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失恋に効くクスリ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:紗那(ライティング・ゼミ)

失恋に効くクスリがあったら、大ヒットすると思う。だって、確実に需要がある。

まず、間違いなく私は予約してでも買っただろう。というか、2016年の初めに失恋をした私はそれをずっと探していた。グーグル先生にひたすら「失恋 立ち直る方法」と問いかけていたぐらいだ。この辺に関する記事はたぶんほとんど読んだ。

また、会う人会う人に失恋からどうやって立ち直ったかを聞き、誰かが答えを持っているはずだと探し続けた。だけど、誰も明確な答えを教えてくれなかった。
「辛かったね。時間が解決してくれるよ」
いやいや、もっと明確な答えが欲しい。
「大丈夫! 次の人を探そう」
次の人に出会える保証なんてどこにある? 
結局私は失恋に効くクスリ探しは諦めて、ただ毎日を忙しく過ごした。何も考えないように、思い出さないように、予定だけを埋めた。

そんなある日、先輩に誘われた合コンに参加した。底抜けに明るくて、大好きな沢木先輩。彼女もまた、最近大失恋をした仲間だった。

「かんぱーい!」
金曜日の夜、高層ビルのちょっとおしゃれな居酒屋で合コンはスタートした。
「今日は俺の復帰戦なので皆さんよろしく!」
一人の男性がテンション高めに意味のわからない自己紹介をしていたが特に気にも止めなかった。

沢木先輩が企画した飲み会の相手は30代後半の男性陣だった。最初は当たり障りのないよくある合コンだった。趣味の話だったり、好きなタイプだったり。
2、3日したら、話した内容も相手の顔も忘れてしまうに違いない他愛のない会話。きっと今日もただの時間潰しの会になるんだろう。こんなことなら、一人で映画に行った方がよっぽどいい金曜日だったかもしれない。でも映画に行ったらまた泣いてしまうかもしれないから、こっちに来て良かったのか……。
 
そんな時、ふいに風向きが変わった。なぜか、話の流れが失恋話になった。
「最近彼氏とかいないのー?」
さっきの復帰戦男が聞いてきた。やばい。こんなに早いタイミングで傷をえぐられるとは思わなかった。
「あー。私は最近フラれましたねー」
努めて明るく答えた。会ったばかりの人に自分のダサいフラれ話を熱く語るわけにはいかないし、そんなつもりもない。適当にかわして、話題を変えよう。
「あっ、そうなんだー! 大丈夫だよ! 君ならすぐ新しい人できるよ」
パリっとしたスーツを着こなす広告代理店風男が気まずくならないようにさらっと会話を流そうとした。よしよし、この流れでいい。
「え! いつ? なんで?」
そこで、まさか復帰戦男が食いついてきたのだ。その顔は好奇心というよりは、本当に興味がありますという顔をしていた。
「いやー、まぁ色々あったんですよ! いいじゃないですか! 細かいところは! 今は前向きに活動してます!」
うざいなと思いながら、また明るく答える。正直、まだ誰かに語れるほど気持ちの整理なんてついてない。話したら泣いてしまいそうだ。
「そうだよー! みんな色々あるんだから、細かく聞くのやめっ! とりあえず飲め飲め!」
沢木先輩がすかさず助け舟を出してくれた。復帰戦男は沢木先輩にビールを渡されて、迷いなくグビグビ飲んだ。
「いや、でもさ、そういう時は意外と人に話しちゃったほうが楽だよ!」
ビールを飲み干してもなお、この男は聞きたがるのか。まぁ、少しくらいなら話してもいいか。そう思って私は簡単に別れの経緯を話した。
「なるほどね。そりゃあ、しんどいな」
復帰戦男は神妙な顔をしている。彼の顔は女子の失恋話をなんとなく聞くような男の顔とは少し違っていた。どうやら、真面目に聞いているようだ。
その真面目な顔に心がほぐれた私は言わなくてもいいことまでペラペラと話してしまった。
「元カノが忘れられないとか意味不明だし、『ごめん』って謝られても、私がもっと惨めじゃないですか! 私は元カノのダミーだったのかって!」
そう。私は元カノに勝てなかった。久しぶりに元カノに会った彼は元カノが一番だということを再確認し、フラれたのだ。彼が元カノと復活したかどうかはわからないし、知りたくもない。
「でも、もういいんです! 今は割と元気です! お酒頼んでいいですか?」
私は場がしらけないように、明るいトーンで話を終わらせた。その時だった。

「私も最近フラれました!」

突然、沢木先輩が大きな声で手を挙げた。
「まじか!!」
復帰戦男がまた食いつく。さっきの広告代理店男は失恋話に飽きたのか、他の女子達を狙っていて、もうこちらの輪には入ってこなくなっていた。
お酒を飲み過ぎて気持ちよくなったのか、沢木先輩はペラペラと失恋話を始める。
「てか、私なんて同棲してたんですけどー」
沢木先輩はダルそうに枝豆を口に放りながら話し出す。
「突然別れたいって言われてー。まぁ後から知ったんですけど、女いたんですよ! あいつ! まじうざい!」
そうなのだ。沢木先輩は私よりもっとすごい経験をしている。結婚寸前の男性からの裏切りなんて辛すぎるに決まっている。更には、相手の女とハチ合わせまでしてしまった。
「別れた後、彼氏のマンション行ったら、女がいたんですよ! それも超ギャル! その女、平然としてて! もう、ムカついたからあいつのお気に入りの服メチャクチャにして出て行ってやりました! まぁ、一番すっきりしたのは、あいつらの歯ブラシをトイレに突っ込んで戻してやったことですけど! 毎日、トイレ漬け歯ブラシ使ってると思うとざまぁですよ!」
一気に話した沢木先輩は笑いながら、ビールを水のような勢いで飲み干す。沢木先輩がこうやって笑ってこのネタを話せるようになるまで、どれほどの苦悩があったのかを思うとつらい。
「おぉ! そりゃすごい!  みんな色々あるね」
復帰戦男は目を見開いて、しみじみとした顔をしている。

「でもさ、二人とも戸籍は汚れてないから、それで良かったんだよ。結婚する前にそんな男と別れられて正解! 結婚してからじゃあ、大変だよ。フラれる労力も何十倍だからね」

「ん?」

なんか経験があるみたいな語り口調だ。
「なんか経験あるんですか?」
この復帰戦男の妙に達観した顔が気になった私は聞いた。

「うん! てか、先週、離婚成立した」

復帰戦男はしたり顔でそう答える。
「えぇぇぇぇぇー!!」
沢木先輩と私は顔を見合わす。
「タイムリーすぎ! それでこんなにすぐ合コンとか来ちゃうんですか?」
「あー、違う違う! 離婚協議は2年くらいやってたから!」
だから、復帰戦なのかと妙に納得。他の男性陣と違って何か達観しているように見えるのもそのせいかもしれない。
「離婚の原因は? 浮気?」
なんだか、急に興味が湧いてきた。
「違う違う。そういうんじゃないのよ」
「え! 違うんですか? 若い女に走っちゃったのかと思った!」
「おいおい! 俺はね、結構真面目なの」
聞くと、約8年連れ添った奥さんと2年の離婚協議を経て先週離婚したという。離婚の原因は、浮気とかそういう類のものではなく、子供ができなかったことらしい。
「でも、子供なんていなくても、上手くやってる夫婦なんてたくさんいるじゃないですか!」
「うん。でも、俺たちは二人共、子供が欲しかった。だから、病院にも行ったし、できる限りの努力をしたんだよ。だけど、お互いにそれにばっかりに躍起になって段々気持ちがすれ違っていっちゃったんだよな。二人で一緒にいる意味みたいなものを見出せなくなった」
「はぁ……」
なんだか、思った以上にすごい話を聞いて自分が今、合コンにいるということを忘れていた。
「離婚したこと後悔したりしませんか?」
浮気とか、どうしようもない理由ならまだしも、その理由ならば後悔することもありそうだ。
「後悔してない。せいせいしている! 」
復帰戦男はすがすがしい顔をしている。
「結婚したことも、離婚したことも後悔してない! その時できる最善の選択をしただけだ」
強がりなのか、本気なのかわからないけれど、後悔はしていないらしい。最善の選択か……。
私の失恋もいつか最善の選択と言える日が来るだろうか。
「でも、最後の日に……」

その時唯一、復帰戦男がちょっとだけ切ない顔をした。
「最後の日に二人で焼肉行ったんだよ。10年間の終止符に。そしたらさ、奥さんに泣かれちゃてさ。あいつ『ありがとう』って泣くんだもん。その時はちょっとだけ辛かったかな」

私達三人はその後もお互いのことを話しながら、淡々とお酒を飲んだ。同じ時期に失恋をした者だけがわかる世界がそこにはあった。幸せな人に失恋話を聞いてもらっても何の得にもならない。だけど、同じ境遇にいる者同士で話すと、とても共感してしまう。お互いにお互いの気持ちがよくわかってしまうのだ。
それは、見知らぬ飲み会で同郷の人を見つけた時の安心感に似ている。誰にも通じないだろうと思っていた話ができる喜び。自分達しか知り得ない地元トークを繰り広げるように私達は自分の失恋話を語り合った。そこには他の人には理解できない一種の盛り上がりがある。

元カノに負けた女、結婚寸前でギャルに取られた女、子供がいないとうことを乗り越えられなかった男。こんな三人で語り合う合コンなんて初めてだった。

誰だって失恋なんてしたくない。

できるなら、幸せな恋愛だけであって欲しい。
だけど、同じような誰かと気持ちを共有できるなら、失恋するのも悪くないかもと思った夜だった。結果として私達は皆ちょっとだけ救われたのだ。

あの日以来、失恋した者同士で失恋を語る合コンなんてものがあったら、失恋に効くクスリになるんじゃないかなと私は密かに思っている。
 

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2016-11-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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