メディアグランプリ

毒も栄養のうち


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記事:鈴木喜勝 (ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「あなたは普段、毒ばかり食べているのよ。」
 
カウンセラーは普段からそう言っていた。
一時期、ちょっとしたことでカウンセリングを受けていたことがある。そのカウンセラーの女性は、食事から心身を健康にさせようといった考えだった。
 
そんな彼女がカフェを借りて、一日店長をするという。
普段、お世話になっていることもあり、一度彼女の食事を食べに行こうと思った。小田原の近くまで行き、見慣れない街並みを歩いていくと、古民家をリフォームしたカフェに到着した。
 
出されたメニューは、ほとんどが野菜料理。
 
小松菜を胡麻和えにした奴。
玉ねぎを蒸した奴。
にんじんのきんぴらみたいな奴。
その他いろいろ。そして、みそ汁と玄米ご飯。いかにも“オーガニック好き”の人が喜びそうなメニューだった。
 
当然私のような肉と米と酒で生きてきた人間にとっては、あまりにも物足りなすぎる。
素材を生かした調理であり、けっして美味しくないというわけではなかったのだが、物足りないのだ。味が薄すぎるのだ。隣で同じメニューを食べているカウンセラーさんの知り合いは「うまいうまい!」と食べていたのだが、正直にいうと全然美味しくなかった。
 
その後、カウンセラーさんと少し話をする。
今の悩みはどうとか、どんな感情を抱いているかとか。カウンセラーさんらしい会話だった。
「あなたはコーヒーと砂糖を取りすぎてる。あとお肉も。これらは毒だから、控えること。なるべく無添加のものを多く取り入れて。私はね、食事については管理栄養士並みの知識があるから」と豪語する彼女。
 
その話を聞いていて、このカウンセラーさんに頼るのはもうやめようと思った。カウンセリング自体はいろいろな変化があったことから、頼っていたところもあるが、食べ物が毒だどうたらという話になってからすっかり冷めてしまった。
 
食べ物が健康や病気に与える影響を過大に評価することをフードファディズムというらしい。
「コーヒーはガンになる」とか「納豆を食べると痩せる」みたいな奴。ここ最近のブームであるヴィーガンなんかもそれにあたるだろう。
 
そういうことが健康や脳に対していい影響を与えることはわかる。うつ病だった人が食事を改善するだけで病状が軽減したなんて話も確かに聞いたことがある。だけれども、私は一方的に「〇〇は毒だ」「〇〇は悪だ」という風潮は、あまり好きじゃない。
 
カウンセラーさんの作ったご飯を食べ終わった後、本屋に行ったり少し歩いてみたりして過ごした。自宅に着いたのは、夕方だった。
「おかえり」と、エプロンをつけた妻は、夕食を作って待っていてくれた。作ってくれたのは、生姜焼き。ヴィーガンの人が見たら卒倒するようなメニューである。お昼に食べたカウンセラーさんのご飯しか食べてない私は、お腹がペコペコだった。
 
一口食べる。これが、またうまい。
甘辛いタレと生姜の風味が食欲をそそる。おそらく、塩分は多すぎだろう。しかし、あっという間にご飯がなくなってしまう。「これ、うまいよ」というと、妻は「そう」としか言わない。結構クールな反応。しかし、まんざらでもない様子。
 
最後に、帰り道で買って来たお団子を妻と一緒に食べながら、コーヒーを入れて飲む。
カウンセラーさんの助言を完全に無視した食。しかし、私はあの人が作ったお野菜モリモリのご飯よりも、何十倍もの幸福を感じていた。
 
食べ物ほど、環境に左右されるものはないと思う。
自宅で一人飲むビールよりも、炎天下の中で友だちとBBQをしながら飲むビールは格別だ。狭い休憩室で食べるおにぎりよりも、ピクニックに行った先でブルーシートを敷いて食べるおにぎりのほうが断然いい。
 
誰かと一緒じゃなくたっていい。良い環境での食事は実に心地よい。
1人でゆっくりと入って、のんびりするカフェの時間も私は大好きだ。しっぽりとバーで飲むウイスキーも格別だ。
 
栄養素は、もちろん食事にとって大切なものであるのは間違いない。
塩分たっぷりの生姜焼きと、お野菜たっぷりプレートなら、栄養はお野菜のほうが多いだろう。
だけれども、幸福感は断然、妻と食べる生姜焼きに軍配があがる。
 
ビタミンやらなんやらも大事だけど、それよりも「幸せを感じられる食事」のついても、人々は考えたほうがいいのかもしれない。今では両親が共働きで、子どもが1人でご飯を食べたりするという。同じご飯ばかりをずっと食べ続ける年配の方々もいるという。
 
孤独を感じやすい、こんな時代だからこそ、食事から得られる幸福感に目を向けたい。
食材そのものが毒とかそういうことでなく、誰かと共に食事を取る幸せについて、もっと考えるようにすればいい。妻の作った生姜焼きに、そんなことを感じた。
 
「そういえば、次のカウンセリングはいつになるの?」
お団子とコーヒーをいただきながら、妻は私に言った。
「それなんだが、違う人にカウンセリングを頼もうと思うんだよ」
そういうと、妻はふふっと笑い、私に言ったのだった。
「あのカウンセラーさん、なんかうさん臭くて嫌だったんだ。野菜ばっか食っててもダメなんだって。何でもバランスよく食べるのが一番だよ。毒も食らい、栄養も食らうのが一番。」
 
妻は管理栄養士である。フードファディズムを唱える人間には、とても厳しい。
 
 
 
 
***
 
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2022-08-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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