リノベーションが町の個性を奪うとき
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広島出張の帰り道、久しぶりに尾道を訪れた。尾道といえば、海と山に挟まれた坂の町。「時をかける少女」をはじめとする大林宣彦監督の「尾道三部作」など、映画やドラマの舞台としても知られる。
以前に私が訪ねたのは、もう20年以上前のことだ。当然ながら尾道駅周辺は大きく変貌し、おぼろげなセピア色の記憶が、あっという間に目の前の風景に上書きされてしまう。きれいな駅ビルや高層のホテルが目立ち、ずいぶんと洗練された印象だ。
とはいえ、駅から少し離れると以前と変わらない景色に出会えた。瀬戸内海に面した中心街のすぐ北側には急坂が迫る。山の中腹には数えきれないほどの神社仏閣がぎっしりと軒を連ね、その合間をくねくねと細い階段や路地が縦横無尽に走る。関東平野育ちの私から見ると、「こんなところに?」と言いたくなるような急坂に面して家々が立ち並んでいる様子も以前のままだ。
ぶらぶらと散策していると、明らかに何年も人が住んでなさそうな家がいくつも目についた。ここでも空き家が増えているらしい。全国的に進む空き家問題だが、坂の町ではいっそう顕著なのだろう。宿で出会った地元の人に聞くと、坂の上に持ち家がありながら、坂下に別途アパートを借りている人もいるという。高齢で足腰が弱ってしまい、急坂を上ってわが家に帰れないのだ。
この空き家問題を解決すべく、「尾道空き家再生プロジェクト」というNPOが活躍していることを知った。廃屋となった住宅や店舗を再生することで、新たなまちづくりにつなげようという取り組みだ。すでにいくつもの物件を再生させた実績もある。
これはおもしろい! そう思って、毎年発行されているマップ仕様の機関紙「空きプレス」最新号を手に入れ、神社仏閣めぐりの合間にリノベーションされた建物を探して歩いた。
お寺に隣接してオシャレに変身したカフェがあったり、今にも朽ち果てそうな住宅のすぐ横に、リノベで息を吹き返したギャラリーがあったり、新旧入り乱れるような楽しさがある。改装された昭和レトロな風呂なし・トイレ共同のアパートには、カフェやセレクトブックショップが入り、商店街の銭湯は、内装をできるだけ残しつつ、食堂兼雑貨屋に生まれ変わっていた。実は、宿泊したゲストハウスも、元は細長い町家をこのNPOが見事に再生したものだった。
どれもこれも相当にステキだ。最先端過ぎず、少し枯れた感じが私の好みにピッタリである。
はじめはそう思っていたのだが、途中からわずかに食傷気味になってきた。こういうオシャレなリノベーションなら、東京にもたくさんあるよね。わざわざ旅先で訪ね歩かなくてもいいんじゃない?
うだるような炎天下の町歩きに疲れたのかもしれない。だが、次に訪ねた町で、あることに気づいた。
尾道に3日間滞在した後、まだ時間に余裕があったので、急きょ鞆の浦という港町に立ち寄ることにした。尾道からは1時間の船の旅。帰りは新幹線の福山駅までバスで戻れば都合がいい。
船を降りると、時代劇さながらの古い町並みが目に入った。江戸時代には海上物流の要であった「北前船」や、朝鮮からの使節団「朝鮮通信使」が寄港し、鞆の浦は港町として大いに栄えたらしい。
歴史的な建物がポツポツと点在しているのではなく、食堂や土産物屋など、あくまで観光客用の施設としてではあるが、広範囲にわたって町並みが丸ごと保存されている。そのせいだろうか、往時の町の様子が目に浮かぶようだ。
恥ずかしながら歴史に疎い私は、こうした「歴史的な景観」に日ごろは鈍感である。旅の醍醐味は、都会にはない自然を感じること。ただ海を見ながらボーッとしてるのが幸せだよね、と思ったりしがちだ。
ところがこの日は違っていた。古い町並みに吸い寄せられるように、静かに心を踊らせながら細い路地を歩き、元は商家だったであろう土産物屋の佇まいに見入っていた。城跡に建てられた「鞆の浦歴史民俗資料館」の展示を端から端まで隈なく眺め、音声ガイドに耳を傾け、パネルの解説を熟読した。私にしては珍しく、時の流れをさかのぼり、かつての町の賑わいに思いを馳せていたのだ。
「あー、そういうことか」。ここでハタと気がついた。尾道で感じた「疲れ」の原因はこれだったのだ。
一見の客に過ぎない私から見えるのは、しょせん再生後の表面的なカッコよさだけ。その建物がかつてどういう表情を見せ、そこに暮らす人や通りを行き交う人がどんな様子だったかなど知るよしもない。
時の流れが分断されていることに物足りなさを感じたのだと思う。時をつなぐストーリーが欲しかった。たとえて言うなら、地方のロードサイドに次々と大型ショッピングモールが建ち、各地の風景が均一化していくことへのガッカリ感に近い。
もちろん、空き家再生自体の魅力が乏しいわけではない。この活動に惹かれて移住してくる人もいるそうで、とても楽しそうな取り組みであることは確かだ。物足りなさの原因は、ひとえに私の想像力不足。もっと知ろうと努めなかったことにある。
次に再訪する際には、ぜひ下調べをして、このNPOや現地で詳しい方に話を聞いてみよう。長く尾道に暮らす人に聞けば、あたかも「語り部」のように、興味深い話を聞かせてくれるかもしれない。そうすれば、蘇った元・空き家もまた違った輝きを見せてくれるだろう。
あれ? でも、ちょっと待てよ。
私は自分が生まれ育った東京の「語り部」なんかになれるだろうか?
「私、西荻窪に住んでるんだけどね。いい感じの渋い飲み屋とか古本屋とかがたくさんあってさ。いやー、居心地いいんだよね」
日ごろ私が人に言うのは、せいぜいこの程度だ。
浅いな。
まずは足元を見つめよう。自分の町のストーリーを語ること。そこから始めるべきかもしれない。
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