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優しくって、すこおし残念。


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記事:櫻井 るみ(ライティング・ゼミ)

「あ、 櫻井さん。 俺、 今日1時間早くあがりますんで」
「そうですか。 了解です」
隣の席の彼からの早退の連絡。
ここの会社は1時間単位で有給が取れる。

「1時間早く帰ったところであんまり変わんねーだろ……って顔してますね」
「いやいや、 そんなことは全然。 なんだったら午後がっつり半休取ればいいのに……とは思いますけど……」

彼に帰ってほしいわけではない。
むしろ帰ってほしくはない。

本当は……、『ホントに4時半に帰れるのかな……??』と思ったのだ。

ここの会社は有給に関しては割りとゆるい方で、1週間くらい前に申請を出していればまず通る。
なんなら前日だって大丈夫だ。
以前、有給の事を彼に聞いたとき、
「まあ、 休んでも他の人に迷惑掛けないように、 自分の仕事の進み具合がきちんと把握できていれば大丈夫ですよ。 あとは……信頼関係ですかね」
と言っていた。

まあ、社会人として、自分がいないときにちゃんと仕事が回るようにしておくのは当然のことだし、彼くらいベテランになれば信頼関係も自ずとできているのだろう。

というか、彼は『自分がいない間に仕事が溜まるのが嫌だから』という理由で滅多に休まない。今までで有給を使ったのはGWの時とお盆休みの時だけだ。

たまに有給を取っても上記のような1時間休とかだ。

問題はその時間休だ。
私は、彼が1時間休を取った時に、時間通りに帰れたのを見たことがない。

もちろん、私も含めて同じ課の人間には予告している。
「俺、 今日4時半までだからね」
「俺早上がりだからね」

何回も何回も言っている。

それなのに、何故か彼には急ぎの仕事が舞い込む。
1時間早上がりだと、みんな分かっているのに。

PM4時。

口数の少なくなった彼に話しかける。

「高林さん(仮名)。 4時半に帰れます??」
「ん~……。 ギリってとこですかね」

確かに見た感じ、あと2,3件データ入力すれば終わりそうな気配だ。

「じゃあ、 私、 お掃除行きますんで。 私が戻ってくるまでには帰っててくださいよ」
そう言って、席を立つ。
私が席を立った直後に、彼に新しい仕事が持ち込まれたようだった。
「高林さん、 コレいいですか??」
「ちょっと待て! 俺、 今日4時半上がりだぞ!」

彼の焦った声を背中で聞いた。

その日、私は掃除当番だった。
掃除当番は毎週、女子社員でまわしていた。
私たちがいる2階フロアの女子トイレと給湯室の掃除、それからゴミの回収。それと会議室のある3階のトイレと給湯室、女子更衣室の掃除。

一人でやればざっと1時間。

さすがに私が戻る頃には帰っているだろう……、帰っていてほしいと思った。

が、彼はまだいた。
3階の掃除を終え、2階の掃除も終わり、後は回収したゴミ3袋をゴミ捨て場に運ぶだけになったところで時間は5時15分。

何でまだいるの……。

さすがにもう仕事は終わったみたいで、片づけをしているようだった。
目が合った私に軽く手を上げて、彼はバタバタを帰っていった。

時間は5時20分。

もう、1時間休なんてなんの意味もない時間だった。

思えば、彼はいつもこうだ。

「早上がりする」と言ったのに、ぼこぼこ仕事を持ってこられ……。
「PCの調子が悪いんだけど、 高林君、 ちょっと見てくれるかな?」と言われればすぐに駆けつけて……。
誰かが休めば自分の仕事に加えて、その人の分のフォローまでして……。
そういえば、4月1日には新しく異動してきた人のPCの設定で1日中バタバタしていたっけ……。

加えて。
人当たりが良くて、気遣いができて、いい意味でいわゆる『いじられキャラ』だから、誰も彼もが彼に声をかける。
上司までもがちょっかいを出す始末だ。

私が派遣社員として入社した3月。
慣れないこともあって、周りと壁を作っていた時期に「9つしか違わないんじゃないですか」と言って、私をキュンキュンさせたあの気遣い。
アレがあったから、私はまず彼と打ち解け、次第に同じ課の周囲の人とも話せるようになったのだ。

そもそもこの会社が派遣社員を必要とした理由は、産休やら定年やら病気療養やらで人手が足りなくなり、彼にそのしわ寄せがいっていたのを何とかしなければ……というものだったらしい。

確かに、私は彼の仕事の一部を受け持っている。
しかしながら、彼が楽になったのかというと、とてもそうは思えない。
派遣社員の私にあまり残業させるわけにはいかないのはしょうがないとして、それでも彼が定時で上がったところを見たことはない。

いや、あるにはある。
だけどそれは、「体調悪いから、 今日は帰るね」といった時くらいだ。

以前、一緒に帰ったとき聞いてみたことがある。
「私に仕事を振るようになって、 少しは楽になりましたか?」と。

彼からの答えはこうだった。
「楽になったんですけど、 なんかまた新しい仕事放り込まれそうなんですよね」

……なんでだよ?

少しは楽にするために来たのに、それじゃ意味ないでしょうが!!

私の発言に彼は、
「そういう会社なんですよ。 しょうがないッス。 あんまり遅くまで残ってるといい顔しないし、 かといって定時で上がると『アイツひまなんだな』ってヒマ認定されますからねー」
と、どこか他人事のように言っていた。

普通に定時で帰ったり、遅くならずに帰っている人もいるのに……。

私が来たことで少しは楽になってもらいたかったのに、手が空いた分、新しい仕事を放り込まれてしまう彼。
少しは断ったり、自分の仕事量を減らすようにすればいいのに。
「頼られてますね」って言うと、「言いやすいだけです」って言うくらいなら、少しは話しかけにくい雰囲気でも出せばいいのに。

そりゃあ、私は一緒に残業していられるのは嬉しいけどさ。
もうちょっとそこは自己主張してもいいし、自分勝手になってもいいんじゃないかなぁ……と思うよ。

まあ、みんな、あなたのそういうところが好きなんだし、私もあなたの、そういう優しいところがすごく好きなんだけど、そうやって何でも背負い込むところは、すこおし残念……。

最近、彼は「これから仕事をやっていく上で……」ということをしきりに言う。

私の任期は一応1年。
だから、来年の春には契約が切れる。
その時どうなるかは、今の時点ではまだ分からない。
もしかしたら継続して働くことができるかもしれないし、そのまま終わるかもしれない。

だから『これから』って言ったって、居させてもらえるかどうかも分からないのになぁ……と思いつつも、何故か彼の中では私が居続けることが確定している。

「いや、 分からないでしょ。 まさかの芸能界デビューとかあって辞めるかもしれないでしょ!」
「有り得ない有り得ない。 櫻井さんはいなくならないでしょ」

まあね……。
少なくともあと半年は、優しくってすこおし残念なあなたが少しでも楽になれるように頑張るよ。

願わくば、来春以降も……。

 

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