「少女姐さん」に学ぶ、むずかしい時代を生き抜く知恵とは。
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記事:のんのんさま(ライティングゼミ)
「せぇ~んせぇい、わたしぃ、あのぉ、別にぃ、悩むのが好きなわけじゃなんですけどぉ…」
そんな前置きをして、彼女は語り始めた。
わたしが講師として携わっているウォーキング教室に、生徒として通う彼女。わたしより10以上は年上で、優しいダンナ様もいて、お二人いるお子さんももう高校生以上。仕事もしていて、習い事も複数していて、好きなアーティストのライブにも足しげく通う、自由なる行動派。立派な「世間にうらやましがられる側」の大人の女性だ。
それでも「せぇ~んせぇい」は限りなく「てぃぇ~んてぃぇい」に近く、半べそをかいたように消え入りそうになりながら、舌足らずに必死に話すその声だけを聞いていると、まるで小さな女の子を話しているように思える。
そして、前置きに続くのは、
「自分以外のみんながぁ、みんなキラキラ輝いているように見えてぇ、自分だけ置いていかれているみたいでぇ、いったいわたしはなにやっているんだろうってなってぇ、落ち込むんですぅ」
という悩みの吐露だ。
スクールに入ってきたその時から、もうかれこれ1年以上、彼女は同じ訴えを繰り返している。
最初はわたしも他のメンバーも、彼女の「可愛らしさ」にすっかり飲み込まれ、「大丈夫、大丈夫」と我が子のように励ましつつ、
「地道に努力を重ねていたら、いつの間にか気にならなくなる」
だの
「***さんは、もう十分ステキじゃないですか!」
だのと、真面目なアドバイスを繰り返していた。
しかし、彼女のその恵まれたライフスタイルや行動力が明らかになるにつれ、なんやかんや人前に出る機会には、いつもの頼りなげな少女風情はどこへやら、毎回堂々とやってのける度胸と能力があるのを知るにつれ、みんな徐々にまともに取り合わなくなってきた。
「自分が“できる人”だってわかってますよね?」
そう言うと本人は「えええええぇ~。そぉんなことないですよぅ~」と体をくねらせて否定し、時には本当に涙を見せることもある。しかし、少なくともわたしは、もはやその涙にまったく心を動かされない。完全に「オオカミが来たぞ~」の少年と同じ扱いである。
自分のことは自分が1番わからない。特に長所に関しては。
だからいつまでたっても自分に自信を持つことは難しい。特に心優しい女子にとっては。
それは、とってもよくわかる。
真面目な人ほど、自分の長所の中にすら、まだまだ至らない点を見つけてしまって「こんなの長所とは言えない」と思う。心優しい人ほど、他人の長所を即座に見つけて素直に尊敬しちゃうから、周りがみんな自分より立派に見えてしまう。
でも、自分がずーっと同じメンツに同じことを訴えていて、同じアドバイスをもらっていることに気づいていてなお、また同じことを訴える。励ましたってアドバイスしたって、「え~、わたしには無理ですぅ。ダメですぅ」って言うくせに、何度でも訴える。
これは、いまいちわからない。
本来“できる女性”の彼女のことだ。そもそもこれが、たとえ相談相手がお釈迦様であっても、訴えれば即解決する類の問題じゃないことはわかっているはずだ。幸せの青い鳥は、探しても探しても見つからない。知識として、そのことを知らないわけじゃないはずだ。
それでも訴えざるを得ない。それでも周りの女子のキラキラが気になって仕方がない。
悠々自適にマダムライフを謳歌していいはずの彼女が、なぜもここまでザワザワし続けなければならないのだろうか。「いい年」をした彼女が、なぜこんなに子どもじみた訴えを続けるのだろうか。
『今ぐらい年をとるのがむずかしい時代はないのではないだろうか。』
先日、林真理子さんのエッセイを読んでいて、はっとした。
確かにそうだ。美魔女と呼ばれる文化が広まって、女性は40代でも50代でもいつまでもキラキラして、「現役女子」でい続けられる世の中になった。年齢に関係なく、堂々と輝いていられる時代になった。
ただ、そうなってしまったがために「現役女子」でい続けなければならないプレッシャーも生まれてしまった。「もうオバちゃんだから」と開き直って、ゴム底のベタ靴でお気楽に商店街をぶらつく生活に移行できるチャンスが奪われてしまった。
特に、彼女のようなお金にも時間にも余裕のある女性ほど、「現役女子」であることを降りられず、いつまでも女子レールの上を走り続けない状況なのだ。
年をとるのがむずかしい。彼女はそんな新しい時代の先駆者なのだ。
いつまでも若々しく、「現役女子」で居続ける。美しくあることも、ときめきを求めることも、年齢を理由にあきらめない。そうなっていけば、悩みごとさえも若いままをキープして当然だ。むしろ、青臭く自分探しを続けることこそが、彼女の若さ、可愛らしさの源なのだ。キラキラ女子に憧れ続けて胸を痛めることこそが、彼女がこの時代を生き抜くエネルギーなのだ。
そしてもっと言うなら、そんな大人の「現役女子」にザワザワしていたのは、こちら側だったのかもしれない。
大人の女性なら、落ち着いていて当然。自分探しは卒業していて当然。そんなイメージに縛られているわたしこそが、新しい時代について行けずに翻弄されていたのかもしれない。彼女はたくましく、喜んで、楽しんで悩んでいるのに、全然わかっていなかった。
「わたしぃ、別にぃ、悩むのが好きなわけじゃなんですけどぉ…」
自分で言った。
それ、答えですよね。好きで悩んでますよね。現役キャピキャピ女子がごとくに。
それならこちらも、励ますとかアドバイスするなんて野暮なことしててすみませんでした。これからは「わーかーるー。ほんとそれー」「マジへこむよねー」とお応えして、キャピキャピ女子会コントにお付き合いさせていただきます。
時代の先行く「少女姐さん」に、わたしが必死でついて行かねば! ほんと、むずかしい時代だ。
引用:林真理子『野心と美貌 中年心得帳』講談社文庫
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