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メディアグランプリ

女子高生からアラサーへ。花嫁がくれた1日。


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記事:南のくまさんさま(ライティング・ゼミ)

チャペルの扉がパッと開く。まだまだ残暑を感じる眩しい午後の光を背に、新婦がそこに立っている。ゆっくりとお辞儀をし、チャペルに一歩足を踏み入れる。

お辞儀をした時に、ついでに眼鏡を地面に落とすなどコントのような事をしてしまう子だったが今日はやはり違っていた。もう眼鏡をかけていない、二重の大きくぱっちりした目からは、母と向き合った瞬間大粒の涙がこぼれ落ちた。
静かに、厳かに、母が娘のベールを下げる。これまで大事に大事に育てた我が娘を悪いものから守ってくれますように、これからの人生に幸あれと願いをこめて。
花嫁はきっと今までの母とのいろんな思い出がフラッシュバックで蘇り、胸がいっぱいになっているのだろう、涙がとめどなく溢れていた。
そして父と共にバージンロードを歩む。産声を上げたあの日、初めて言葉を口にしたあの日……一歩一歩歩みを進め、新婦の手が花婿の手へと渡る瞬間は、バージンロードにおいて今日この日を表している。両親に代わって、花嫁のベールを上げることが出来るのは、花嫁を一生守ると誓った花婿だけである。今日、この日をもって2人は新たにスタートをきる。

 

一連のセレモニーを目にして、気づけば私もはらはらと涙をこぼしていた。大人になったのだな、と勝手に親戚のような心持ちである。
列席者の盛大な拍手とお祝いの言葉を浴びた花嫁の表情は、どんなそこらの女優よりも美しく輝いていた。

 

私は新婦の友人としてこの場に出席し、披露宴では高校の同級生たち4人と同じ円卓を囲んでいた。
食べて、話して、スマホを掲げ、新婦が近くに来るたびに「きれー」「かわいー」「どうやってそんなに痩せたの?」「新婚旅行は?」と記者のように感想・質問を好き勝手に投げ掛け披露宴はにぎやかに時間が過ぎていく。

 

新婦を眺め「綺麗だねぇ」「細いねぇ」と親戚のおじさんのようなぼやきをしつつ、私達はふいに真剣な仕事の話を始める。
「ねえ、A子って仕事、何関係だっけ?」
「私は、福祉系かなー。最近部署異動になってさ。家からは遠くなったけど、今の部署は働きやすくて好き。先週まで忙しかったけど」
「やっぱ忙しい時期とかあるんだね。大変だな」

 

―仕事。あの頃の私たちの会話にはなかった単語である。当時は勉強か部活、もしくは恋愛とだいたい皆同じ方向のベクトルでそれに向かって一直線! という雰囲気だった。

 

私はその時、無性に彼女たちと仕事の話をしたかったし、今皆がどんな事をしているのか、どんな事に熱中しているのか知りたくなった。
何故なら、久しぶりに会った彼女たちはあの頃とちっとも変わらなくて、8年も時が過ぎたなんて微塵も感じさせないからだ。働いている姿なんて全くイメージが浮かばない。

「あーあ」と披露宴の後、皆で寄ったカフェを出て意味もなく私は大きなため息をついた。
「どうした」A子が笑う。
「いや、わかるよ、私も時々そうやって言う時あるもん」B子が私に同調する。
「えーあるの?B子でもあるの?」私は身を乗り出す。
「あるよ、そのぐらい」
「ねー、B子って仕事の机きれい?」
「はっ? まぁきれいな時と汚いときあるよー」
「B子でも上司に怒られることある?」
「あるよ。どうしたの急に」
「いや、B子がいつの間にか大人になってる……」
「なにそれ」
B子が苦笑する。

 

久しぶりに皆でプリクラと撮ってみよう、という流れになった。
ごみごみした迷路のような市街地を、「こっちこっち」と導くB子。いつの間にこんな道に詳しくなったのか。私はB子に付いていきながら、その背中を頼もしく思う。

そんな営業ウーマンのB子はよく大阪や東京に出張に行くという。大阪支社の社員にもらったと話し、関西にしかない電子マネーのカードを見せてくれた。
私はB子がぐんと急に大人びて見えたうえに、「出張」というワードを使うことが出来るB子がなんだか恰好いいなと思った。たぶん、それを言うとまた「なにそれ」と言われるので私はぎゅっときつめに口を閉じる。

 

「ねープリクラなんて何年振りだろうねぇ」
「うわ、やっば。これ別人じゃん」
「目、デカ!」
「ねーこれスタンプどこ押したらいいんだろうねー?」
きゃあきゃあと皆ではしゃぎながら、小さな画面にぎゅうっと詰め寄る。
数年前に味わったことのある感覚が蘇る。ゲームセンターの匂い、お互いの会話が聞こえないほどのゲーム機の騒音。そして数人で小さな画面を寄ってたかって覗き込んでいる時の、むっとする暑さ。

 

あの頃唯一おしゃれが出来た持ち物は通学バックだった。ミッキーとかエルモをぶら下げた通学カバン。今ではそれがいろんなブランドのハンドバッグ、キラキラした化粧品やポーチといった持ち物へと変化した。プリクラを撮った時の女子高生のようなはしゃぐ姿を見せたかと思えば、結婚とか仕事とか日々の生活で窮屈に感じている話をしたりと大人な一面を垣間見せたりする。時が経った事にハッとする瞬間がそこにあった。
私はちゃんと大人になって皆と同じ位置に立てているのだろうか。

 

A子はリーダーシップがあって、よく皆をまとめる事ができる子だった。
B子はいつでもきちんとしていて、忘れ物とかめったにしないし鞄の中とか制服もいつも小綺麗に整えているような子だった。
C美はアツい情熱的な子で「私はこうしたい!」「こうしたほうがいいと思う!」などとはっきりと意思表示できる子だった。
そんな強い彼女たちでさえ、時には忙しくて仕事場や部屋が散らかったり、大きなため息が付きたくなったり、上司に注意を受けたり、いろんな事に迷ってどうしたらいいかわからなくなったりする事があるという。社会に出て、はっきりと言えなくなった事とか、やりたくないけどやらなくちゃいけない事はごまんとある。
しかし今、皆ぐっと踏ん張っている。目まぐるしく過ぎたこの8年間の間、彼女たちはより強く、たくましく美しくなったのだ。

 

「仕事行きたくない日? あるよ。でも口には出さないようにしてる。出しちゃうと、本当に行きたくなっちゃうから」
そう言い切ったB子は、あの頃のほんわかキャラを忘れさせるような凛々しいオトナの顔をしていた。

 

「どうやって帰るー?」
「私、バス」
「地下鉄で帰るかなー」
「迎えに来てもらってるー」
「私はもうしんどいからタクシーで帰るわ」
驚くほど皆バラバラな方法で帰路につく。じゃあね、また連絡して、と声を掛け合いそれぞれ違う方向へ歩き出す。きっとあの頃以上に、それぞれがいろんな事を胸に秘め、また明日からの生活へ戻っていく。
今、それぞれベクトルの向く先はもう違っている。違っているとわかっていても、私はあの頃と変わらない心強さを感じていた。

 

何度も歩いたことがあるはずの道である。しかし、私の足取りはいつもより軽く、一日中ハイヒールを履いていたこの足は痛みすら感じない。
そして私の顔はやはりすがすがしく輝いている。あの花嫁のように。

 

 

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2016-09-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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