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虫歯の治療とすれちがう心


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記事:モトタケ(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
ガリッ! 朝食を食べていると『歯が欠けた』
 
ザラザラした嫌~な嚙み心地と鈍く割れた音が頭の中へ響く。
 
正確には『また歯が欠けた』である。
 
だめだ、もう歯医者さんを変えよう。今回は強く決心した。
 
患者の素人目線からでは医師のレベルを知るすべがあまりないように思える。多くの場合、主観、友人・知人の口コミ、最近ではネットの評判、などを頼りにするしかないように思える。医療行為というものは比較検討しがたいと言えるでしょう。
 
あの先生(歯科医)には悪いけど、もう限界だな。
 
気さくな先生でアットホームな雰囲気のクリニックは悪くなかったが、いつも説明が一方的で患者(私)との間に少し距離感があった様に思う。
 
通い始めたきっかけは、過去に他院で治療した銀歯が強烈に痛み出し私が駆け込んだのだ。何年前に治したのかもわからない歯で、割って中を見るしかない状態であった。麻酔をして銀歯を削り外してみると案の定、中で虫歯が進行していた。
 
これが、これから始まる長い治療のスタート地点であった。
 
この痛みが出ている歯は状態が悪く、根幹治療といわれる歯の根の治療が施された。
歯を深く削り(想像です)歯の根の穴にファイルと呼ばれるやすりの様な針金を差し込み汚れが無くなるまで取り除くのだ。ゴリゴリと音を立てながら根の深い所まで出し入れし掃除してもらう。もちろん痛い。月に1~2回の通院を繰り返し、結局1本目の歯の治療に1年以上かかった。根幹治療は時間がかかるのだ。
 
涙の根幹治療の後、他の歯の治療が始まった。
私は子供の頃から虫歯になりやすく奥歯のほとんどが銀歯や金属で被せたり詰められている状態であり、そしてそれらは再治療が必要なものばかりであった。
 
上下左右の前歯から数えて4番目~7番目までが治療対象で、計16本治してもらったことになる。銀歯や金属の詰め物を取り外して再治療し、白い陶器・セラミック、レジンと呼ばれる樹脂で固められて行った。
 
麻酔の注射は何回打っても慣れるものではない。痺れた唇で口をすすぐたびに、ピューっと水を噴き出してしまった。
 
毎回、治療後は痛みと痺れで食事ができなかった。『おいしい』はずの食事が『噛むと痛いもの』になる辛さはもうこりごりである。
 
約10年! の時間をかけて私の歯は上下合わせて28本、すべてが白色の歯に入れ替わった。治療が終わった日は嬉しくて! 嬉しくて! 鏡の前で口を大きく開けていつまでも眺めていた。
 
治療は終了だ! もう歯医者さんは卒業だ! ありがとう、さようなら!
 
となるハズだったのだが、考えが甘かった。数か月ほど経つと治したレジンの歯が欠け出したのだ。
 
第二章【メンテナンス】が始まったのだ……。
 
保険のきかない高額のセラミック歯はさすが頑丈で問題なかったが、レジンで作られた歯はよく欠けた。ちょっとした表面の欠け、擦り減りは麻酔なしで処置される。周りを少し削ってレジンを足し補強する。まるで壁の修復の様に。この修復作業も痛いのだ!
 
先生曰く、銀歯など硬すぎる歯は根っ子が折れてしまう事があるので、そうなる前に欠けてしまった方がダメージが少ないそうだ。
『欠けたら直せばいいんですよ』なんてニコニコしながら言ってくれたが、こちらとしては修復の度に痛みと我慢で毎回背中からお尻まで冷や汗をかいているのだから堪らない。
 
そして今回『また歯が欠けた』のである。しかも3箇所も……。
 
もう嫌だ、他に方法があるはずだ。違う先生に診てもらおう。いっそ歯医者を変えよう。
 
患者の意志でセカンドオピニオンを受けることは悪いことではないと思う。
本来は紹介状を書いてもらい堂々と行えばよいのだろうが、関係性に影響しそうでためらってしまった。しかも今回はクリニックを乗り換えるつもりであったし。
 
乗り換え先の候補としてWeb検索で私が選んだクリニックは同区内にあった。40代くらいの若い先生で患者の話をよく聞いてくれるとネットの評判が良かった。
早速尋ねてみると評判通りであった。ヒアリングから始まり、患者の悩みに寄り添ってくれる。私の心は全開オープンになった。話を聞いてくれるだけでこんなにも気持ちが楽になるのかと思えた。人生相談でも受けているかのように次々と言葉が溢れ出て止まらない。患者は話したいのだ。聞いてもらいたいのだ。
 
ヒアリングのあと実際の診察。椅子に座ると目の前には大画面モニターが設置されており、そこに撮影された自分の口の中がでかでかと映し出された。
 
しかし『恥ずかしい!』とは思わなかった。我ながらキレイな歯だな~と思えた。
 
そして若い先生が口の中、歯一本一本をじっくりと診察してくれた。レントゲンも撮って内部まで診てくれた。そしてコメントは、
 
『完璧な治療がされていますね』
その言葉には職人が同業者の腕の良さに嫉妬するような響きが含まれていた。
 
『とても患者さん想いで最善の方法で処置されている様に見えます』
なんだかこちらが嬉しくなってしまうではないか。
 
『根の治療に苦労した跡が見受けられます』
もう、セカンドオピニオンというよりも私の歯を介して先生たち当人同士で会話がされている様であった。
 
特に別の治療方法を奨められたわけではなかったので、今後も今まで通り元のクリニックに通う事にした。
 
今回の欠けた歯の修復時、セカンドオピニオンを受けてきたこと(本当は他院に乗り換えるつもりであったが)を私は先生に白状した。
そして何度も何度も歯が欠けてうんざりしている事、その度に痛みを伴いながら直すのが辛いこと(虫歯になってしまった自分の責任は棚に上げて)それらを正直に話すと、なぜこの治療方法が私にとって最善なのかを改めて丁寧に説明してくれた。
そして『先生が治療してくれた私の歯をよその先生が見て感心していました』と伝えると少し照れたようにはにかんでいた。
 
ほんの些細なコミュニケーション不足による意思のすれ違いがあった。それに気づかせてくれた二人の歯科医師に感謝しています。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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