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メディアグランプリ

とんでもない束縛男に惚れこんでしまった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大江 沙知子(ライティング・ゼミ特講)
 
 

まったく、ひどい男に捕まっちゃった。
 
ねえ、ちょっと聞いてもらえない? 私が最近付き合い始めた彼のことなんだけど……本当にひどいの。きっとあなたもびっくりしちゃうから。
 
 
彼は、ひと言で言うと「束縛系」。私が他の誰かと話していると、いつも割り込んでくる。対象は男性だけじゃなくて、私の家族も、友達も、男女問わずみんなだよ。
 
それだけならまだしも、彼はいつも私と一緒にいないと気がすまないの。ここで言う「いつも」っていうのは、文字通り24時間ってこと。朝は彼の横顔を見ながら起きて、昼もほぼ同じ部屋で過ごして、夜は彼が眠りに落ちるまで一緒に過ごさなきゃいけない。実はね、トイレだって自由に行けないから困ってるの! 見ていない隙に私が姿を消せば、彼は怒り狂うから。真っ赤になって喚き散らすその形相は、一度見たら忘れられないわ……しかも最近、ますます怒りをダイレクトにぶつけるようになってきて、もう言葉にならない喚き声をあげるんだから、怖いのなんのって。
 
ほんと、嫉妬深い束縛男なの。
 
 
でもそれだけじゃないよ。彼は「俺様」でさ。毎日のごはんに、洗濯に、掃除に……とにかく私を思い通りに働かせようとするの。私は家政婦じゃないっていうのに! 彼は食欲旺盛で、夜中におなかが空いて起きちゃったりするんだけど、熟睡している私を大声で起こすんだよ。それで彼に食べさせてあげなくちゃいけない。もう、こっちは睡眠不足でタイヘン。
 
あとはね、家事だけならまだしも、彼がお風呂に入るときは毎日背中を流さなきゃいけないし、ここだけの話、一日に数回、彼のおしりを拭いてあげなきゃいけないの。信じられる?
 
 
ああ、仕事? 彼に収入はあるのかってこと?
 
いや、それが……彼は無職なのよね。普段何してるかって言うと、家でゴロゴロして、昼間から飲み始めちゃう。彼は本当に「のんべえ」でさ、一日何回も、ガブガブ豪快に一気飲み。しかも、最近どんどん飲む量が増えてきてる。
 
 
一体どうしてそんな男と付き合ってるの、って? そう思うよね。じゃあ、彼との馴れ初めを話してもいい?
 
始まりは、私の一目惚れだった。だって、彼はイケメンなんだから! どれくらいかって言うと、道を歩けば必ず注目を集めるくらい。時々、すれ違う人が彼のことを噂しているのも聞こえるよ。ええと、顔はどっちかというと「カワイイ系」かな? 小動物みたいに目がクリっとして、大きな黒目がウルウルしてるの。それに肌なんかプルプルつやつやで羨ましくなっちゃう。身長は高くないよ。だけど、それすら可愛くて、チャームポイントだって思えちゃうの。
 
 
彼と初めて会ったのは3ヶ月前。私たちはすぐに惹かれ合った。だって、顔を合わせて数秒で熱烈なハグを交わし、その2日後から同棲を始めたんだから。きっと、彼も私のことを、唯一無二の相手だと分かったんだと思う。その日から彼はいつも私にハグを求めてきて、一緒に過ごす昼間はたいてい、暑苦しいくらいにくっついたままでいる。
 
だけど、実はそれよりもずっと前から、私は彼を見ていた。彼の存在を知った日のことは忘れられないわ。出会いは病院だった。その頃の彼は頼りなさそうで、儚くて、「守ってあげなくちゃ」って思わせる魅力があった。それから私は彼のことを追いかけ始めたの。最初は、月1回くらいのペースで病院に通った。それからだんだん頻度が増えていって、2週間に1回、それから毎週……私はますます彼に恋い焦がれ、直接会える日を心待ちにしていった。
 
そして10ヶ月後。ついに彼に会えたってわけ! もう最高の気分よ。いくら彼に束縛されても、俺様ぶりを見せつけられても別れられないのは、この日の喜びがあるから。彼がちょっと笑いかけてくれるだけで、その幸せが戻ってきて、「あぁ、やっぱり私には彼しかいない」って思っちゃうの。これこそ、惚れた女の弱みってやつね。
 
 
ああ、そうそう、彼と会った時、真っ先に思ったことがあるわ。それはね……どことなく私に似てるってこと。顔立ちがなんとなく、そう、まるで、
 
【血がつながっている】みたいにね。
 
 
あ、彼が呼んでるわ。私がパソコンにかじりついてるのに気づいちゃったみたい! ごめんね。このあたりで失礼するわ。
 
 
――え? 彼の年齢? 知りたい?
 
ふふふ。これは秘密にしておいてね。実はね、私たちはすごく、すごく、年が離れてるの。しかも、私の方が年上。どれくらい離れているかというと……30年も。
 
じゃあね!
 
 
月齢3ヶ月、身長59センチ、体重5キロ。
彼こそが私の心を鷲づかみにして離さない、最愛の束縛息子である。

 
 
 
 
***
 
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2022-09-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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