恋愛ができない理由は、すべてあのジャムにあったのかもしれない
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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「一人暮らしに、ジャムって、結構大変だよね。」
仲良しの友達の家に遊びに行ったとき、そんな話になったのを、思い出した。
ジャム。それは、果物を、さらっさらの白い砂糖と一緒に煮詰めたもの。
とろとろしていて、おいしい。
おまけに瓶に詰められたその見た目は、かわいい。
だけど、あいつは、すぐに腐る。おいしいから食べるのがもったいないなんて思っていたら、すぐにだめになってしまう。私の口には絶対に入らなくなる。あの青いような灰色のような気持ちの悪い斑点ができて、触れることなんて、できなくなる。
でも、大事だからって遠くで見ていても、決してあの密に触れることはできない。ジャムは保存瓶に入れておけば、腐らせずにとっておける。瓶に入れて、煮沸をして、蓋を閉じておく。そうしておけば、ジャムは美しいままだ。でも、切ないことは、触れられない、こと。美しいのに見ているだけ。かわいいのに、眺めているだけ。だって、一度開けてしまったら、色あせてしまうから。すぐに食べてしまわなかったら、タイミングを逃してしまったら、わたしのもとには二度と戻ってきてはくれないから。
ひとり暮らしに、ジャムは、大変だ。
だって、お店に行けば、かわいい瓶に入れられて、並んでいる。わたしを誘惑してくる。ついつい買ってしまう私。朝のパンの上、ヨーグルトの真ん中で、きらきらと澄まして癒してくれる。でも、その癒しがあまりにも幸せで、怖くなって、「とっておこう」と思ったとき。終わってしまう。あなたとの暮らしが、終わってしまう。そのうえ、あの気持ちの悪い悪夢と罪悪感を味わなくてはならない。かわいいくせに、意地悪なんだ。だからジャムは厄介なんだ。
それで最近、私は、ジャムが怖くて、買えない。
だからなんだ、と思うかもしれない。
ところが、気が付いてしまったんだ。
悲しい事実に。切ない現実に。そして、とても臆病な自分自身に。あのジャムのせいで気が付いてしまった。
ああ、わたしが最近恋愛できない理由は、ジャムを買えないからなんだ。
ジャムを大切に出来る状態にないからなんだ、と。
ジャムは、好きな人とか恋人みたい。もしくは恋愛そのもの。
言葉にするのはとっても簡単。音が二つ。文字にすれば、大きい文字二つと小さい文字一つ。
でも、それができるまでは、とても大変。
果物をきれいにして、砂糖と一緒に、お鍋に入れる。それから、焦がさないように、丁寧にゆっくりと、煮詰めていく。挨拶をして、たわいのない世間話をするようになって。それから少しずつ相手に心を開き始める。自分の心の話をし始める。相手のことが知りたくて、焦がれそうになりながらも、恥ずかしい気持ちが、行き過ぎるのを抑えてくれる。甘酸っぱくて心地よい。そんな時間が、優しい関係をつくっていく。
でも、あんまり煮詰めすぎるとジャムは茶色くなってくる。甘酸っぱさは、苦みにかわる。
出来上がったジャムが大切だからって、食べないでおくと、二度と触れられないところへ行ってしまう。
保存瓶に入れて置いたら、美しいまま。だけど、見ているだけは、ずっと切ない。
ジャムの扱い方の癖。それは、人間関係の作り方、特に恋愛の仕方の癖なのかもしれない。
煮詰めすぎて焦がしてしまう人は、心の温度が上がりすぎてしまう人。わたしを愛してと、一気に強火にしてしまう。果物がうまく溶けなくて、砂糖とうまく煮詰まらない。二人の温度が合わなくて、どちらかが耐えられなくて、すれ違ってしまうみたい。
ジャムは上手に作れるのに、失ってしまう人。それは、自分から行動できない人。タイミングを逃してしまう人。そして結局、相手を傷つけてしまう人。たぶん、相手を思い過ぎて、相手のことが好きすぎて、自分に自信がなくなっちゃってる。好きすぎると自己防衛に入るらしいが、まさにその状態だ。本当は勇気を持たないといけない時に、自己卑下をしてしまうと、きっと相手を傷つける。
保存瓶に入れて、とっておく人。それは、相手を大切にしすぎて、相手に寂しい思いをさせる人。あるいは、片思いで終わってしまう人。大切過ぎて、本当の想いを伝えられない。遠慮して、違う自分を演じてしまう。好きが空回りして、結局心の距離が離れていってしまう。もしかしたら、自分の気持ちを瓶の中に閉じ込めて、ばれないように隠しているのかもしれない。きれいな思い出のままとって置けるように、遠くから見ていた傷つかない気持ちを、そっと瓶にいれてしまっているのかもしれない。
そして、わたし。そもそもジャムを買えない人。つくろうとしない人。
恋が怖くなっているサインなのかもしれない。自分に自信のない証なのかもしれない。
前に進もうとしていないのかもしれない。
あの癒しを知っていながら、そこにたどりつくまでの労力を惜しんでいるのかもしれない。
厄介だからと、面倒くさがっているのかもしれない。
そもそも、あの誘惑に負けたくないと、意地を張っているのかもしれないし、一人で生きていけると、強がっているのかもしれない。
あんなに甘いものに頼らなくても、わたしは大丈夫。そう自分に言い聞かせているのかもしれない。
大学生になって、ジャムのせいで、気が付いてしまった。
あの時、好きなんてばれたら、話せなくなってしまう。そう思って、遠くからそっと見ていたこと。
あの日、好きな男の子が言ってくれた「一緒に帰ろう」があまりにも嬉しくて、うまく「うん」と言えなかったこと。
憧れの人に、わたしの心の温度を伝えられなかったこと。
それから、そのことを全部、瓶に入れて、きれいな「思い出」というラベルをつけて、今も心の中にしまっていること。
きれいなジャムの入った瓶。心の中の棚に並んだその瓶を眺めているのは、切ないことなのかもしれない。あの時、誘惑に負けておけばよかった。その後悔を「思い出」という都合の良いものに置き換えているのかもしれない。
私の恋愛の悪い癖は、全部ジャムの扱い方そのものだった。
ジャムを買えないでいる行動、そのものだった。
ああ、ジャム一つにこんなに悩まされるなんて。
ジャム一つに、自分の弱いところを気づかされるなんて。
自分が、今、ちょっとだけ寂しいのかもしれないって、思ってしまうなんて。
馬鹿みたい。
ほんとに、馬鹿みたい。
阿保なんじゃないかと思う。
でも……、
だけど……、
ジャムとの暮らしがうまくいったら、恋もうまくできるのかな。心に並んだ瓶の中身をきれいに食べてしまったら、もっと優しい気持ちになれるかな。そう思うと、ちょっとだけ、物事が簡単なことに思えてきた。ちょっとだけ、勇気がもてる、そんな気がした。
恋がうまくできない人は、まずはジャムとうまく付き合ってみたらいいと思う。
何かが、変わる、そんな気がする。
ひとりだから、ジャムが減らないんじゃない。
ひとりでも、ちゃんとジャムと暮らせるようになったとき、一緒にジャムを食べてくれる人と、出会える気がする。
ああ、そうだ。
明日、久しぶりに、あの誘惑に、負けてみようかな。
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