メディアグランプリ

「文字が消えるボールペン」

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:たかむろシゲユキ(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
5年前の夏のある日、その惨事は起きた。
「……これって、な、な、なんなん?」
昼飯を終えてファミレスから戻ったオイラ。運転席に座って、下書き作業を続けようとダッシュボードに置いたA4のコピー用紙を膝に置いた時に惨事が起きた。1時間ほど前、エアコンをガンガンに効かせた車内で必死に書きこんだメモ書きがきれいに消えているのだ。
「どうしよう……たしかに書いていたよな」
書いていたこと自体が妄想だったのか、それとも誰かのいたずらか。もしかしてゴシゴシと消したっけ? 私のアタマは完全にショートした。
時間がない。記憶をたどりつつ、同じ紙に猛烈な勢いで書いた。
 
私のひそかな楽しみの1つが文房具屋さん巡りだ。
5年前の春、仕事関係で「文字が消えるボールペンが発売された」と大いに話題になったことがあった。正直、はじめは意味がまったくわからなかった。
「ボールペンで書いた文字が消えたらダメじゃん。それとも2時間後や半日後に消える子ども向けのモノなのかな?」
それなら駄菓子屋ででも売っている子どもだましのオモチャだ。そう勘繰ったがどうも違うようだ。
「私、実は使ったことあるんよ。ホントに消えるの」
「オレ、持っているよ。ここにはないけどね」
「あれ、メチャメチャ便利!」
自分だけ蚊帳の外。自称文房具フリークとして自分が妙に情けなかった。まっ、近頃、足を向けていなかったのは事実だし。
それはさておき、商品名がまた耳慣れない。二度聞きした。その名は「フリクションボールペン」。水性でも油性でもない意味不明の呼び名。まるでピョンピョンと跳ねるウサギのようなイメージがとりあえず湧いた。
 
3日後、時間をやりくりして新宿3丁目角にある世界堂に足を向けた。私のお気に入りの文房具屋の1つ。というより画材屋さんの1階が文房具コーナーという風情だが、かなりの充実度だ。入って3列目がボールペンコーナー。色とりどりのポッキーのように棚におさまったボールペンたち。そこに奴がいた。フリクション様だ。
 
他のボールペンと見るからに違のは、その見た目だった。頭頂部に白い薄皮餅のような色合いの特性ラバーが付いているのだ。
早速、0.5ブラックを引き抜き、試し書きの付箋にペンを走らせた。ふつうのボールペンとまったく変わり映えしない。クルクルと5重丸を書いてみてから、この後どうすればいいかな、と隣のOLさんの様子をうかがった。彼女は美しい指先で奴をひっくり返し、試し書きした文字に頭頂部の白い薄皮餅をあててやや乱暴にこすり始めた。
さて、こするとどのような現象が起きたのか。
な、な、なんと、文字が見事に消えていくのだ。
テーブル手品かチンケなイリュージョンか。まったく私の常識を超えた現象が目の前に現れた。
「こ、これだ! 世間を騒がしている文字が消えるボールペン、確認!」
 
たしかにスゴイ。間違ったときにホワイト修正液を使わなくても消えてくれる。当時、私が愛用していたのは芯太0.5~1.0の水性ボールペン。速く書くと書き損じが多くなる。それをホワイト修正液で消すとなると次第に表面ががびがびになってかなり悲惨な状態になることを幾度も経験していた。
だからマジでいっぺんに気にいった。赤、青、黒を迷わずに買った。
 
なぜ文字が消えるのか。ずうっと不思議だったので、今回調べてみた。
それはインクにあることが判明。一般的にはロイコ染料と顕色剤でできているとされるが、フリクションに使われる顕色剤に変色温度調整剤なるものが入っていて、温度で変化するというのだ。60℃以上で透明になり、-10℃以下で復元する、まるで透明人間のようなインクなのだ。元々は1975年にメタモインクとして開発されていたのだが、当時はニーズがなく商品化は40年後となったわけだ。
 
ではなぜにフリクションというか……それは白い薄皮餅風ラバーにある。Frictionとは「名詞:摩擦、衝突」で「動詞:こする、摩擦する」という意味がある。たしかに。文字が勝手に消えるのではなく、特性ラバーでこすると見事に消える。そして書き直しができる。白い修正液を全く使わなくいい便利さ。たまらん。
つまりフリクションボールペンとは「こすれば消えるボールペン」ということなのだ。
 
ここでもうおわかりかと思う。実は消えているのではなく、特性ラバーでこすると摩擦熱で60℃以上になって「見えなくなっている」だけなのだ。つまり透明文字の上に重ね書きをしているわけだ。
 
この便利さにビジネスシーンでは爆発的なブームになった。しかしだ。今では使用範囲が限定されている。契約書や申込書には不可となった。但し書きで注意書きまである。というのは、書き直しが自由にできると不正がはびこるからだ。確かに事件も起こっていた。
 
-10℃以上なら復元するということがわかった先日、実際に消してから冷凍庫に1時間くらい置きっぱしてみた。取り出してみると見事に復元していた。おおお、こ、これか!
ということは、あの5年前の夏の日の惨事の時、オイラは「重ね書き」をせっせとしていたわけか。あれが冬の北海道なら、消えるどころか消した文字がすべて復元して、とても読めたものではない。「なんじゃ、こりゃ!」と別の大惨事となっていたわけだ。
 
これって推理小説に使えるネタになる、とひらめく。
フリクションミステリーの金字塔「蘇る遺言状」なんて、とかね。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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