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あなたも壮大な歴史の渦に巻き込まれる、たった1つの方法


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記事:サイ・タクマ(ライティング・ゼミ)

 

今年の3月に勤めていた会社を辞めて地元の神戸に戻ってきたとき、私がまず手をつけたのは、己のルーツを辿ることでした。

今思うと、サラリーマン根性というのは自分の中で意外なほど根深く、帰属していた組織の後ろ盾を失ったことの心細さもあったのだと思います。

 

今ここにいる自分の原点を探ることで、なにかわかることがあるかもしれない。

 

漠然とした予感のようなものに駆られて戸籍を含めた調査を始めた数週間後に私を待っていたのは、背筋が震え上がるような驚きでした。

 

なにかと言うとですね、台湾人である曽祖父が日本に来たきっかけと、それを示す公的史料が見つかったんですね!!

 

のちに帰化する台湾人の曽祖父は神戸で台湾パナマ帽を売っていた。という情報から話は始まります。(私には台湾と日本の両方の血が流れています)

 

 

台湾パナマ帽について調べ始めた矢先、

『模造パナマ帽産地の制度比較 台湾・沖縄の比較を通じて』というとても面白い論文に出会いました。私にとってはこれ以上ないドンピシャの内容で、かつ示されている論旨はとても興味深く、思わず身を乗り出してしまうものでした。

 

私はすぐに、これを書いたのは誰なのか調べることにしました。

Yさん(以下Y先生)という研究者の方で、現在、静岡のとある大学で准教授をなされていること、この論文はY先生が早稲田大学の在学中に書き上げられたものであることがわかりました。

素晴らしき情報社会! 素晴らしきグーグル!

 

 

普段なら、ここまでは調べても、ここからさらに具体的なアクションを起こそうとは思いつきもしないのですが、

「こんな方がいるんですよね~」と何気なく知人に報告したところ、思わぬ返事が返ってきました。

 

「じゃあさ、生きてたら会えるんじゃない?」

その一言で、目から鱗がずり落ちました。

 

そうか……!! 会って話を聞けるかもしれないのか……!

いや、会えはしなくても、連絡くらいなら取れるんじゃないか?

メール1通、送ってみることぐらい出来るんじゃないか?

 

ネットの向こう側にいるのは人間だ。

そう閃くと気持ちが軽くなり、思い切ってコンタクトを取ってみることにしました。

 

 

こうしてY先生と連絡を重ねるなかで、父が撮影した曽祖父の墓に重要なヒントが遺されていることがわかりました。

 

即ち、曾祖父はその父(私から見て高祖父にあたる)の帽子商に従事するために1918年1月に来日したこと(当時16,17歳)。そして1932年に独立、帽子商 三明公司を設立したこと。のちに製菓業へ商いを変え、1945年、三明製菓を創業。

現在も続く会社を1954年に創立するに至る。というわけでした。

 

これを面白がってくれたY先生、国立図書館デジタルライブラリーで公開されている『林投帽製造業調査』をあたり、大正2年(1913年)のその資料に高祖父の名前を見つけてくれたのです!

 

林投帽というのは、林投という植物(Pandanus tectorius/アダン/screw pine)から作られる帽子のことです。

 

おそらくですが、Y先生の論文にも照らして察するに、林投帽の家内手工業技術・ノウハウを応用して、高級品であるパナマ帽(本物のパナマ帽は高いんだそうです。エクアドル産)の模造品を生産。

低品質ではあるが廉価な模造パナマ帽を台湾から神戸に移出し、神戸から欧米及び国内にむけて販売した、という物語が浮き上がってきました。

 

 

さらにこの資料が面白いのは、当時の台湾人移出商についての記述です。

以下一部引用。

「いかんせん彼等の多くは信用薄弱の軽業師なるが故に直ちに足元を見透かされ買倒の厄に遭遇するの已むなきに至れる間に出張員なるものは遊蕩三昧に耽りて売上金を費消し資金に窮して投売をなし以て相場の売り崩しを為し 今日の不況を来たせる一大原因をなすに至れり」

 

あちゃ〜……うちのご先祖さまが大変ご迷惑をおかけしました、と苦笑いしてしまうような様子が、そこには描かれていました。当時のお役人が頭を抱えているところが容易に想像できます。

まさか1通のEメールから、曾祖父たちの大まかなキャラクターまで透けて見ることになるとは。

 

 

Y先生もこの点について指摘されておられますが、台湾人移出商→集帽人→生産者の流れにはいわゆるピンハネ・ちょろまかし・買い叩きが横行し、また在神戸移出商の間での苛烈な競争、時勢に合わせた流動的な商人の参入・退出のために、商人たちの動きは決して褒められたものではなかったといいます。

 

私は少し恥ずかしくなりました。せめてうちのご先祖はそうではなかったと思いたいわけですが、親子二代で最低19年はやっていたわけなので、きっとそういうダーティーワークスも推して知るべし、あったと見て然るべきでしょう。

戦中戦後のギラギラした、食うか食われるかの時代の熱風を感じます。

 

 

2つの世界大戦がまたひとつ、動向を解き明かす鍵になるかもしれません。

そして戦争は、日本と台湾を見つめる上で必ず通る道であることを予感しています。

 

ここまでが、僅か数週間でわかったことでした。

 

ルーツを辿ると必ず壮大な歴史の渦を感じることが出来ます。

その枝の最後に、今の自分が立っているということ。

 

祖父母は4人、曾祖父母は8人、高祖父母になると16人もいることになるじゃないですか。

親を合わせると30人分の人生の末端にいるわけですよ。

これ、ちょっとした衝撃の事実だと思いませんか。

30人分の人生の中に面白いネタが転がってないわけがない……私はそう思います。

 

掘れば掘るほど面白い鉱脈。

 

それはあなたの立っている場所に眠っている!!!

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-10-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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