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死ぬまでに見たいあの絶景の塩を舐めながら、大人の贅沢を味わった日のこと


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記事:おはな(ライティング・ゼミ)

「30過ぎたらさ、もう夢を見てる暇なんてないよね」
「わかる! もうさ、叶うかどうかじゃなく、やるかどうかだよね」

2年半振りに会った優子は、相変わらずわたしの大好きな優子だった。
それが何より嬉しくて、しあわせで、これこそが「大人の贅沢」だと、心から思った。

優子と出会ったのは5年前。
地元で募集していたボランティア活動に参加した時のこと。
バスでの移動中、一人本を読んでいる姿が印象的だった。
少しずつまわりのみんなが打ち解け、輪になって話し始めても、優子は一人本を読んでいた。
「大人な人だな。誰かと話していなくても、不安じゃないんだな。」
そんな優子の醸し出す「大人の雰囲気」にわたしはすぐに惹かれ、どんな人か知りたくて仕方がなくなっていた。

まだ朝が来る前の靄がかかる薄暗い頃、移動中のバスはサービスエリアに停まった。
トイレから出てくると、優子がひとりベンチに座っていた。
「眠いね」
人見知りのわたしは勇気を出して声をかけ、彼女の隣に腰掛けた。
「ね。まだ朝にもなっていないもんね」
そう、やさしく答える優子のバッグに付いていたウサギの缶バッジが目に止まった。

「あれ? それって、あの団体のじゃない?」
「え? なんで知ってるの?」優子は絵に描いたような丸い目でわたしをまっすぐ見ている。

「あ、大学生の頃から国際協力に興味があってさ。
それで、ワークショップに参加した時、その団体で働いている人がいたから。
でも、まさか地元でそのバッジ持っている人に会えるなんて思ってもみなかった!」
そう笑いながら答えると、優子は丸くした目を今度はキラキラさせている。

「私もだよ! ここの団体でね、私の親友が働いているの。だけどほんとまさか地元の人で、これを見ただけで分かる人がいるなんて、びっくりだよ!」

そう言って、二人でニヤニヤしながら偶然を楽しんだ。

すると、優子がゆっくりと口を開いた。
「ねぇ、ちなみにだけどさ、私の親友って、杉本友子って名前なんだけど」

それを聞いた瞬間、わたしの中でぼんやりとしていた記憶が鮮やかに蘇った。
「え! 嘘でしょ?! ともちゃん。うん、わたし、ともちゃんて呼んでたよ、その人のこと! 髪は肩より短くて、ふわっとしていて、それで、それで……」
わたしは息を吸うのも忘れて、しゃべり続けた。

優子も慌てて震える手で親友に確認のメールを送る。
すると返ってきた答えは、
「あー、会ったことあるよ、その子! 懐かしいねー」

偶然にも、わたしは優子の親友に数年前に出会っていた。
それも「英語で農業を学ぼう!」という参加者が10名にも満たないマニアックな泊まりがけのワークショップで、だ。
毎朝夕、豚や馬のお世話をしたり、土に触れて畑で作業をしたり。生まれてくる命、枯れていく命に思いを馳せながら、この世の美しさと残酷さを、「農業」を通して学んだ。数名の参加者は真剣に話し合い、心から笑い、時には涙することもあった。
だから、まさかそんな、どこを探しても見つからないようなマニアックな共通の世界観の持ち主の親友が、自分の生まれ育った街で暮らしていたなんて。あまりの偶然に驚き、声も出なかった。「運命」まさにその言葉以外、思いつかなかった。

「そんなことって、あるんだね!」
警戒心が強く、心を閉ざしがちなはずのわたしは、一気に優子に心を開いていった。

それでも、その関係が運命であればこそ、歯車は狂うようになっているのが、物語だ。
事実、わたしと優子も、その運命を感じるような出会いから5年間。
数えてみれば会った数は10回にも満たないと思う。
今回会ったのも2年半振り。その前は2年ぶり。
学生時代であれば「運命」を感じるような友人とは、どこに行くのも一緒で、来る日も来る日も同じ時を過ごすはずだ。
でも、大人になればそうも行かない。タイミングや条件がなかなか重ならない。
「チャンスの神様には前髪しかない」と言われるように、前に進み続ける大人の友人と会う約束を取り付けるのは、奇跡にも近い。

「お待たせしました」
2年半振りに優子に会ったのは、都内の小さなバーだった。
ついに、お目当てのお酒が運ばれてきた。

死ねまでに一度は行きたい絶景に選ばれた、天空の鏡とも呼ばれるウユニ塩湖の塩を使って作ったソルティドッグ。
旅や異国の地への思いが強い優子となら、同じ気持ちでこれを楽しめる気がし、この場所を選んだ。

「あ、思ったより甘い!」
「うわー、パンチが聞いた塩辛さ!」

二人の感想がまるで正反対だったから、思わず目を合わせて笑った。

「これがあの絶景からやってきた塩かぁ」
そう思うと感慨深い。

「贅沢だね」
「うん、ほんと、これぞ、大人の贅沢だね」

そう言いながら、二人でしみじみと、遠い南の国からやってきた塩の味と、今この瞬間目の前にある幸せを噛みしめる。

「30過ぎたらさ、もう夢を見てる暇なんてないよね」
わたしより5つ上の優子がそう言いながら、やわらかく笑う。

実際そうだ。女性の人生は、30を過ぎると、急激に変化する。
それまで「女の子はみんなお姫様。いつか王子様が迎えに来る。だから安心して」と言われ、甘やかされて育ってきたのに、30というその数字を境に「バカ言ってんじゃないよ、現実を見なさいよ」と突き放されてしまう。
独身でパートナーがいないと、何か自分に欠点があるのではないかと、目に見えない不安に襲われる。その上、バリバリのキャリアウーマンでもなければ、一体自分は何のために生きているのかと、答える必要もない鋭い質問に、心をえぐられる。

「大丈夫。いつか幸せになれるよ!」
そう言って励ましてくれた友達も今となっては、前髪をチラつかせることもなく、どこか遠い別の世界へ行ってしまった。

突然突きつけられる孤独と現実の厳しさに、戸惑い、どちらへ向かっていいかもわからなくなる。
でも、きっとこれは突然じゃないのだ。
みんな、最初からわかっていた。いつか夢が終わるとわかっていて、夢の世界の最後の余韻に浸りながらも、計画的にゆっくりと確実に、現実の世界へとカーブしていった。
「30までには絶対結婚する!」「30までにはやりたい職業に就く!」
そういう確固たる思いを胸に、着実に前に進んでいったのだ。
浅はかな自分だけが、「夢っていいね。楽しいね」とふわふわ飛び跳ねながら、30を境に突然道を失い、谷底に落ちていった。
「いつまでも夢を見ているんじゃないよ!」と背中から蹴落され、ようやくその現実に気付いたのだ。

それでも、と思う。
それでも、こんなわたしでも、まだしあわせな人生を諦めたわけではない。
谷底での暮らしを嘆くのではなく、これはこれで仕方ないではないかと諦めるのでもなく、頭上からわずかに漏れてくる、光の方へ、進んで行きたいと思っている。
その為には、素手で岩を掴み、自力で崖を登って行くしかない。
まだ人生を諦めるには早過ぎる。まだまだ、やれることは山程ある。
やるしかない。それしかもう道はない。挑戦すれば、まだ何かが動き出す可能性はある。

「わかる! もうさ、叶うかどうかじゃなく、やるかどうかだよね」

そう言うと、優子はニヤリと笑い、力強く頷く。

「そう、Now or Neverだよね」

今やるか、二度とやらないか。
まさにそれを行動で示しているのが優子だ。
優子は、30歳を過ぎてから東京の大学で学び直すことを決意した。
一から受験勉強をやり直し、一回り以上も離れた現役生と肩を並べて狭き門を狙う。
並の努力と覚悟では成し得ない夢を、優子は現実に変えた。
這いつくばって努力を重ね、受験勉強の壁を乗り越え、ようやく合格を手にした。
それでも、あくまでもそれはスタートでしかない。
大学生活が始まれば、学びざかりの若い子達と一緒に勉強し、同じ試験を受ける。
実習やレポートが重なれば徹夜もザラだ。
30代後半になって、20代前半の子と同じ土俵で戦うのは、想像以上に大変で苦しく、惨めな思いをすることもあるはずだ。
それでも、優子は、夢を見ていたくはない。夢を夢のままで終わらせたくない。
夢を現実に変えるには、今すぐ行動しなければならない。諦めずに動き続けるしかない。
目の前に高く高くそびえ立つ崖を、素手で登って行くしかないと思い、動き続けた。

そんな優子が話してくれる言葉1つ1つが、わたしの心に染み渡る。
優子が向き合ってきたその苦しい現実、一段ずつ乗り越えてきたその光景が、
わたしには何よりも美しく見える。

死ぬまでに見たい絶景と呼ばれるその場所で取れた塩を舐めながら、
わたしは、優子の歩いてきた道程の美しさに、心を奪われる。
わたしも、そこにたどり着きたい。その美しい光景をその目で見たい。
例え苦しい思いをしたとしても、傷つき惨めな思いをしたとしても、
何かをやり遂げ、どこかにたどり着きたい。
その為には、やるしかない。動き続けるしかない。
たどり着くそのゴールは人それぞれ違う。
それでも、必ずそこに美しい景色があると信じて登り続けた人間にだけ見える景色が、必ずそこにあるはずだ。

優子と一緒にいると、それだけで彼女のエネルギーの熱さが伝わってくる。
「よし、頑張ろう。わたしもやるぞ!」自然とわたしのやる気が焚き付けられる。

そう思わせてくれる、背中を押してくれる友人と、友達でいられること。
こうして美味しいお酒とごはんを食べながら、くだらないことで笑い合えること。
それは何よりも贅沢で、しあわせな時間だ。何にも代え難い、大人の贅沢な時間だ。

結婚をしたり、こどもがいたり、仕事に追われたり。
それぞれのやることが目の前に積み上げられている30代のその道の途中で、
いつでも前を向き続ける友人と過ごせる時間は、奇跡であり、そうしてでも一緒に時を過ごせることは、やはり「運命」以外の言葉が、見当たらない。

「そうだ、最後に写真撮ろうよ!」と、お店を出て坂道を下りながら優子が言った。
「いいね!どこで撮ろうか?」
「あ、あそこ!雰囲気良くない?めっちゃオシャレ!」
坂道の途中、ぼんやりと幻想的な青のライトを浴びた小さな噴水があった。
2人でその前に並び、「自撮りスタイル」で腕を伸ばし、スマートフォンのカメラを自分達に向ける。
画面を覗き込むと、2人の顔が半分ずつ映っている。
「こうかな? こうかな?」
試行錯誤しながら、小さな画面に収まり、シャッターを切る。

「撮れたかな?」
2人でワクワクしながら目を合わせ、その視線をスマートフォンの画面に向ける。

「何これ!背景なんにも写ってないじゃん!」
せっかくオシャレなローマ風のミニ噴水の前に並んだのに、赤ら顔の私たち2人が画面いっぱいに笑っている。
「あー、もうオバさんになるとだめだねー」
出会ってから5年経った顔をした2人が、得意気に笑っていた。
坂道で思いっきり笑った。二人でお腹を抱えて、ヒーヒー言いながら、ただ笑った。
そんなことで笑い合えることが、何よりしあわせだということを、お互いがわかっていた。

「じゃあ、またね」
「うん、次は、国家試験が終わったらね」
「わかった。夢じゃなくて、目標ね。またソルティドッグ飲もうね」

そう言って彼女の乗っている電車に、いつまでも手を振り続けた。
電車が見えなくなると、わたしは前に向かって、一歩を踏み出した。

※登場人物の名前はすべて仮名です。
 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-08-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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