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K先輩へのラブレター


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記事:櫻井 るみさま(ライティング・ゼミ)

そろそろ夏が終わろうとしている。
夏が終わるということは、いろいろなスポーツにとってシーズンが終盤に差し掛かろうとしているということだ。

私は中学・高校と陸上部だったけれど、それは陸上でも同じだった。
高校の頃は月に1回は大会があったので、大会を中心に1ヵ月が回っていた。

大抵の先輩は7月の大会で引退し、受験に備える。
でも、部活での推薦を狙っている先輩は8月の合宿に参加したり、無事に進路が決まってから、冬の間身体が鈍らないように……とトレーニングしに来たりした。

 

高校1年のときの私は、ある先輩が練習に来るのを、いつも待っていた。

 

 

 

3年のK先輩のことを意識したのは7月の大会が終わった後だった。
1年生の部でいい成績を修めた私に話しかけてきたのだ。
そして、その日をきっかけにして、先輩はちょくちょく私に声をかけてくれるようになった。

1年生の女子からしたら3年生の男子の先輩なんて、最も遠い存在。
女子の先輩の手前もあり、どう対応していいのか分からなかった。
それでも先輩は困っている私を見るのが楽しかったのか、ニコニコとちょっかいを出してくる。

でもただからかうだけではなく、調子が悪い時には「大丈夫か?」と心配してくれたりもした。下っ端の1年生女子にまで気を遣ってくれる人だった。

ある時、同じ部活の1年男子にK先輩の事を聞いてみたら、「あんなに優しい先輩はいない」とか「すっげーいい先輩。 憧れてる」とか、ほぼ全員が先輩のことを絶賛していた。
男女問わず、学年問わず、誰からも慕われている優しい先輩だった。

男子の先輩から話しかけられることなんてなかった私が、先輩のことを好きになるのに時間はかからなかった。
2学期が始まる頃には、私は先輩のことが好きになっていた。

 

だけれども、少し好きになるのが遅かった。

先輩はすでに部活を引退していたし、1年生と3年生は校舎が別だったので、廊下ですれ違うようなこともなかった。
たまに購買や学食で遠くから姿を見かけることしかできなかった。

 

 

3月の初めに卒業してしまう先輩に思いを伝えるチャンスは少ない。
まして、2月になったら3年生は自由登校になってしまうので、学校で姿を見かけることはほぼなくなる。
数少ないチャンスを活かさなければ……、と思った私は、バレンタインにチョコレートを渡すことに決めた。

チョコレートと一緒に受験にご利益のある神社でお守りを買って渡そう。

1年生女子の可愛い決意だ。
どこで知ったのかは覚えていないけれど、東京の湯島天神という神社のお守りは受験に効くということを私は知っていた。
そして、とある日曜日に部活が終わった後、電車に乗り、湯島天神というところを目指した。
北関東の地方都市に住んでいた私が、初めて東京の地に立ったのはこの時が初めてだった。

ただ電車に乗ってお守り買って、帰ってくるだけ。

それだけのことなのに、ひどく緊張したのを覚えている。

 

 

 

そして、バレンタイン当日。
私は電話で最寄の駅に先輩を呼び出した。
当時は、現在のように個人情報の取扱いにそれほど細かくなく、私の通っていた高校では全生徒の住所と電話番号が載った名簿が配られていたのだ。

先輩はすぐに来てくれた。
時間は多分18時くらいだったと思う。

先輩の受験勉強の邪魔をしちゃいけないと思い、渡すだけで帰ろうとした私に、先輩は「少し話そう」と誘ってくれた。

その時に何を話したのかは覚えていない。

覚えていないけれど、ただ……、すごく楽しかったことだけは覚えている。
すごく笑ったことだけは覚えている。
何より、受験勉強で忙しいはずの先輩が、時間を取ってくれたことがとても嬉しかった。

1時間ほど話して、先輩と別れた。
帰りの電車の中で、幸せを噛み締めていた。
先輩がチョコとお守りを受け取ってくれたこと。
時間を割いて私と話をしてくれたことに、ほのかな期待を抱いていた。

 

 

 

そして、その2週間後の卒業式の日。
私は先輩に一緒に写真を撮ってもらって、その後告白した。

結果は……

 

 

 

私の想いは報われることはなかった。

私が先輩を好きなように、先輩にも好きな人がいた。
先輩の好きな人は、同じ陸上部の、私じゃない1年生の女子だった。
二人は付き合っていたけれども、遠方の大学に行く先輩に彼女は「遠距離はできない」と言い、別れてしまったのだそうだ。
これは、先輩が卒業して、ずっと後になってから聞いた話だけれども。

あの時の先輩の「ごめんな」という言葉は今もよく憶えている。

 

 

 

その後、先輩とは一度だけ地方の大会で再会した。
いろいろ話したいことがあった。
卒業式のときのお礼も言いたかったし、今頑張っていることも伝えたかった。

だけれども、やっぱり他の先輩の手前、先輩に話しかけることはできなかった。
自分の選手として来ている以上、気を緩ませちゃいけない……とも思っていた。

 

きっと、また会う機会があるだろうからいいか……と、その時は「いつかまた会える」と信じていた。

 

 

 

 

 

その15年後、私は先輩が不慮の事故で亡くなったことを知った。
享年33歳。

 

 

 

 

 

今でもK先輩は、私の心の中に住んでいる。
でも、ど真ん中じゃない。
心の端っこ?片隅?
何て表現すればいいのか分からないけど、心の中でたまに目に付く場所だ。

私が優しい男性が好きなのは、多分に先輩の影響があるんだと思う。

先輩の訃報を知った日から何年が経っただろう。
いつの間にか私は、先輩の年を追い越していた。
きっとこのまま、先輩よりもずっと年を取ってから、先輩がいる場所に行くことになるんだろう。

向こうで会えたら、いろいろ話したい。
駅で話してくれたことや卒業式の時のお礼、部活のこと、大学のこと、結婚したこと、先輩が手紙に書いてた素敵なレディになりつつあること(?)……。

いろいろ、本当にいろいろ。
その時までにネタ、貯めときますから。

 

でもその前に、生きてるうちに必ずお墓参り行きますから、待っててくださいね。

 

 

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2016-09-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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