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舞妓さんのまっすぐな目に心を射抜かれた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松下広美(ライティング・ゼミNEO)
 
 
「白いお人は初めてどすか?」
最初、何を言われているのかわからなかった。
「前の白いお人とかぶらないようにせんと……」
ああ、そういうことですか!
 
「舞妓さんとお会いするの、初めての人は手をあげてください!」
8割くらいの手が上がった。
「みなさん、初めての人ばかりなので、どれでも大丈夫です!」
私は、目の前の白いお人にそう答えた。
 
京都天狼院で開催された秘密の旅「秘トリップ」で、舞妓さんをお呼びした。
京都天狼院の1回の座敷で踊りを舞っていただき、お話をさせていただき、撮影までさせていただくというイベントを開催したのだ。
 
今回お越しいただいた舞妓さんの、小晶(こあき)さんは、舞妓さんのことをご自身のことも含めて「白いお人」という表現をした。
 
 
「舞妓さんをお呼びするには、一見さんじゃダメだと聞いたことがあるんですが、やっぱりそうなんでしょうか?」
お客様の中から質問が出た。
「そうどすね、お茶屋さんに来てくれはる人は一見さんはあきまへんけど、お料理屋さんの繋がりなどでいろんなとこに行きますよ」
やはり、一見さんで簡単にはお茶屋さんに行くことはできない。けれど、お付き合いのあるお店で呼ばれて、お酒の席のお付き合いはもちろんだけど、舞妓さん撮影会などもあるらしい。京都以外の、遠くに呼ばれることもあるとのことだった。
 
舞妓さんをお呼びするのに一見さんは難しいのだが、天狼院書店では、京都天狼院のオープン当初からご縁があり、お付き合いをさせていただいている宮川町のお茶屋さんがある。
そのご縁もあり、秘トリップでは毎回、舞妓さんにお越しいただきインタビューを開催したり、舞妓さん撮影会だけで開催したりもしている。
 
白いお人を初めて見る方も多いのだったら……と選んでいただいた曲で踊っていただき、質問タイムになる。
「小晶さんは、なぜ舞妓さんになったんですか?」
「母の勧めなんどす」
ええ? 少し会場内はざわめく。
舞妓さんになるということは、昔は「身売り」というイメージもあったはずだが、今は親がすすめる職業にもなるのか? と疑問に思う。
「中学2年の進路を決めるときに、行ける学校に行こうと思ってたら、母から、この動画見て、と舞妓さんの動画を見せられたんどす。毎日のように見せられるうちに、それもいいかなって思うようになりました」
「じゃあ、中学卒業と同時に?」
「うちは、14のときから。中学卒業する前に京都に来て、今のお母さんとこに寄せてもらったんです。中学3年の1学期までは部活があって、大会が終わって転校してきました。で、修行して、卒業と同時にデビューしました」
だいたい中学と同時に置屋さんに入るらしいけど、一番早く舞妓さんになれる道を選んだと言っていた。
「当時は、一番若い舞妓だって言われてたんですけどね、今は『オバ舞妓』でハッシュタグをつけられてます」
と笑いながら話してくれた。
歳を聞くと、19歳だということで、舞妓さんの中ではお姉さんの部類に入ることもあり、そんなふうに呼ばれていると自虐ネタまで披露してくれた。
 
「もう、来年には『衿替』で芸妓になるんどす。それが楽しみで」
舞妓さんから芸妓さんになることを『衿替』という。
ちゃんと舞妓さんとして役目を果たしての芸妓さんしか、ちゃんと儀式はしてもらえないらしい。
小晶さんは真っ直ぐな目で、芸妓になることが夢だと話してくれた。
最初は、母から勧められた道だけど、舞妓の世界に入ったのも、芸妓になることも、自分の決めた道なんだと語る姿は、とてもかっこよかった。
 
中学を出る前に自分の生きる道を決めるなんて、簡単にはできない。
自分のことを振り返ってみても、中学校から高校に行くのなんて当たり前だったから、学力に合わせて決めただけだった。大学を決めるときだって、なんとなく決めた道だったし、何なら就職だって入れるところに入っただけだった。
 
夢なんて、あっただろうか。
 
ぬるっと生きてる気がすると、思う。
やりたいことがあるわけでもなく、求められることをしてきた。
「夢は何ですか?」とか「何がやりたいですか?」と聞かれて、即答できたことがない。
だって、夢なんて大きなモノはずっと持っていなかったし、なりたい職業くらいはあったけれど、それも自分で決めたのか? と言われるとそうでもないから、簡単に諦めることもできた。
 
だけど、それを「おかしい」という人がいる。
夢がないなんて、信じられないと。
でも、ないものはないんだ、って言おうと思ったけれど、口には出せなかった。
夢がないということは、劣等感でしかないからだ。
 
夢を見なくなったのは、叶えられないと思ってしまっていたからだ。
夢がなくて、夢があったところで叶えられないのは夢がないのと同じで、できなかったら、と思うと踏み出せない。だから、やらないんだ。
そう思ううちに、いつの間にか夢がある人のステージからは降りてしまっていた。
 
現状維持でいい。これより悪くならなければ……。
 
会議までに見ておきなさいという、YouTubeがあった。
夢を持たないこと、夢に向かって努力をしないことについて、どれだけの損失があるかということを話しているものだった。
夢を持って成功させた人、
夢を持って努力はしたけど成功しなかった人、
夢を持たずに現状維持をした人、
それぞれの行き先をグラフで示していた。
 
「現状維持は、下降線をたどる」
一目瞭然だった。
 
現状維持が、どれだけ怖いものかを目の前で見せられた。
一直線に引かれた横棒は、まっすぐなはずなのに、下に向いているように見えた。
私はもしかして、そこにいた?
 
背中に冷たいものが流れる。
いや、鈍器で殴られるくらいの衝撃があった。
 
夢、というほどの大きなものではないけれど、先々こうなりたいとか、こんな暮らしがしたい、というのも夢になるのだろうか。
夢っていうのは、誰かに話せなければ夢ではないんだろうか。
夢を持ちたいけれど、叶えられないものはいけない、いつの間にか思い込んでいたけれど、失敗してもいいとそのグラフは語っている。
本当に? と思ってしまうのだけど、理論立てて話されたことを覆す材料を持ち合わせていない……。
 
 
「こんなくだらないことを聞いていいのかわからないんですけど……」
また小晶さんに向けて、違う質問が出る。
「なんどすか?」
「好きなお菓子ってなんですか?」
「ええー、冷たいものですか?」
いやいや、冷たいもの限定じゃなくていいですよ、と思いながらも、聞いた方は
「今の季節なんで、冷蔵じゃない方が……」
ちょっと真面目な話になっていたのが、うまく笑わせてくれるやり取りに変わる。
「塩辛いものか、甘いものか…‥、もう無限じゃないですか!」
また違う表情でコロコロと笑う小晶さんは、とてもかわいい。
お菓子を無限に食べてしまうという顔は、若いんだと思わせる表情だったし、白いお化粧をして、とてもいい格好をしているけれど、女子高生だった自分たちと変わらないんだと感じさせてくれた。
 
舞妓さんだからと、何か、違う次元の人だと無意識のうちに思っていたんだろうか。
白いお人は、顔をおしろいで塗っているだけで、何も変わらない。
ただ、夢に向かって走っている人なんだ。
 
 
もう一度、夢について考えてみようと、襟を正す。
別に失敗をしたところで、傷ついたところで、やり直せばいいだけだ。
忘れそうになったときには、この写真の、白いお人のまっすぐな目を見て思い出そう。
 
 
「次はご指名してお呼びしたいですね!」
「芸妓さんの小晶さんを、また呼んでほしいです!」
 
秘トリップのグループでは、そんな話がされている。
また、ご指名できるように、この旅を大きくして盛り上げていくことも、ひとつの夢としていいんだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2022-08-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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