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メディアグランプリ

ベルトに乗っかる脂肪から希望をひねり出すために


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記事:Yushi Akimoto(ライティング・ゼミ)

「最近、なんだか顔がほっそりしたんじゃない?」
「あ、ほんとだね。というかやつれた?」
「もしかして夏バテじゃない?ちゃんと食べてる?」

「あら、そうですか?夜は炭水化物を抜くようにしているからかなあ」

地元・秋田に戻ってきて数か月。帰省したての頃は、ふるさとのメシの旨さに持ち前の食欲が刺激され、学生時代並に食べる量が増えた。しかし、三十路突入まであと数ヶ月のこの体。さらに、田舎の宿命である車依存の生活で運動量は減少。おかげで、体型が良からぬ方向に変化しつつあった。「このままではまずい」と一念発起し、自宅での夕食時には炭水化物を抜くことに。その成果がようやく顔には出たようである。顔には。

顔痩せを指摘されたその翌日。普段は控えめに「いいね!」とコメントを集めるだけの僕のFacebookのタイムラインが、ささやかな僕の“告白”によって、一時賑やかになる。

「6,7年前に買ったスーツが、お腹を締め付けながら『もうお前は若くないんだ』と主張してきて、胸まで締め付けられてる」

帰省して初めて着たスーツに突き付けられた現実。顔は痩せても、お腹周りの肉は一向に減らないという、生まれて初めての経験。嘆きを凝縮した一文に、稀に見る数のコメントが集まる。良かった、せめてみんなの笑いや同情のタネになってくれるなら、まだ救いがある……。

いや、ちょっと待てよ。よくよく見ると、このコメント欄は、妙だ。なんというか、実に、華がない……。

はっ、まさか……。

「それを受け入れるのが、大人の階段かなと」
「ようこそオトナの入口へ」
「いらっしゃい、いらっしゃい」
「ここ一年で5kg増しのわたしも来ましたよ」
「このスーツ、縫いしろを直せばウエスト4cm広げられますよ!と言われて喜んだが束の間、それでは足りないことが発覚した」

そう、次々とコメントをくれたのは、見事に男性陣ばかり。しかも、全員僕より年上の、つまり30代突入の洗礼を潜り抜けて来た、歴戦の勇者たち……。スーツにYとかAとかABとか記号があるという事実。洋服のリフォームという選択肢の存在。これまで触れることのなかった世界が、コメント欄から少し垣間見えたのだった。

「加齢」というものがもたらす影響については、これまで散々話には聞いていたのだけれど、話を聞くことと、実際にそれを経験することとの間には決定的な違いがある。それは例えば、「顔は痩せても腹は痩せない」という事態に直面することで初めて実感として理解される。

この原稿を書いているのは、とあるスタバの、ドリンクが提供されるカウンターが丸見えの席で、僕よりも若い人たちが、次々と甘そうなフラペチーノを手に取って自席へと戻る。カロリー摂取量を制限しなければならない僕がオーダーを避ける代物を、何のためらいもなく楽しめる人たち。今、その様子を無意識のうちに「あちら側」の行為と認識してしまう僕は、しかし、ある時点までは「あちら側」の人間だったのだろう。その証拠に、東京で過ごした学生時代に自宅から自転車で「ラーメン二郎」に週2,3回せっせと通っていたという記憶も、もはや“懐かしい”思い出になっている。そういうわけで、いつの間にか、試験勉強をしている学生であふれかえるスタバの店内の平均年齢を押し上げる側に回ってしまった僕は、「20代」と「30代」の間に横たわる、後戻りできないその境界線を、超えつつあるらしい。

時間の経過が損なうものは、「体力」や「新陳代謝」、「毛髪の量」だけではない。過去に経験した苦労や悲しみも、時に思い出せないほどに色あせてしまうことがある。

秋田に移り住む前の約5年半の間、僕は離島で高校生向けの塾のスタッフをしていた。高校数学の教員免許は取得していたが、それまで塾講師の経験はなく(バイトの面接で落ちた)、家庭教師のバイトも2か月ほどで唐突に終わった(教え子が試験中にカンニングして退学騒ぎになりそれどころでなくなった)。

そんな経験の浅いかつての僕は、生徒に「高校2年生にもなってそんなことも知らないのか」「さっき教えたばかりなのに、なんで間違えるんだ」と言い放ってしまうことが度々あった。その発言が教育者として初歩的でかつ致命傷になりうる過ちであると気づかされるにはそう時間はかからなかったが、油断しているとつい口をついてしまう。

その理由はきっと単純で、大人になってしまった僕は、例えば「2次関数のグラフと2次方程式がどのように関係しているのか」について、様々な問題を解き、解説を読みこみ、そうして理解しようとした過程で積み重ねてきたあの「苦労」を忘れてしまったから、なのだと思う。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とよく言われるように。

「もうあの頃には戻れない」という自覚が生まれてようやく、多少なりとも生徒の気持ちに配慮できるようになった気がする。現在進行形で高校生をしている彼らに100%共感することはできないとしても。

そういう、彼我を隔てる境界線を越えてしまった後の振る舞い方を問われるのが、「大人」というものなのかもしれない、とふと思った。カロリーを気にしない若者たちに「若いっていいね」「そんなふうに飲み食いできるのも今のうちだよ」なんて嫌味を言っている大人には、確かにあまりなりたくない。境界線があることすら意識し得ない人たちに共感を求めること自体、大人気ないし、歩み寄れるとすればこちらの側なのだろう。だから、ベルトにお腹の脂肪が乗っかるのはどうしたって楽しめないにしても、せめて、若かりし頃の僕が考えもしなかったことにあれこれと思いを巡らすのを楽しめるようになれれば、と思う。そういう年齢の重ね方なら、まだ、きっと、希望があるはずだ。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-07-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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