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しくじり先生フォーマットの優秀さを予備校講師が分析してみた

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記事:吉田裕子(ライティング・ゼミ)

私は、予備校講師です。

人前で話すことを職業にしています。

学生アルバイトの頃から数えれば、この仕事を13年間やっているのですが、残念ながら、人前で話すことにはまだ慣れません。

慣れ親しんだいつもの生徒たちだったら良いのですが、初めての生徒たちと会う春先などは、授業に向かう電車でお腹が痛くなります。

人前で、上手く話せるようになりたい!

そのヒントを求めて、落語を聞いてみたり、TEDのプレゼンを見てみたり。同業者の林修先生がテレビに出ていると、ついついチェックしてしまいます。

そんな私が、トークのお手本としてよく見ているのが、

「しくじり先生 俺みたいになるな!!」

というテレビ番組です。

売れなくなったり、炎上したりするなど、大きな失敗をした人が、自分の体験談を語るという番組。「しくじり先生」というタイトル通り、しくじった人は先生役で、生徒役の芸能人たちに向けて話をします。

この日曜日も、しくじり先生の特番をやっていたので見ておりました。

この日は、しくじり先生の火付け役の一人、オリエンタルラジオの中田敦彦が歴史上の人物のしくじりを解説するという形式での特番でした。

その日のテーマは「ヒトラーの演説力の危険性」だったのですが、むしろオリラジ中田氏の演説力がすさまじくて、1時間半、ずっと釘付けでした。

ヒトラーがドイツ国民を熱狂させたように、中田氏は、スタジオの芸能人、さらにはテレビの前の我々を強烈に惹きつけていました。

すっごいなぁ……。

夢中になって楽しむ視聴者の私としての私がいる一方で、人前で話すことを職業とする者として、徹底的に敗北した気分でした。

すっごいなぁ……。

……。

……。

負けず嫌いな私は、ここで、この番組のプレゼンから何か吸収したいと考えました。

芸人としてトークを磨き上げた中田氏のプレゼン能力が優れているのはもちろんですが、この番組は、深夜時代以来、多くの芸能人・文化人が出演しています。

プレゼンが上手そうな人だけが出ているわけではありません。

それなのに、安定的に毎回、面白いのです。

これは、この番組のフォーマットに秘訣があるのだろうと考えました。

なぜ、しくじり先生のプレゼンは面白いのだろうか。

そう考えてみたとき、次の3つが浮かびました。

①人が興味のある話題を取り扱う

しくじり先生の一番の面白さは話題です。

「あの騒動の裏話を初告白!」というような、ワイドショー的でセンセーショナルな話題も多く、見出しからして興味を引きます。

浅田舞の「妹が天才過ぎてグレちゃった先生」とか。

辺見マリの「洗脳されて5億円を失っちゃった先生」とか。

……ズルいですよね。
もう、聞きたくてたまらないですよね。
どんなに話しぶりが下手でも聞きたいですよね。

どう上手く話すかというHOWの前に、そもそも何を話題として取り上げるか(WHAT)で、かなり勝負が決まっている部分があるわけです。

ネタの厳選。

素材で勝負。

受験勉強を教える身としては、しくじり先生がうらやましい。私も、問題選びには気を遣いますが、しくじり先生ほど、普遍的に引きの強いネタを見付けてくるのは、かなり難しい気がします。

②聞き手よりも下の立場で、失敗をさらけ出す

この番組の先生役は、しくじった人です。

大失敗をした人が「恥ずかしながら、私の失敗談を聞いてください」と出てくるわけです。

だいたい、腰が低いです。ベテラン芸能人の方も出てきますが、生徒役の芸能人達にからかわれても怒りません。

そして、この番組に出てくる人はたいてい覚悟が決まっていて、普通なら隠しておきたいような失敗談を打ち明けます。とんでもなくひどい言動をさらします。

だから、聞き手の生徒たちも、視聴者も、思わずツッコミます。

「え、それはないでしょ」

「普通こうするでしょ」

「まさか……!?」

そうやってツッコんでいる内に、どんどんプレゼンに参加している状態になるんです。

しかも、だんだん応援したくなってくるんです。

「ちょっとー!」

「大変だったね……」

気が付いたら、涙ぐんで見ています。

ふんぞり返って成功談を話されても、あまり聞きたくありませんよね。

腰低く、かつ、正直に、失敗談をさらけ出す。

予備校講師は、生徒よりも年上だし、役割上、どちらかと言えば、上からの物言いになることもあります。受験勉強のノウハウになると、自分がやって良かったこと、上手くいったことを語りがちです。

……ちょっと、気を付けてみようと思いました。

③事前想定の徹底

しくじり先生が毎週安定して面白い秘訣として、間違いなく言えるのが、プレゼンに使用する資料です。

先生役が話しながら、絶妙なタイミングで生徒役に教科書をめくらせていきます。

この教科書が、実に良く練られているんです。

興味を引く切り口。

エピソードを話す順序。

気になるところでいったん寸止めし、聞き手に「えー、どうなるの」と言わせてからのページめくり。

この資料通りに進めていけば、プレゼンは失敗しないわけです。

資料をつくる番組スタッフはきっと、

「このエピソードのどこを強調したらウケるか」

「これを言ったら、どんなリアクションが来るか」

「どこに間を入れたら、興味を引くか」

といったことを徹底的に想定して作っています。

やはり、プレゼンは準備8割。

……と。

ここまで考えていて、この番組の場合、一般のプレゼンよりも明らかに有利な条件が、もう一つあることに気が付きました。

追加の4つ目。

聞き手の問題です。

しくじりの先生のプレゼンの聞き手は、生徒役の芸能人。

この聞き手は、大きなリアクションをすることを義務付けられています。というか、派手なリアクションをしない限り、テレビに映ることができないので、積極的に反応します。

しかも、テレビにはワイプという仕組みもあります。聞いている人の反応を小窓で見せる、アレです。その仕組みに慣れている芸能人は、話を聞きながら、身を乗り出したり、うなずいたり、熱心です。

しくじり先生のプレゼンを盛り上げるに当たって、聞き手も協力者です。

聞き手として呼ぶ芸能人のキャラなどを把握しておけば、反応はだいぶ事前に想定できそうです。

聞き手の特性をおさえ、反応を促し、共犯者として巻き込む。

これは、授業でも早速使えそうです。

ということで、しくじり先生に学ぶプレゼン術。

ネタの厳選。
腰低く、正直に失敗談をさらけ出す。
準備が8割。
聞き手を共犯者として巻き込む。

この四つを明日の授業から使っていこうと思います。
 

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-09-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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