出会ってしまった理想のボディ
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記事: 辰巳葉子さま(ライティング・ゼミ)
これだっ……!!
見つけてしまった……!!
理想のボディを……。
私は女子である。
ゆえに「これだっ!!」と見つけた理想のボディは男性のボディである。
出会ってしまってから、どうしてもそこを見てしまう……。
そして、その部分に触れた触感を妄想して、うっとりと味わってしまう……。
そして気づくと……。
それは34℃にもなった梅雨明け直前の日曜日。
私は始めたばかりのロードバイクの月1のサイクリングクラブのイベントに参加しているときだった。その日は私をいれて11人が参加する走行距離は35kmくらいのファンライドだった。
1列に連なって走るロードバイクの編隊は、平均時速約20kmで河原を進んでいく。
楽しむためのサイクリングなので、先を急がず、安全を第一に前方5名と後方6名の2チームに分かれて、1列になって進む。
信号待ちをするにも、このチームでまとまって動く。
チームの中の先頭を走るのが隊長だ。隊長はチームがまとまって走れるようにスピードをコントロールする。私は先頭のチームの隊長のすぐ後ろのポジションにいた。
隊長は、チーム内での衝突を防ぐために手信号をだす。
ロードバイクに乗りながら腕を動かして、右に曲がるとき、左に曲がるとき、止まるとき、障害物があるとき、車を追い抜くとき、チームの危険を避けて、注意を促すためだ。
ロードバイクにまたがって、前傾姿勢の隊長からだされる手信号の、肩から腕にかけての筋肉の動きが、あまりにしなやかで力強く美しすぎた。
理想のボディである。
肩がこんなにもしなやかに後ろに回り込んで、全く無駄のない動きで腕が大きく回旋してチームに情報を伝える。
肩まわりは全然、筋肉隆々ではない。けれども、だからこそしなやかで、強いしなりをもつ腕の動きは、余計なものはなにもなく、シンプルでただただ美しいのだ。
なにも引かない、なにも足さない、すべてがちょうどよい、まさにド・ストライクの筋肉としか言いようがない。
ただの手信号に包容力さえも感じてしまうのは、いったいなぜなんだろう?!
「美しき上腕三頭筋めっ!!」 と、私は声にならない叫びをあげてしまった。
なぜ隊長の肩から腕の筋肉は、こんなにも力強く、可動域が広いのだろうか……?
そして柔軟に動く筋肉に激しく魅了される。私は隊長から目が離せなくなる。
完璧だ!! 大胸筋か? それとも三角筋が優れているのだろうか?
私は暑くてボーっとしているのか!? それとも見とれてボーっとしているのか!? どちらなのだろうか?
毎日、肩が痛い、腕が上がらない、手がしびれたり、カラダのあちこちが痛い人ばかりに接しているからだろうか?! 健康に動く筋肉がまぶしすぎる。
誤解してほしくないのだが、私はボディビルダーのような筋肉が隆々なボディは好みではない。
鍛え上げられたボディには敬意をはらいたいが、静止してポーズを決める筋肉に美しさを感じたことはない。それよりも関節を最大限に動かして、人間本来の可動域の中で動かすことのできるカラダこそ、本当に美しいと思ってしまうのだ。
それに加えて、その筋肉の美しさを強調させるもの、それはロードバイク特有の前傾姿勢だ。
前傾姿勢は戦う姿勢だ。失いかけた人間の闘争本能を蘇えらせる。
戦いを挑んでいるカラダこそ、理想のボディなのだ。
ちまたの電車の中で見かける男子は、骨盤をコロンと寝かせて、足を放りだす。
坐骨なんて知りませーん。
骨盤なんか立てたことありませーん。
本来もって生まれたカラダの機能なんて、全く使ったことありませーん……という座り方をする。そんなペロンとした姿勢では、全く勝負にならない。というか、敵に襲われる心配などないから、そんな姿勢ができてしまう。
闘争本能など発動しないし、戦いのスイッチは完全にオフになっている。平和なのだ……。
ロードバイクに乗るときには、サドルに坐骨を立てなければ乗ることができない。
早く走るために戦闘態勢になるには、前傾姿勢になって骨盤は立てなくてはいけない。
前傾姿勢を保つには腹筋や背筋の力がいるのだ。
そのうえで隊長となって手信号を出すには、体幹を支える筋肉がいるのだ。
私が目を奪われてしまい、そしてどうしてもそこを見てしまう……。
その部分に触れた触感を妄想して、うっとりと味わってしまう……。
それは隊長の鎖骨から肩を一周する肩甲骨にかけてのラインだ。
戦っている筋肉こそ、理想のボディだ。
なんども言うが、それは筋肉隆々ではない。
ハグをしたときにちょうどピッタリ収まる胸板はそれほど厚くはない。
うっとり筋肉を味わっているつもりが、暑さで背中がジリジリしてきている。
ヤバイ……水分補給をしよう。
こんなに太陽が照りつける日は、熱中症に気をつけなくてはいけない。
ぼーっとしているのは、暑いからなのか? それとも見とれているからなのか?
いや、私は健康的で強くてしなやかで美しい筋肉を持つボディに翻弄された、ただの整体師だった……。
35kmを走りきり、ゴールをむかえた時間は1日のうちで最も暑い時間だった。
隊長はどんな顔だったのか? どんな表情だったのか? 記憶が全く残っていない。
美しすぎた筋肉しか思い出せない。
***
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