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仮想婚約者

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:キヨタトモヨ(ライティング・ゼミNEO)
※この話はフィクションです。
 
 
しばらく放置していた婚活アプリから、久しぶりに通知が届いた。
 
「新しい「いいね!」が届きました!【Lauro】さんが気になったら、「ありがとう!」を返しましょう」
 
Lauroさん。
読み方不明。
37歳、イタリア出身、港区在住。
職業は不動産、年収は1,000~1,500万円。
写真は2枚。金髪に、青い目。
スポーツカーの運転席で真っ白な歯でとびきりの笑顔の写真と、エレベーターの鏡の前で自撮りする写真。
肩から腕のラインはムキムキで、だいぶ鍛えられている。
胸板は厚く、白いシャツのボタンは今にもはち切れそうだ。
 
あぁ。
この手のアカウントの正体は、私だってわかる。
絶対、絶対、詐欺師だって。
 
そもそもなんでイタリア人が東京で不動産業をやっているんだ。
この人が本当に港区の高級マンションに暮らす外国人だとしたら。
そんなエリートが婚活アプリにすがるほど、出会いに飢えているはずがない。
 
そんなことは、分かってる。
でも、もしかしたら本当に、イタリア人かも……?
 
淡い、というかヌルい期待を寄せながら、その日私は彼に「ありがとう!」を返した。
 
 
最後にアプリを閉じてから、どれくらい経っただろう。
イタリア男からの「いいね!」の記憶もすっかり忘れ、日々の雑務で婚活アプリを使っていること自体、忘れてしまっていた。
 
久しぶりにアプリを開いたら、イケメンイタリア人から返事が届いていた。
 
「はじめまして。よろしくお願いします」
 
これもよくあるパターンだ。
あいさつはするけれど、きっと次の返信はないタイプ。
 
「はじめまして。よろしくお願いします。東京にお住まいですか」
 
意外にも、返事はすぐに来た。
 
「お返事ありがとうございます。今は港区で仕事と生活をしています。私は美しいイタリアから来た。イタリアに旅行に行ったことがあるか」
 
2回目のメッセージが、来た!
 
婚活アプリで出会う男性からのメッセージは――少なくとも35歳の女に対しては――あいさつ程度の軽いメッセージがほんの二言、三言載っている程度だ。
 
それなのにこのイタリア人。2回目のメッセージも礼儀正しいし、まじめな質問で終わっている。
 
もしかしたら、というかもしかしなくても、きっとこのアカウントの正体は詐欺師だ。
これから私をだまそうとしているに違いない。
でも――もしかしたら、何か面白いことが待っているかもしれない……!
 
「イタリアは行ったことがありません。Lauraの出身はどこですか。私はイタリアのワインが大好きです」
 
「私の実家はボローニャに近い。イタリアの料理は美食だ。ワインは食事を豊かにする」
 
ボローニャ!
もしかして国際結婚も、夢じゃない?!
 
高鳴る胸の鼓動を抑えながらも、淡く、何気ない会話のやりとりが1日に数回、ゆるく続いた。
 
「そうだ、会社の大切な人と家族とLINEをしています。LINE交換しましょう」
 
 
しかし、初めに感じたヤな予感は、見事に的中することになる。
 
「これからは仮想通貨の時代です。私は未来の妻と一緒に財産を共有したいと思っている。今から送るスマート契約取引所のURLをダウンロードしてください」
 
仮想通貨……
しかも、日本語が流ちょうになってるような……。
でも、未来の妻なんて言われたら、クラっときちゃう。
いや、だめだ、ここは理性を保たないと。
 
「使い方がわからないので、できません。それに、よくわからないURLを開くのが怖いです」
 
「学ぶときは真剣な姿勢が大事です。中途半端ではいけない。URLクリックして、インストールすればいい。完了したら、スクリーンショットを送ってください」
 
……やっぱりこの人、私と結婚する気なんてさらさらないな。
20代で多くの人からちやほや女の子より、30代後半以降の女の方がひっかかることを、このアカウントは経験的に知っているのだろう。
 
「取引は慣れていません」
 
「OK」
 
「それよりもあなたのことが知りたいな。あなたは日本のどんなところが好きなの」
 
「日本人の職人気質や協調性、優しさが好きです。日本の文化は素晴らしい。これからも日本で事業を展開できたら」
 
こんな風にどこかチグハグで、他愛もないメッセージが何回か続くのだけど、あのお誘いは定期的にやってくる。
 
仮想通貨取引。
ドバイに会社があるらしい、怪しい取引所のURL。
スクリーンショットを送れという、お決まり文句を添えて。
 
 
あぁ、私はきっと、だまされている。
結婚相手の候補に仮想通貨の取引を強要する時点で、普通じゃない。
 
いや。でも。
もしかしたら彼は本当に、未来の妻に財産を管理してほしいのかもしれない。
世界を渡り歩いている彼だから、世の中の最先端が見えるんだ。
私たちの前には、仮想通貨の時代が待っているということを!
 
年収1,500万、港区の高級マンションに住むイタリア人とのアヴァンチュール。
この人物設定。
妄想だけでも、十分に楽しい。
甘い言葉とハートマークたっぷりのメッセージを送ってくれるイタリア男との、港区での愛に満ちた生活を妄想することは、どんな連ドラよりもロマンティックで、エロティックで、熱い。
 
分かってる。
分かっているはずだ。
 
でも。
イタリア男との婚活を……
夢のような婚活ごっこを、もう少し楽しませてくれ。
 
怪しいURLにクリックだけは、絶対、いや多分、しないと心に決めて……。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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