失恋は突然やってくる
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記事:ミュウ(ライティング・ゼミ)
「別れよう」
こんな主旨の手紙が来た。付き合っている彼から。
しょっちゅうメールしてるのに。
つい最近だって絵文字がいっぱいのメールくれてたのに。
確かに最近の文面は素っ気なかった。
仕事忙しいのね、くらいに思ってた。
けど、けど、
何故いきなり一方的に決意表明なの?
どうして?
読むと、
今までの我慢がついに爆発してしまったような事が書かれていた。
これってまるで夫婦の突然の破局みたいだ。
平和に結婚生活をしていたと思い込んでいたのは夫だけで、妻は日々のあれこれの不満を募らせてついにある日のささいな出来事がトリガーとなって大爆発を起こす。
「これ、書いてくださいね」と静かな固い決意と共にサイン済みの離婚届を差し出すっていうよく聞く話……
余りの突然の妻の言動にただただ困惑する。夫にはまるで心当たりがないから。
「ちゃんと働いて給料もそれなりにある、子どもも授かったし、会話もする、浮気もしていない。ギャンブルもしないし、暴力も振るわない。何も問題はないじゃないか」
心当たりがないですって?ふざけんじゃないわよ!
あなたはいつもそうなのね。
あの時はこうで、その前の時はこうだった……
出てくる出てくる。小さな不満は積もりに積もって怨念になっていた。
って、こんなハナシ。
ううむ。なんだかなあ。
それは女がよく言う事だけど、あまり男では聞いたことがないように思う。
でも、彼がそういう行動に出た。
私はその文面にキョトンとした。
なのにサーっと血の気が引いた。
彼がそう決意をした事は確かなのだから。
私は彼を失ったのだろうか?
心当たりはあった。
最初から遠距離だった。
土日の予定は結構入れていたから会えるのは月に1、2度。
私が大切にしている一番目が自分の時間と空間だった。
一人でいる時間が大切だったのだ。束縛が何よりも嫌いだった。
彼も独りの時間を大切にする人だったし、私の事もちゃんと伝えていたので
問題ないと思っていた。けど、私の距離感は受け入れがたかったということなのだろう。
手紙でわざわざ決意を書いてくるということは
考えに考えた結果なのだから、
私も手紙で返そうと思った。
しかし、彼の気持ちを受け止めて、自分の気持ちを
素直に伝えるには時間がかかりそうだった。
だから、少しだけメールを送ることにした。
ショックだったこと。
気持ちを受け止めて冷静になってから
返事を書くから待って欲しいと。
すぐに返事が来た。
私がショックを受けた事に彼は驚いていた。
想っているのは自分ばかりで私は仕方なく付き合っているように感じていたというのだ。
何てこった。
そんな訳無いじゃないか。
いい歳した大人が4年も付き合うんだよ?
どうでもいい人に裂く時間が何処にあるというのか。
とは思うけど、
彼が一方的な愛情を注ぐことに虚しさを感じていたのは事実だった。
要は私が彼に対して愛情を示してこなかったという事になる。
示していたつもりなのだが、「つもり」であって
大切なのは伝わったか伝わっていないか、だった。
伝わっていなかった。
いや? 伝えていなかったのか?
言葉でちゃんと。
「愛してるって言葉でちゃんと言ってくれなきゃ、わかんない!!!」
っていうのは女性の不満の中で必ず上がる言葉だと思う。
「言わなくたってわかるだろ?」なんていうのは通じない。
ええ、ええ。
女は(と括っていいのかわからないけど)、ちゃんと言葉にして欲しいんですよ。
いつでも何度でも。繰り返し繰り返し愛の言葉を聞きたいのです。
実は私も彼に付き合い始める時に言ったっけ。
女はそういうイキモノだから。たくさん言ってね、って。
彼は飛びぬけて素直な人で
メールだろうが手紙だろうが、会ってる時だろうが、
愛情を言葉にして伝えてくれていたのである。びっくりするくらいマメに。
言うならば、愛の言葉のシャワーを浴び続けていた。
なのに私が伝えられなかったのだ。
私は親密な人間関係に憧れはあるものの、実は苦手なのだ。
来る者もある程度拒み、
しかも、去る者は一切、金輪際追わない。
という具合だった。
私は未だに他人との距離感がよくわからない。
近づきすぎてしまったり遠ざけてしまったり。
特に男女関係の場合、相手が心変わりをして別れる決意をした時、私にできる事はただ、「そう。わかった」と答えることだけ。この話をすると、引きとめたりしないの? 別れたくないとかも言わないの? アッサリしてるなあ、と呆れられてしまう。なんて冷たい女なの!
と言われる事もあるけれど、私はそうとは思わない。一方の気持ちはもう別の所にあるのだしそれを取り戻そうなんて無意味だ。離れた心は私にはどうすることもできないのだから。私は相手の決断を尊重するのみである。
やっぱり冷たいのかな、私。
書いてみるとそんな気もしてくる。
そんな私が今回は何故か泣けてくるのである。
彼の気持ちに気づけなかったこと、彼を苦しめたこと。
そしていつまでも他者を寄せ付けることができない自分の性質にも。
でも泣けてくると言っても涙がジワっと出てくる程度。
ここで大泣きできたらきっと楽なのに。
そんな私が手紙を書こうと決めた。
気持ちを素直に書く気になったのだ。
手紙、どう書こうか。
頭の中はまた真白になった。
私、ライティングの勉強をしているじゃないか、そういえば。
そうだ。今こそ、ABCユニットの出番なんじゃないの? と
真っ白な頭の中にその一言が浮かび上がってきた。
これは何にでも応用ができるという話を聞いていた。
もちろん、ラブレターにも。
実践の時がやってきたのだった。
目的は気持ちを素直に伝えることのみ。
決して、マーケティング的手法を使って、
私と別れたら損しますぜ、とは言わないし、
かと言って別れたくないの! っていう気も無かった。
本心を言うと、どう書いていいのかわからなかった。
私の中には自分と付き合うと得だと思うけどなあ、という気持ちと、
私と付き合えるような寛容な男性なんていないと思うなあ、という気持ちがある。
自惚れと自信の無さが混在しているのだと思う。
だから、私にできるのは自分の正直な気持ちを伝えるしかないのだ。
それをジャッジしてもらえばいい。
と、何を格好つけているのやら。
既に相手の決意は伝えられているではないか。
でも、とりあえず、手紙を書こう。
そうは思うのだが、突然の彼の「別れよう」に動揺していて頭に謎のグルグルマークばかりが渦巻いていて、一向に冷静にABCユニットを使って文章を書こうなどというモードに切り替わってくれない。
このままの勢いで書くと相当にイタイ文章になりそうなのだ。どうしたものか。
こうなったらもうこの高ぶった気持ちを抑え気味にキープしながらぶっつけで書くしかない。私はABCユニットがどうのなんて考える余裕もなく、ひたすら書いた。
自分の人生のピンチな場面であり、感情に流されて書いてナルシスティックで読むに耐えない文章をそのまま相手に渡してしまいそうになるのではと思いきや、そうはならなかった。なぜなら私にはどんな時にも自分を異常に客観視してしまう「他人事モード」が備わっているからだ。このモードがいい具合に炸裂してくれて、ひたすら流れてくる言葉を書きつつも、これって読み進めてくれそうな文なのか? 伝わるのか? わかりやすいのか? と講座で学んだライティングのお作法が念頭に置かれていてチェックしながら書いている自分が少し可笑しかった。
ふう。
「初、5000文字越えだな」
と、相変わらず他人事モードな独り言が出る。
「そう」とだけ答えてきた私が自分の気持ちを手紙に書いた。
ちゃんと私の気持ちは伝わるだろうか?
それともこれはただの自己満足でしかないのだろうか?
今まで私たちは喧嘩なんて一度もした事がなかった。
小さな不満はその場で言うようにしていた。
自分の経験からそれが溜まると取り返しが付かなくなる事を知っていたから。
彼にもそれを伝えていたけれど、彼はそうはしなかったのだ。
自分が我慢すればいいと思ったのだろう。
私を束縛してしまわないようにと気を使ってくれたのだと思う。
彼は我慢を貯めていていても私には何も言わなかった。
私は彼に不満は無いと思っていた。何も言わなかったから。
しかし爆発。いきなりの別れ宣言。
そういえば、
学生時代の男友達が、彼女から突然別れを告げられて言ってたっけ。
「いきなりなんなんだよ! 女ってワカンねえ!」って。
失恋は突然やってくる。
告げた方は長い間考えていたのだろうけど、
告げられた方には突然だ。
昨日まで心通わせている相手がいると心安らかで幸せな気分でいたのに
一気に奈落の底である。
手紙を書き終わると気持ちが落ち着いていた。
これだから書く事ってありがたいと思う。
ふと、彼がくれた手紙をもう一度、
じっくりと読んでみることにした。
今度は落ち着いた気持ちで読むことができる。
ん……あれ?
色々書いてあるけれど、
コレって
「別れよう」とは書かれていないんじゃない?
私の独りでいたい度合いに合わせて
自分も距離を少し置いてみると言っている……?!
おっと。あぶない、あぶない。
何と言う読み違い。
何と言う思い込み。
とはいえ、彼が関係を見直したいと言っていることに違いは無かった。
この手紙で素直に自分の気持ちを書く事ができた。
少しはわかってくれるだろうか。
理解できることとこれまでどおりに続けられるのかは別の話ではあるけれど。
近いうちに直接会ってゆっくりと話をする予定だ。
どういうふうに落ち着くのだろう。
続けるのか
距離を置くのか、
それともお互いにお互いを手放そうという話になるかもしれない。
恋愛にもいろんな形がある。
ただお互いを尊重した形に落ち着くように
ただ誠実に話しをするだけだ。
ありがとうの気持ちを込めて、
明日の朝、手紙を投函しようと思う。
***
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