iPhone7 Plusと、五月人形
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記事:サイ・タクマさま(ライティング・ゼミ)
iPhone7 Plusが届いたのは、発売日から11日後のことでした。
使用にあたり、あらかじめ本体よりも先に準備しておいた保護フィルムとケース。
まっさらのiPhoneはいつだってドキドキします。
手に入れた瞬間から、まるで生まれたての我が子のように愛おしい。
初めて抱える時はおっかなびっくり触り、決して落としはしないのに、この手から滑り落ちる光景を思い浮かべるだけでゾッと背筋が寒くなる思いです。明らかに心臓に良くありません。
このまっさらなベイビーちゃんに、傷のひとつたりともつけたくない……そう思うのが親の心情というものではないでしょうか。
立派な鎧兜の五月人形を飾る風習はきっと、我が孫・我が子が頑丈にプロテクトされた姿を投影する依代(よりしろ)に違いありません。守ってあげたいという祈りにも似た気持ちの、具現化された姿だと、私は思うのです。
だから私は、分身とも言える我が子に、まっさらなままで甲冑を着せるのです。
今回の坊やは防水・防塵加工だ、とは言ってもです。
そして、私と我が子が目と目で通じ合い、ツーとカーで意思疎通を図るための大切な場所である液晶ディスプレイの保護。
これが殊更、肝要なのはおわかりでしょう。
ケースが鎧ならば、保護フィルムは兜。
保護フィルムが本体につくはずの傷を請け負うことと、五月人形が子に降りかかるはずの厄の身代わりになる意味を持っていることは、なんだか似ています。
息を殺し、細心の注意を以って行われた保護フィルムの着装は、つつがなく終わりました。
気泡ひとつない、良好な状態です。
ケースは呆気ないほどサックリとした感触で、我が子を包みました。
これで一安心。私のベイビーちゃんはもう社会に出ても大丈夫でしょう。
鼻歌を歌いながら、しばらく悦に入る時間。
ところが数日後に、事件は起こりました。
最初に違和感を感じたのは、Webページでテキストを読んでいる時でした。
右端のひらがなが、途中から始まっている。
左端の漢字が、最後まで表示されていない。
……?
液晶ディスプレイを、斜めから覗き込みます。
あ!
ああーっ!!!
端と端が見切れている!!!
見切れちゃっているではありませんか!!!!
私の貼り付けた全画面保護型フィルムは、その名の通りディスプレイ全体を覆うように作られているので、iPhoneの前面に似せてあらかじめ黒い枠が設けられているのです。
その黒い枠が、僅かに数ミリ、おそらく2ミリにも満たない誤差で、本体の液晶の枠よりも「狭い」ことに、私は気づいてしまいました!!
気づかなければどうということはないがしかし、気づいてしまうと気になって気になって仕方がない!
僅かな誤差が! 私は気になって気になって仕方がないのです!
私は己の力量不足で貼り間違えたのかと、血走る眼で貼り直しを試みました。
悲しいことに、何度やっても結果は同じ。
それどころか、何度も貼り直すうちに、当然のように埃が入ってしまい、慌てて拭く際に誤ってフィルム側を撫でてしまうという致命的なミスを、私は冒してしまいました。
粘着面に付着した、クロスの繊維。
「……終わった」。
詰まった息を細く吐き出しながら、私は天を仰ぎました。
高鳴る鼓動を抑えて、今度は目頭を押さえます。
次の日、私は血走ったままの目で電器屋におりました。
ポピュラーな保護ガラスではなく、あくまで全画面保護フィルムにこだわったのは、おそらく男の意地でしょう。
矮小な男の意地です。なんとしても私はこれで行かなければ気が済みません。
これは私による、私への、リベンジマッチなのです。
失敗は成功で塗り替える。それが男の道というものです。
売り場の店員さんに一部始終を話し、液晶の枠よりも広いもの、本来の液晶の幅を確保しているものを探している旨を伝え、助言を乞いましたが、私の稚拙な説明では埒が明かず、かえって彼らを困惑させてしまいました。
店員さんは悪くない。店員さんは悪くない。
ここは落ち着いて、吟味するしか解決の手はありません……!
保護フィルム売り場の前で長時間立ち尽くし、複数の商品を両手で見比べながら唸る私からはきっと、異様なオーラが放たれていたはずです。
もはやあの時、私は、一種の偏執狂状態に陥っていました。
帰宅し、鬼の形相で座しました。
今度のメーカーのものは、きちんと本来の幅を確保した枠の広さであることを確認。
よし。
賭けに勝ちました。
プスッ、と音を立てて鼻息が出るのと同時に、口角が少し上がります。
あとは再びフィルムを剥がし、埃を除き去り、新しいものへ交換するのみです。
こんなに神経をすり減らすくらいならば、いっそディスプレイの横の黒枠、要らないんじゃあありませんか。透明でいいじゃあないんですか。
保護フィルムメーカーさんにそうお伝えしたいのですが、メーカーさんにだって言い分はあるでしょう。それに、だいたいの方はおそらく気にしないはずです。
保護フィルムは、画面を保護するという本来の役割を果たしているかぎり、欠陥商品ではありません。
しかし、私にとってこれは、致命的な数ミリなのです。
たとえば写真を撮る時、その僅かな数ミリが見えていないことによって、なにか決定的な妙味が損なわれたとしたら。
たった数ミリによって、バランスが台無しになってしまう、そんなことが万に一つあるとしたら。
それは私には耐えられないことです。
しかも、私にしかわからないこの感覚は、枠が狭いままだとずっと気がつかないままなのです。それは私には許しがたいのです。無視できないのです。
「君が見ている世界は、みんなの見ている世界よりちょっとだけ狭い。
数ミリだけだけどね。狭いよ」
そんなことを言われてご覧なさい。
その「目隠しされている数ミリ」がめちゃくちゃ気になってしまうじゃあないですか!!!
甲冑の歴史には明るくありませんが、戦場における視野の大小は生き死にを分けたはずです。
見えていないところから矢が飛んで来たらどうするんですか。
見えていないところから槍で刺されたらどうするんですか。
「あともうちょっと」見えてさえいたら免れていたかもしれない、死の瞬間が、この世の歴史上に何回あったとお思いですか?
間一髪、という言葉はまさに髪の毛1本分の妙のことではないのですか?!
そんなことを考えているうちに、保護フィルムの交換作業は無事終了。
うん。視界良好。
紆余曲折を経て、私の心に平安が戻ってまいりました。
願わくばこの鎧が、往年のテレビゲームのように、何かに当たると一発で砕けてしまうような脆い鎧ではないことを祈って。
***
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