初めての写真の個展 開催前にギリギリ気がついた「メビウスの輪」の罠
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記事:ケンイチさま(ライティング・ゼミ)
数年前のこと。
とある喫茶店で、たまたま横になった男性と話す機会があり、初めてなのになんだか色々と会話が弾み、普通に知り合いになった。
良く聞くと彼は演技をする人で、何度目かに会ったときに「今度自分が出る公演があるので、是非観に来て欲しい」と誘われた。
まだ広く世に知られてはいない人だが、普段の喋り方や会話も楽しく、見た目や雰囲気もとても良くて、男性の私から見ても、なかなか素敵な人だ。
一度くらい、彼の演技を観るのはいいなと思った。
私は当時サラリーマンで、今年の夏に50歳になった普通のおじさんだ。
そのとき誘われた公演は小さ目の箱だった。
箱というのは公演場所のこと。
そこは座席が横5名の4列程度で、確か20名も入れば満席だったような気がしている。
彼の演技はいつもと違うが、それなりに輝いていた。
同じように誘われて公演に行ったことも何度かある。
女性からでも男性からでも、誘われて行けるときには可能な限り足を運んでみた。
観て感じるのはもともと嫌いではないし、音楽も好きなものならばインデーィーズバンドのライブにも足を運ぶので、普通のおじさんとしては良く動いていたように思う。
そして、どこでも感じたのはファンが付いているか、そうではないかだ。
観客の誰とも会話せずにいても、ただそこにいるだけで、何故かそれを感じてしまう。
観劇のときには、特に強く感じる。
はっきり言ってしまうと、小さな箱のときほど、普通のファンが異様に少ないのだ。
なんでだろう?
素直にそう思った。
誘ってくれた人は素敵な人だし、時には私が出演者のファンのこともある。
知人以外の出演者の方も、演技を目一杯頑張っているのは、舞台をみていて、がんがん伝わってくる。
でも、全体的にファンが少ない。
熱い気持ちで、舞台を観ている人がとても少ない。
それが、ひしひしと伝わってくる。
大きな箱の舞台と比較してみて、どこかに違和感があるが、この違和感はいったいどこにあるのだろうかと、そっと周りを見渡してみた。
時には、なんとなく気になった、全く知らない人しかいない公演にふらりと出かけたこともある。
そこでもこっそりと同じように見渡してみた。
何度か確かめた結果、共通して言えることが一つだけあった。
違和感のある会場は、身内みたいな人がやたらに多いのだ。
なんでそうなるのだろう?
次に思ったのがそんな疑問だ。
そして、知人が一人もいない完全な部外者のときに、私が現場で感じて思ったのは、こんなことだ。
小さな箱とはいえ、借りるにはそれなりのお金がかかるだろう。
その箱代を回収するには、観客数がある程度必要になるだろう。
とはいえ、舞台の時間は長く回転数が限られているから、観客数は増やせない。
ならば値段を上げたい。
しかし、値段を上げると客がこない可能性がぐっと高まる。
ファンがいれば、そこそこの値段でも観に来るだろうが、ファンがまだそんなにいなければ、値段を安くしないと観てもらえないと考えたのだろう。
安くすれば敷居が低くなる、低ければ初見のチャンスが増える。
そう思ったのではないかと、勝手に想像をした。
安ければ、来やすくなる。
一度でも見たらファンになる可能性もあるだろうし、席が埋まればどうにか箱の費用は回収ができる。
最初はそんなことを考えていたと思うのだが、それがそのうち、席が埋まるなら座るのは誰でもいいという風に変わったのではないか?
きっと、そんなことではないのかと、思いっきり邪推をした。
安ければ足を運びやすい。
なぜそんなことを思ったか。
実は、私にもそんな経験があったからだ。
500円や1000円ならば、そんなに面白くなくても、痛みは少ないかな。
そう思って行ったことも正直何度かはある。
3000円も出すと、出演者がそう有名ではなくても面白い場合が多くなる。でも、小さな箱で安い場合、思っていたほどには面白くなかったという経験が多かったような気がしている。
小さな箱の場合、演技が終わると、出演者が舞台を降りて観客と挨拶をしてくれることがよくある。
身内や後輩は出演者を褒め称えている。
数少ない普通のファンも、今回もとても良かったと言っているのも目に入る。
私も全く知らないところで、初めて見て、この人の演技はとても良かったと思った時は、それがどんなに小さな役でも、重要ではないシーンだとしても、私はこう感じた、ここがとても素敵だったということを伝えたことも一度や二度ではない。
良いものは良いと本人に伝えられるのは幸せだ。
そういう意味では、出演者と会話できるチャンスは嬉しいし、役者さんにとってもいいのだろうと思う。
しかし、出演者の身内や、近しい常連みたいな人が多いと、私がふらりと行ったときに強く感じたように、独特な雰囲気にあたってしまい、妙に落ち着けない。
それに身内や知人ばかりだと、開場時に入りにくいこともある。
ちょっと考えて欲しい。
後輩や先輩を含め、観客が身内で固まっていたらどうなるだろう。
その世界は広がるのだろうか?
映画館の観客が、すべて関係者で埋まっていたらどうなるかを想像すると、ちょっとぞっとするはずだ。
そう、そうなると、世界に広がりができる隙間が全くないのだ。
そのままで、大きくなれるのだろうか?
身内の循環だけで本当に良いのだろうか?
それがずっと求めている世界なのだろうか?
ふらりと立ち寄って、あまりの良さに、隣に座った知らない人と、良かった良かったと、嬉しくなって喋るシーンは用意に想像ができる。
でも、身内だらけだなと感じたとき、同じようなシーンが想像出来るとは到底思えない。
もしかしたら、これは私だけなのかもしれないが、想像ができないなら、実現は難しいと思ってしまう。
写真展も箱となるギャラリーは大抵の場合、そう大きくはなく、なんとなくだけれど同じような傾向があるので、初めての個展を開催するにあたり、同じことがおきたら嫌だなと思った。
正直、それだけはしたくないなと思った。
だから、知人を誘うのを止めてみた。
家族は開催していたことすら知らない。
そう、未知の人が入る隙間を、思いっきりあけたらどうなるかという、壮大な実験をしてみたのである。
自分一人なら、何かあっても痛みは自分が受ければいい。
個展だから、迷惑をかけにくい。
だからというわけではないけれど、遠慮なく実験ができる。
未知の人に心地よく見てもらいたい、ただ、その一心でそう考えた。
メビウスの輪というものがあるが、いつまでも、ぐるぐると同じところを何度も辿らなくていい方法があればと、小さな頭と、それまでの小さな経験で考えた私なりの方法だ。
未知の人しか来ないならば、写真を観てくれる可能性は限りなくゼロかもしれない。
ゼロを避ける為に、短期間に連続開催という、少々目立つ方法もとってみた。
そう、写真表現が好きというだけで、それまで経験が全くないのに、初年度に3回の個展を開き、3回目のときに写真販売を正式に開始した。
そんなギャラリーに滞在中のある日、全く知らないご夫婦がふらりと入ってきて、仲良く静かに観ていた。
静かに観るのが好きなのかなと思った私は、その邪魔をしたくなく、他の方の「どうやって撮ったのですか」というような質問に答えていた。
しばらくして、そのご夫婦がギャラリーのオーナーのいる事務室に行ったのはなんとなく知っている。
長いこと話していたあと、ギャラリーの外に行き、外の道で話し声が続き、しばらくしたらオーナーのところに戻り、また何か話をしていた。
声は聞こえない。
最初は話が長いのでオーナーの知人かと思っていた。
ご夫婦が帰られた後に少ししてから、ギャラリーのオーナーが展示室に来て、今のご夫婦が作品を購入されたこと。
一度購入手続きをした小さな作品をキャンセルし、大きな作品に切り変えられたことを教えてくれた。
そして、奥様がとても気に入ったこと、旦那様がそれを喜んだことも。
イラストの原画とは違い、写真作品を購入していただくことは、この時代、稀だとは理解していたが、実績のない新人の作品が、展示のその場で売れるのは、とても異例らしい。
それを聞いて、私はとても大きな広がりを感じることができた。
実験が成功したのかは正直良くわからないが、私はもう充分に嬉しくなっていた。
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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