのだ。
友人の半分ほどが就職先の内定をもらっていた頃、「福岡に来てほしい」と言ってくれた。結婚するかは分からないし……。迷いながらも受けた福岡の会社から内定をいただいた。
いざ、仕事を始めると、色々な出会いがあり、沢山の考えに触れて、世界が広がり、少しずつ彼との距離を感じるようになった。ラグビー中心の彼は「変化がない」ように思えた。「もっと世の中に興味を持って欲しい」「時々、力強く車の扉を閉めるのが怖い」心の中で、自分と合わないことばかりを探してしまっていた。こんな状態で付き合うのは、お互いによくない。ようやく決意して、別れを切り出した。だが、本当の気持ちを言い出せなかった。
「いずれは埼玉の実家に帰りたい」
嘘をついてしまった。そう言えば福岡を愛して止まない彼は、別れを受け入れてくれる。体のいい理由を考えたつもりだったが、「じゃあ。 先に埼玉で待ってるけん」そう言って、当時ラグビーから離れて転職を考えていた彼は、埼玉で仕事を始めた。
「ここまで自分のことを考えてくれる人は他にはいない。大切にしなきゃ。もう一度向き合おう」そう思い直した矢先、自分の東京転勤が決まった。
東京での仕事は、海外での業務も多くて、刺激に満ち溢れていた。出会う方々から学ぶことは新しく、素敵な大人が沢山いるのだと知った。彼との時間は減り、「このままで良いのだろうか」再び考えるようになった。安定を大切にして、穏やかな日々を望む彼、新しいことにどんどん挑戦したい自分。価値観の隔たりが大きくなっていくことを感じずにはいられなかった。
そして、今度は、本当のことを伝えた。
「価値観が合わない」
私たちは、別れることになった。
9年付き合って「価値観が合わない」なんて、そんな理不尽なこと、誰が考えても理解できないと思う。私もそう思っていた。それなのに、伝えてしまった。
彼は、とてもショックを受けていた。「今まで、変えて欲しいと言われたことは、ひとつひとつ変えてきたのに。それなのに。なんで? 全く意味が分からない」その通りだった。ファンの子と連絡を取るのを止めてほしい、メールは返して欲しい、アウトドアの時間を作って欲しい。全て受け入れてくれたのに。最後の最後で「価値観の違い」だなんて、ひどい女だ。そう思われても仕方がない。
男性と付き合うなんて出来ない、そう信じていた私を変えてくれた彼に、ただただ申し訳なかった。
その別れから1週間ほどしての悪夢だった。
なんてことをしてしまったのだろう。
止まらない後悔の念が、夢を見させたのだろう。
「俺の家のテレビのリモコン、持って帰ってない?」
突然の彼からの電話だった。バッグの底の底を探ると、黒のリモコンが鎮座していた。別れた日に、うっかり持ち帰ってしまったのだ。
数日後、彼がリモコンを受け取りに、車でマンションまで来てくれた。
「ごめんね。ありがとうね」そう言って車の窓からリモコンを渡すと、彼は「またね」と言って窓をウィーンと閉めて、去っていった。
ん!? 「またね」って言ったよね!? 完全なる、言い間違いだよね。
そう思った。
落ち着いて考えると、彼の深い優しさだったのかもしれない。失敗すると自分を責める言葉が爆増する私を心配してくれたのかもしれない。そう思った。
そんな優しい彼のおかげで、男性を好きになれる、付き合うこともできる自分を知ることができたのだ。心底感謝する一方で、つい最近まで、同じ過ちは繰り返したくない。大爆発するまで自分の想いを抱え続けて、最後の最後で、深く、人を傷つけてしまうような自分には、再び男性と付き合う資格なんてない。どこかで、そう思っていた。
しかし、こうして「書く」ことが、少しずつそんな私を変えてくれている。
今ある事実、それに対する自分の考え、感情が整理する力が出てきて、相手に伝わるように伝えることが、少しずつできるようになっている感覚がある。
人として成長して、誰とでも良い関係を紡げるようになりたい。
書くことを身近に置いておきたい。改めてそう思っている。
***
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