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まず確認なのですが、あなたと私は知り合いじゃないですよね?


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記事:渋沢まるこ(ライティング・ゼミ)

「ちょ、ちょっと待って! あなたと、私は、知り合いじゃないですよね?」
きっとあの時、私の頭の上には「はてなマーク」が沢山出ていたに違いない。

私は、一歩外に出れば80%以上の確率で知り合いに会うような、そんな田舎町に住んでいた。近所の人は、家族構成、家族の職業や子どもの学年、ときには昨日の夫婦喧嘩の理由まで知っている……そんな町だった。地域のコミュニティが発達している、なんていう言葉で表せば素敵に聞こえるかもしれないが、私にとってその当時、それは「監視」以外のなにものでもなかった。
夜は9時にもなれば、もうどの店も開いていない。人もほとんど歩いていない。まるで真夜中のように静まり返っていた。うちの前にある大きな池にはカッパが住んでいるという伝説があったのだが、夜、カッパが歩いていても違和感はなかったと思う。
「こんな町、早く出ていきたい! 隣の人さえもわからない都会の方がずっとマシ!」そう、思っていた。思えば、私は小学生の時から家を出ると決めていた。大学に行って、家を出る。大学に行けるかどうかもわからなかったのに。けれども、初心貫徹! 私はめでたく大学に合格したのだ。大学に合格した嬉しさもあったが、何よりもこの町を離れられる! という開放感でいっぱいだった。

「いい天気やなぁ! でも明日は雨降るねんて。信じられへんよなぁ」
え? 身体が硬直した。これは、ひとりごとなのか? いや、でも私の方を向いて言っている。この人と前に会ったことがあっただろうか? いや、ない……はず……。知り合いじゃないですよね? 私たち。なのに、私にお話しされているのですよね? あなたは。え? え? ということは、きちんと会話をお返ししなくてはいけないから……えっと、えっと……
「そ、そうですね。し、信じられませんね。」
引きつった顔でなんとかそう答えていた。そして、これだけのことなのに、私はどっと疲れていた。え? 今の何? 大阪には不思議な人がいるものだなぁ、さすが都会だけのことはあるなぁ、と思っていた。

動物園に行ってみた日のこと。その時私は「キンシコウ」という猿の檻の前にいた。孫悟空のモデルとも言われる金色の毛が特徴の猿である。
「金色とか言うけど、金色ちゃうやんな。あんた、あれ金色に見えるか?」
え? また不意打ち。私の身体は硬直し、頭の中はフル回転でこのおじさんの対応について考え中。
ちょっと、待って! まず、確認なのですが、あなたと、私は、知り合いじゃないですよね? それなのに、その近しい間柄のような会話は何ですか? 問題は、金色に見えるとか見えないとか、そういうことじゃないんです。どうしてあなたは私にそんなことを話してくるのですか? 何かの勧誘ですか? ナンパですか? 会話ってちゃんとしなくちゃいけないじゃないですか。だから、こちらもきちんと考えないといけないじゃないですか。えっと、だから……
「そ、そう言われれば、た、確かに金色というよりも、ちゃ、茶色かもしれないですよね……」
はぁ。今日もどっと疲れてしまった。

動物園に行く頃には、大阪には不思議な人がいるというレベルの話ではなく、どうやら大阪、そして関西というところには「知らない人に気安く声をかける」という文化があるらしいということに気付き始めていた。しかし、そもそも人見知りで、知り合いばかりの町で育ってきた私にとって、この状況にはなかなか慣れるものではなかった。それに、子どもの時から言われ続けてきたではないか! 知らない人と話しちゃいけません、ついて行ってはいけません、て。知らない人が話しかけてくるというのは、何か黒い目的があるはず! ああ、こわいこわい。私は常に、話しかけないでオーラを出していたのだが、それでも話しかける人はいて、その度に緊張してしまい身体をこわばらせていた。

私が緊張していた理由は、今思えば会話というものについての真面目すぎる思いこみだった。
「会話というものは、相手の言うことをきちんと聞いて、自分の中で咀嚼をして理解した上で、それ相応の回答を返す」という作業であると思っていたのだ。もちろん、今でもこれが間違いであるということではないし、そういう側面もあると思う。しかし、だ。ただちょっと話しかけたことに対して、いちいちこんなに重いことを考えられて、重厚な回答を返されたら相手も困るではないか。まぁ、そうは言っても私は重厚な答えを返せたことなどなかったのだけれど。

ある時、友人に相談してみたところ、
「そんなん、向こうも適当に話してるだけやから、こっちも適当に返したらいいねん」
と言うではないか。私にとって、この言葉は衝撃だった! ええっ?! 適当に話していたの? 適当に返すってなに? 適当な会話がわからなかったのだ! 今思えば、なんて世間知らずだったのだろうか。真面目すぎる若かりし自分に苦笑してしまう。まぁでもとにかく、片田舎から出てきて、まじめの、素朴さのかたまりだった私には、適当イコールいいかげん、ちゃらんぽらん、不誠実以外のなにものでもなかった。そんなこと人として許されないのではないか? そんな風にさえ思っていた。

そんな私も、年を追うごとに関西に慣れてゆき、知らない人から話しかけられても「適当に」返せるようになった。適当は決してマイナスな言葉ではなく、ちょうどいいという意味だったのだ。軽い会話には軽い返事を、重い話には重い態度で重い言葉を。臨機応変に対応するということを教えてもらった。あんなに人見知りだった私が、今度は知らない人に話しかけることができるようになっていた。
「おっちゃん、それ、なに飲んでんの?」
「熱燗やで。ちょっとあげよか?」
そんな会話で、隣に座った知らないおじさんからお酒をもらう私を、同郷の友人は目を丸くして見ていた。

知らない土地に住むのはおもしろい。そして徐々になじんでゆく自分を感じることもとても楽しい。
あの頃のまじめで素朴だった私、そんな私にちょうどよい適当さを教え、おまけに笑いまでつけてくれた大阪。いろいろなモノを包み込んでしまうあの器の広さが、私の心を少しずつオープンマインドにしてくれたのかもしれないなと思う。

その後、東京に引っ越しをしてきて1週間くらいたった頃、ある違和感を感じた。なんだろうと考えてみたらその正体がわかった。
「私、最近知らない人と会話してない……」

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-07-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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