50歳のおじさんがキックボクシングを始めたらありえないほどハマった理由
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:やまかわまさき(ライティング・ゼミ8月コース)
「痛っ! え!? サンドバッグってこんなに硬いのか!」
初めてキックボクシングジムに行った時の感想だ。
そして3分が長い、めちゃくちゃ長い。もうすぐ50歳を迎えるおじさんの腕も脚も心肺も全身が悲鳴をあげる。そのときはまさか行きたくて仕方なくなるとは思ってもみなかった。
昔から格闘技は好きだった。特に大学の時はK-1ブームがあり、豪快なKO劇に魅了された。それでも自分がキックボクシングをやろうとは夢にも思わなかった。
ボクシング系統のスポーツで思い浮かぶのは走り込み。私はマラソンが大嫌いだった。あんなしんどいスポーツ、なんでやる人がいるのだろうと思っていた。そして若い頃はボクシングジムやキックボクシングジムは気合と根性の世界というイメージ、気合と根性がなくて部活をさぼっていた自分としては最も縁遠い世界だと思っていた。
なのに、なぜキックボクシングを始めたのか?
きっかけはダイエットだ。私は定期的に太り、ダイエットして痩せる行為を繰り返している。
かのCMで有名なRIZAPにも通ったことがある。2ヶ月で10㎏痩せ、3年後に15㎏リバウンドした。リバウンド後は特に運動することもなく、ある日体重を測ると90㎏になっていた。さすがにまずい……。このままでは0.1トンになってしまう……。
スポーツジムに通い筋トレを行うことで、ある程度は体重を落とした。実は筋肉は運動している時だけでなく普段の生活時もカロリーを消費してくれるため、有酸素運動より筋トレで筋肉をつけた方が痩せる効果が高いのだ。だが、ある程度から先がなかなか落ちない。これは何かテコ入れを行わなければならない。同じ刺激に慣れてしまうと身体がそれに対応してしまい停滞してしまうことがあるのだ。では他に何がある?
駅までの道沿いにキックボクシングジムがあった。SNSを見ると女性もダイエットで通ってるようだ。気合と根性がなくても大丈夫かもしれん、とりあえず行ってみよう。
体験コースのメニューはシャドーボクシング、サンドバッグ打ち、ミット打ちだ。
そこで冒頭の感想だ。「痛っ! え!? サンドバッグってこんなに硬いのか!」そして「え!? 3分ってこんなに長いのか?」だった。
とはいえ、パンチとキックを当てる音は気持ちが良かった。とりあえず入会して暫くは続けてみることにした。
最初はやはりサンドバッグの痛さに慣れない。サンドバッグの中身はサンドと聞いて砂を想像する方も多いが布である。布がパンチやキックで叩き固められて結構カチカチになっている。蹴ると脛を硬いもので殴られている様な痛みが走る。最初はそろりそろりと加減をしながら蹴る。全然テレビなどで見たように思い切り蹴れないのだ。
「すみません、脚めっちゃ痛いんですけどこれって慣れるもんなんですか?」会長に聞いてみた。
「最初はそんな感じですけどすぐに慣れますよ!」ほんまかいなと思っていたが不思議なもので1ケ月もすると慣れてくる。パンチもキックも打ち方にコツがある。サンドバッグに対してまっすぐ当てることが大切だ、斜めに当てると痛いし怪我にもつながる。痛さ問題は割と早く克服できた。
痛さよりもしんどい事が嫌いな私にとって重要なのは心肺のしんどさだった。最初はすぐに息が上がるためゆるゆるとメニューをこなしていたが、今は1回行くと3分を18ラウンド、どれだけ自分を追い込めるかというあの大嫌いだった気合と根性の世界へ自ら進んでチャレンジしている。毎日やると身体に悪いので週3回だ。だが毎日でも行きたいとすら思っている。
なぜそうなることができたのか? そこには決して若い頃やっていたのでは得られなかった快感があったからである。
その快感とは何か?それは「若返りの実感」である。
50歳になると、髪の毛も薄くなり老眼も始まる。つまり人生が折り返し地点を過ぎ、下り坂に差し掛かっていることから目を背けることができなくなり、認め受け入れるしかなくなる状況になる。おじさんとしての諦めが出てくるのだ。
ところがキックボクシング、最初めちゃくちゃ蹴った脚が痛かったものが徐々に痛くなくなる、蹴りも鋭くなってくる。3分を休み休みでないとこなせなかったものが少しづつ休まなくてもできるようになってくる。体型も引き締まってくる。下り始めていた坂をまた上ることができているという実感、快感。
おそらく若い頃やっていたとしてもこれと同じような軌跡を辿っていただろう。しかし、やった分だけ上手くなるのは当たり前だと思ってしまっていたはずだ。向上して当然だと思っていたはずだ。ここまでの快感や充実感は得られなかっただろう。
老いを受け入れるしかなかったおじさんだからこそ続け、さらにしんどさを欲しているのだ。前回より動ける。行くたびに若返る。もうそれがたまらなく快感なのだ。
歳を重ねてからの激しいスポーツ、体調と相談しながらチャレンジしてみて欲しい。
***
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