殺したいほど嫌いな”アッシー”と、一緒に住んでる
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記事:遠藤 誠(ライティング・ゼミ)
「うわぁ……ええ、マジか~……」
玄関の扉を開けて、思わず口に出してしまった。
一人暮らしを始めて約1年半になるが、帰宅したときにはいつも「ただいまー」と言ってしまう。
生まれてから18年間実家で過ごしてきたので、「ただいま」のクセはなかなか直らないのだろう。
でも今日は違う。「ただいまー」を言う前に「うわぁ……」が出てしまった。
それもそのはず。玄関の扉を開けたら、目の前の床に黒い物体が這っているんだから。
”クモ”だ。しかも、握りこぶしくらいはあろう大きさの。
もう、小さいころからクモが大嫌いで大嫌いで。
何、あの動き? 重力とか関係なしに壁とか、天井まで移動するし。
じっとしてると思ったら急に動き出したり。何ならちょっとジャンプしたり。
しかも、目とか足とか8つくらいあるし。そんなに必要??
あと、あいつら家とかベランダに勝手に巣作っちゃうし。
そりゃあいつらも必死で生きてるんでしょうよ。エサ食べるために必死なんでしょうよ。
それを重々承知の上で、クモに申し上げたい。
巣、作らないで。マジで。
幼かったわたくしも、すでに19歳。嫌いなピーマンも克服しましたし、苦手なワサビの美味しさも分かるようになりました。我慢することも覚えましたよ、はい。
しかし。しかし!
クモだけはどうしても無理!! マジで!!!
はぁ……それにしても、なんで家の中にクモがいるわけ? 家の鍵ちゃんと掛けたのに?
夕方からバイト頑張ってさ、腹ペコでさ、帰宅したわけですよ。
冷凍庫の中のアイスを楽しみにここまで頑張ってきたわけですよ。
でも、ここでクモ。
あと少しで迎えることができたリラックスタイムの手前に、クモ。
……とりあえずクモには外に出ていってもらわねばならぬ。
玄関に置いていた傘で床を叩いて、クモを外に誘導してみる。
ダンッ! (カサカサ……) パシッ! (カサカサ……)
……え、そっち行っちゃう? クモ、そっち行っちゃうの?
「そっち、外じゃなくて部屋なんですけど!!!」
もう、空腹と苛立ちで叫んでしまった。
夜に叫んでしまったから、お隣さんから壁ドン(山崎賢人がやるヤツじゃないよ!)を食らってしまう。
その衝撃で、またカサカサ……もっと部屋に近づいちゃってるし。
こうなったら、角に追い込んで決着をつけるしかあるまい。
ちっちゃいクモならティッシュで包んで捨てちゃうけど、今回はその倍以上の大きさ。
ティッシュ越しとはいえ、掴むのは気が引ける。かといって丸めた雑誌でつぶしてしまうのはもってのほか。
……掃除機で吸ってしまおう。
そう思い、私はリーサルウェポン(掃除機)を手に取り、クモを追い込んでいく。
クモをつぶしてしまわぬように、床や壁を叩いて角に誘導していく。
隙あらば掃除機を近づけるも、敵は案外しぶといようで、なかなか吸い込むことができない。
「男には、ダメだとわかっていてもいかなきゃいけないときがあるんだ!」
何かの漫画でそういう台詞があったけど、それって今のことを言っているのかもしれない……(ちがう)
戦いを繰り広げること約15分、目標のA地点(本棚の横)に誘導することに成功。
ここで仕留めないと、また逃げられてしまうだろう。
掃除機を起動し、吸い込み口を敵に向け、ゆっくりと近づく。
8個の目がこちらを見ている。1秒ほど、アイツと目が合った気がした。
お前との戦いもこれまで、さよなら。
……ズゾゾッ! という音とともに、あいつは吸い込まれていった。床にはもう姿はない。掃除機のダストカップの中で、グルングルン回っているに違いない。
すぐにビニール袋を用意し、手際よくあいつを取り出す。触りたくないので、もちろん袋越しで。
埃まみれの何かがカサカサ動いているのを見てしまって、本日二回目の「うわぁ…」。
袋の口をきつく結んで、すぐにゴミ箱に投入!
ようやく、ようやく戦いが終わった……
心の軽井沢こと、この6畳のワンルームに今! 再び平和がもたらされた!!
いやー、長かった。バイト終わりにクモと一戦交えるとか、なんて日だ。
さっさと風呂入ってアイス食べて寝よ……
……そういや、さっきのクモ、なんてやつなんだろ??
もし毒持ってたりしたらヤバいだろうし、できるならもうお会いしたくないし。
アイスを食べながらノートPCを開く。検索ワードは「家 クモ 大きい」、我ながらボキャ貧だなぁ……
検索結果の写真の中に、さっきのあいつとおんなじ奴がいる!!
どうやらあいつは「アシダカグモ」という名前らしい。
いろんなサイトを見た結果、あいつはこういうクモらしい。
・毒は持っていない
・人に向かってくることはない。臆病なのでむしろ逃げていく
・人間が寝ているうちに近づくことはほとんどない
・巣をつくらない
・ゴキブリなどの家の中の衛生害虫を食べてくれる、益虫
・衛生害虫が根絶して家の中に食べ物がなくなると、自然とその家を出ていく
……めっちゃええやつやん。人間にとってメリットしかないやん。
もしかしたらあいつは「お留守の間にお掃除させていただきますね~」って、感覚で入ってきたのかもしれない。
私が留守の間に、家に潜むゴキブリたちを退治してくれていたのかもしれない。
掃除が終わって帰ろうとしたときにばったり私と鉢合わせて「え、人間!?」ってめっちゃビビッていたのかもしれない。
そんないいやつなのに、私といえば……
クモというだけで毛嫌いして、傘で威嚇して、挙句の果てに掃除機で吸い込んで……
ごめんね、クモ。いや、アシダカグモ。
これからはもっと仲良くしようね。なんなら「アッシー」とあだ名で呼ばせておくれ。
クモ、というだけで偏見をもって接してしまった。
一口に”クモ”といっても、当然いろんな種類がいるわけで。
よく家にいる、体長1cmも満たないほど小さなクモ”アダンソンハエトリ”
メスだけが毒をもち、腹部と腹部背面に赤の模様がある”セアカゴケグモ”
そして、「アッシー」こと”アシダカグモ”
などなど。
それぞれの特性を知ることで、同じクモでも見方が変わってくる。
別にクモに限った話じゃない。人間だってもちろんそうだ。
「浮気しない男はいない」「女性はみんな噂好き」
「○○出身の人は気性が荒い」「○○な仕事をしているひとは頭が悪い」
男性の中には一途な人もいるし、噂に左右されず自分の意思で行動する女性だっている。
偏見やうわさ(そのほとんどは出所があやふや……)をもって、ある人間を判断してしまうのはナンセンスだ。
それを教えてくれたのは他でもない、アッシーだ。
アッシーの命を無駄にしないよう、これからは多面的な視点をもって行動しよう。そう思った夜だった。
翌日、玄関先で別のアッシーを見かけた。こちらをちらりと見ると、カサカサと逃げて行ってしまった。
私の下宿はアッシーが守ってくれてるから、しばらくゴキブリと対峙しなくて済むだろうなぁ。
***
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