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正直、東京オリンピックとか面倒くさいと思ってたけど、GLAYの凱旋ライブのあの気持を思い出した途端、楽しみで仕方がなくなってきた


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記事:おはな(ライティング・ゼミ)

 

メダルラッシュに湧いたリオ・オリンピックが終わり、閉会式をテレビで見ていたら、いよいよ次は東京なんだという実感が湧いてきた。

正直、東京でオリンピックが開催されたら、面倒だと思っていた。

ただでさえ毎日がお祭り騒ぎのこの大都会に、世界中から人が押し寄せて来る。

平常通りでさえ混雑率100%を軽々と越える朝の満員電車に、浮かれた気分の人達が次々と乗り込んでくると想像しただけでも気が滅入りそうだ。

「会社が休みならまだしも、平日はちょっと勘弁してほしいな……」

そう思っていた。

テレビの向こうで見るのは楽しいけど、自分の生活圏内に入ってくると考えると気が重い。

「おもてなし」を求められても、正直素通りしたいんですけど……

 

そう思った瞬間、ふと以前にも同じような感情を味わったことを思い出した。

あ、そうか! GLAYが函館に来ると思えばいいのか。

何も外国人観光客とか、おもてなし、とか色々考えなくても、

あの感情だけ、あのシンプルな思いさえ持っていれば、いいのか。

そう思えた瞬間、私の東京オリンピックに対するポジティブスイッチが一気にオンに切り替わる。

またあのワクワクを味わえるのか。

それならきっと、日本も東京も変わる。

みんながちょっとだけ優しくなれる。ちょっとだけ笑顔が増える。

そんな4年後が、楽しみで仕方がなくなった。

 

 

***

 

2013年。

今から3年前の夏に人気ロックバンドGLAYが地元函館で凱旋野外ライブを開催した。

2日間で5万人規模の動員と発表された時、地元はざわついた。

「そんな一気にいっぱい来たって、どこさ泊まるんだかね」

「やいや、あんな派手なののファンがいっぱい来たら、わけわかんなくなるしょ」

 

数々の伝説を作ってきたGLAYが故郷でライブを行なうことに、当初地元側は、歓迎だけではなく、不安に思う批判的な声も少なくはなかった。

私自身も最初は「なんで7月下旬の観光シーズンなんだろう。シーズンオフにたくさんお客さん呼んでくれたら、活性化につながるのに」そんな風に思っていた。

 

彼らは、私自身が生まれ育った街から出たスターではあったものの、あまりに有名すぎて親近感はなかったし、ヴィジュアル系ロックバンドも、好みではなかった。

「こんな狭い街に人が押し寄せたら、ちょっと面倒だな」

ましてや渋滞回避するために早起きするとか勘弁なんだけど。そう思っていた。

 

それなのに、ライブが終わった後は、彼らや全国から集まってきたファンの人達に

「函館に来てくれてありがとう! また来てね。待ってるよ!」

そんな気持ちでいっぱいになっていた。

 

そう思ったのは、私だけではない。

実際、GLAYの絶頂期を知らない若い世代も、興味が無かった年配の人たちも、多くの人が「おもしろかったね。また来てほしいね」と口々に言っていた。

 

それは、やっぱりみんなが、あの感情を持てたからだと思う。

あのシンプルな感情さえあれば、色々あっても、それでよかったと思えるのだ。

 

実際にライブが近づいてくると、街の雰囲気が変わり始めた。

行政が全力でバックアップをしている為、空や陸の玄関口など、あちこちで彼ら4人の写真を見かけるようになった。

「本当にやるんだな」と、少しずつ実感が湧いてきた。

そのぼんやりとした気持ちが劇的に変化したのは、ライブ開催の1週間前辺りだっただろうか。

 

突然、異質な人達が、街中に増え始めたのだ。

全身真っ黒のファッションで、ゴツゴツした装飾を身につけ、スプレーでバリバリに固めた髪型の人達。

どこからどう見ても、彼らのファンだった。

近づいたら睨まれそうな、肩がぶつかりでもしたら「オイ」と怒鳴られそうな、そんな雰囲気に、小心者の私は完全に萎縮していた。

「いやだなー、あんな人がこれからいっぱい来るのかな」

 

そう思っていると、ガイドブックを持ちながらあれこれ話している二人組に声をかけられた。

「すみません、ここに行きたいんですけど、どうやって行ったらいいか、教えていただけませんか?」

想像以上に丁寧な言い方とやわらかな笑顔に驚いた。

 

「あ、これはここからまっすぐ進んだところに路面電車の駅があるので、

そこから電車に乗って、この名前の駅で降りるとすぐですよ」

そう答えると「ありがとうございます!」と、とびきりの笑顔が返ってくる。

あまりにも爽やかな笑顔だったので、「あの、もしかして、GLAYのファンの方ですか?」と、恐る恐る聞いてみた。

すると、

「そうなんです! もう函館でライブやるなら絶対来たいと思っていて、仕事も休んで、夏休みとか有休とか、かき集めて早乗りしたんです! そしたら着いた途端、曲の世界があちこちに広がっていてもう感動です! 本当に来てよかったです!!」

と、顔をクシャクシャにして目に涙を浮かべながら興奮して答えてくれた。

 

さっきまで、怖いから絶対に関わりたくないなんて思っていたのに、この人達の役に立てるなら何でもしたい! と一瞬でそんな気持ちになってしまっていた。

 

他にはどこに行くのか。どんな物を食べたいのか。

そんな質問をしながら、だったらこの順番で回った方が効率的に回れるとか、

この順番で食べれば、お腹が苦しくなりすぎずに全部食べられるとか、

聞かれてもいないことを次々と話してしまう。

 

あそこもゆかりの地だって知ってる? 電車だと遠いから、こうやって行くといいよ。

で、ここまで行くなら、GLAYは関係ないけど、すっごいキレイな景色が見えるからぜひ寄ってみて!

自分でもびっくりするほど、話したいことが溢れてくる。

 

「楽しんでいってくださいね」「ありがとうございます」

そんな握手を交わすことも、何度もあった。

 

不思議だった。

あんなに面倒だと思っていたのに。

しかも怖そうだし、絶対目を合わせたくないと思っていたのに。

私の中にあの感情が生まれ、それは次第に大きくなっていった。

 

ライブの開催日が近づくに連れ、

異質な見た目の人達が次々と街に溢れ出し、その姿を見つけるのが楽しくなってきた。

さらに、服装や髪型以外にも共通の特徴に気付くようになる。

 

「それって何ですか?」と、携帯電話につけているキーホルダーを指差して聞くと、

「これはTERUさんが落書きして生まれた『ズラー』っていうキャラクターなんです」と教えてくれた。

辺りを見渡してみると、普通の格好と髪型をしている人達でも、リュックやキーホルダーやTシャツや、どこかしらにそのキャラクターを身に付けている人でいっぱいだった。

黒くてヌボーっとしたゆるいキャラクターが「この人GLAYファンですよ」とニンマリ笑って教えてくれた。

ライブの開催日が近づくに連れ、函館の街は、メンバーのコスプレをした人達と、ゆるいシルエットのキャラクターを身につけた人でいっぱいになっていった。

全国から続々とこれでもかと人が集まってくるその光景に、私の胸は高鳴り、ワクワクしていった。

 

そしてライブ当日はまさにお祭り騒ぎだった。

地元のテレビやラジオが街中を取材して歩き、駅前でも地元の美味しい物を紹介するイベントが行われ、繁華街は賑々しく盛り上がっていた。

どこを歩いても彼らの曲が聞こえてきたし、みんなが笑顔だった。

なぜだかわからないけど、あちこちで会話が生まれ、みんなが笑い、みんなが元気だった。

年に一度の夏祭りでも、ここまでの活気を感じたことがあっただろうか。

突然、街全体に鼓動が感じられた気がした。

低いベース音が体全体に響き渡るように、街全体がビートを刻んでいるようだった。

 

街が生きている。

この街には、まだまだ可能性がある。

初めて心からそう思い、嬉しくなった。

 

観光関係者の人達はもちろん、小さなお店を営む人達、ただ街を歩いていた地元の人達。

みんながGLAYファンを歓迎していた。

道を聞かれれば笑顔で答えるし、聞かれなくても「あそこは行った? これは食べた?」と話しかける。わざわざ来てくれたんだからと、あちこちのお店でサービスが始まる。

ホテルが取れないなら、うちに泊まればいいと手を挙げる人も現れ、市役所や小学校、温泉施設の公共スペースも、緊急の宿泊先として用意された。

あいにくの大雨で帰りの列車が運休になってしまうと、その車両も開放された。

 

「大変だったけど、よかったね」

そんな声が、あちこちから聞こえてきた。

 

「いやー、なんかよくわかんないけど、面白かったね」

最初は批判的だった地元の人達も、終わった時にはそんな風に笑顔で喜んでいた。

 

そう、実際はよくわからないと思ってる人も多かった。

地元の人みんなが彼らのライブに行ったわけではない。

彼らの声を直接聞いたわけではない。

それでも、自分の生まれ育った街に、続々と人が集まってくるのが、面白くて仕方がなかった。

わざわざ遠くから来る人達が、熱く語るそのアーティストと同郷だと思うと、それだけで誇らしかったし、嬉しくなった。

 

「なんだかよくわかんないけど、わざわざ遠くから来てくれてありがとう」

その気持ちが、そんな心の奥底から湧いてくる感情が、街全体を包んでいた。

 

私達の街に来てくれてありがとう。好きになってくれて、喜んでくれて嬉しい。

だからお返しをしたい。楽しい思い出をいっぱい作っていってほしい。

 

そんなシンプルな感情が、あちこちで生まれていった。

 

「地元出身のアーティストのライブを成功させよう」

「これがうまく行けば経済効果につながる」

「地元の活性化に期待が出来る」

そんな頭で考えることはどこかへ飛んでいった。

 

来てくれてありがとう。楽しんでいってね。また来てね。

 

その気持ちだけが、街と訪れる人達とをつなげ、たくさんの笑顔を生み出していた。

 

こんなにも地元の人も、来た人も元気にさせるなんてすごい。

GLAYってすごいな。そんなGLAYを生み出したこの街もすごい。

ということは、この街で生まれ育った私にも、何か出来ることがあるかもしれない。

彼らみたいに、世の中を大きく変えるような力はないかもしれないけど、

この街を好きになってもらう、この街に来た人に喜んでもらう、

その為の小さなことなら出来るかもしれない。

いや、その小さな積み重ねも、長く続けたり、誰かと一緒にやれば大きな力になる日が来るかもしれない。

そんな風に興奮している自分がいた。

夢を諦め挫折して帰った肩身の狭いはずの地元が、輝いて見えたし、少しだけ自分に期待が出来るようになった。

 

地方都市で行われた一組のアーティストが行った凱旋ライブ。

ファンでもない人からすれば、何てことのない右から左へ流れていく情報の一つに過ぎない。

それでも、小さな奇跡があちこちで生まれることで、「絶対にうまくいかない」「どうせ無理だよ」という声を跳ね除け、一つの伝説を作ることができた。

「自分達にも何かできる」そんな希望さえ生み出していた。

 

4年後に行われる東京オリンピックは、この何十倍、何百倍どころではない規模だ。

日本の首都東京に世界中から一流アスリートが集まってくる。

その勇姿を一目見たいと、応援したいと世界中から人々が集まってくる。

 

見た目も言葉も価値観もまるで違う人達がどっと集まってくることに、不安を感じる人も少なくないはずだ。

スポーツには興味がない。近くでやるからって競技を見に行ったりしない。

そんな人も多いと思う。

それでも、自分は関係ないと思っていても、混雑に出くわしたり、道を聞かれたり、関わることを避けられないことが起こってくる。

 

そんな時、海外から来た人達と身振り手振りで会話をし、

「なんかよくわかんないけど、わざわざ遠くから日本に来てくれてありがとう」

そんな感情が、心のどこかから湧いてきたら、それは物凄いことが起こるかもしれない。

 

街のあちこちに、歓喜に湧いた人達が溢れている。

何を言っているかはわからないけれど、ありふれた光景を興奮して写真に収めたり、何でもないはずの物を喜んで買っていく。

そんな光景が、突然あちこちで見られるようになる。

 

その熱気が、少しずつ東京で暮らす人の気持ちを刺激していく。

「オリンピックとか興味なかったけど、わざわざ遠くから日本に来てくれてありがとう」

そんな気持ちが少しずつ生まれるようになったら、

眉間を寄せながら満員電車で溜息をつく人達が、少しウキウキするような気持ちを持つようになったら。

これだけあちこちに溢れている人達、一人ひとりの心の中で、

「来てくれてありがとう。楽しんでいってね。また来てね」

そんな思いが生まれるとしたら。

 

地方都市の函館で起こった小さな奇跡が、大都市東京でも起こったら。

そんなことを考えると、ワクワクが止まらなくなる。

 

東京で暮らす人達一人ひとりが、ちょっとだけ優しくなる。ちょっとだけ笑顔になる。

もしそんなことが起こったら。

これだけの人数がいる東京の「ちょっとだけ」は、ものすごく大きな力になるはずだ。

 

それが東京から発信され、日本全国に届くようになったら、どんなことが起こるだろう。

日本人でよかった。

そんな風に誇らしい気持ちが、少しだけみんなの中に芽生えたら、どんなことが起こるだろう。

 

考えているだけで、ワクワクが止まらなくなり、突然4年後が楽しみになった。

本当は、東京オリンピックなんてめんどくさいと思っていた。

それでもGLAYが函館に帰ってきたあの夏を思い出したら、なんだか突然楽しく思えるようになった。

「ここに来てくれてありがとう。楽しんでいってね。また来てね」

そんな思いを持つ人で溢れる東京が、見たくなった。

 

これから4年間、東京はいろんな壁にぶつかり、問題に向き合うこともあるかもしれない。

それでも、「おもてなし」の精神が根付く日本人なら、きっと乗り越えられるはずだ。

 

私も傍観者ではなく、東京の街を歩く当事者のひとりとして、楽しみたい。

 

そんな思いを胸に、私は今日もGLAYの曲を聞きながら、満員電車に乗り込んでいく。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-08-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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