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ボブ・ディランと天狼院書店の意外な共通点


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:うらん(ライティング・ゼミ)

ロック・フォークグループ「ガロ」の『学生街の喫茶店』という曲がある。
その歌詞で初めてボブ・ディランという言葉に出会った。
当時、私は小学生だった。この歌ばかり繰り返し繰り返し歌ったものである。繰り返し歌っていたわりには、「ボブ・ディラン」の意味を知らない。「片隅で聴いていた」というくらいだから、おおかたレコードプレーヤーのようなものだろう、ぐらいに思っていた。

ボブ・ディランがミュージシャンだと知ったのは、だいぶ大人になってからのことだ。
それでも、ボブ・ディランときくと、頭の中に流れるのは彼の『風に吹かれて』ではなくて、いまだに『学生街の喫茶店』である。私の頭は小学生のころからアップデートしていない。

そのボブ・ディランが、2016年のノーベル文学賞に決まった。
ところが、ノーベル文学賞の受賞が決まった後、二週間経った今(10/28現在)もノーベル委員会はボブ・ディランとは連絡がとれていないという。本人からも、何の反応もない。
ノーベル賞選考委員のひとりは業を煮やし、彼を「無礼で傲慢だ」と評したらしい。

ノーベル賞選考委員の人、わかってないなぁ。

彼は、この賞に応募したわけではない。もちろん、そういう制度にはなっていないけれど。ボブの関係者が「是非とも彼に」と働きかけたわけでもない。ましてや、本人がこの賞を欲しいと思っていたかどうかも分からない。いや、むしろ欲しくはなかったんじゃないか?
「そんな権威の象徴みたいなものを貰ったら、オレの曲がみなダサいものになっちまうぜ」
と言うだろう。いや、そんなセリフのほうがダサいので、言わないと思うけれど。多分、そんなところだ。

彼は、「ノーベル文学賞受賞者」などという括りに入れられたくないに違いない。そんな箔付けは、かえって迷惑だ。
それに、ノーベル賞は、ノーベル委員会が独自に設けて一方的に決定しているだけのものである。そうした賞にもかかわらず、「あげるよ」と言ったのに取りに来ないといって腹を立てるのは、筋違いもはなはだしい。
彼は、ノーベル賞のような権威が幅を利かせている世界とは、全く違う次元のところにいる。

彼にとってのご褒美は、そんな賞ではない。名誉や威光でもない。
彼にとってのご褒美は、例えば、誰かが何かの折にふと彼の曲を口ずさむこと、誰かが、心動いたときに彼の曲を思い出すこと、誰かが彼の曲を口ずさんだとき、その人にとって大切な人が「あ、その曲知ってるよ」といって一緒に歌うこと……。まぁ、そんな感じに、人々の大切な瞬間に顔を出したり、日常に染み入っていることだと思う。

「へぇ。ミュージシャンでも貰えるんだ、ノーベル賞」

ノーベル文学賞決定の知らせに、私はこんなマヌケな感想しか言えなかった。それには、わけがある。

このとき、私は気もそぞろだったのだ。

私は焦っていた。

天狼院書店の「ライティング・ゼミ」で投稿する原稿が書けない。
思いつくテーマが、どれも今一つのような気がする。 そうこうしているうちに、締め切りは迫ってくる。 スマホがウィンウィンと鳴って、他の人の投稿を知らせてくる。

それで、焦っていた。

私は、天狼院書店の「ライティング・ゼミ」に、10月から参加している。 ライティングの極意を教えてくれるという四ヶ月間のコースだ。週にいちど原稿を提出して、店主のOKが出れば、それが天狼院書店のHPに掲載される。
原稿の提出は宿題ではない。書いてもいいし、書かなくてもいい。

その原稿が書けなくて、焦っていた。

仕事でもない。ましてや出しても出さなくてもいいものだ。それなのに、こんなにも真剣になって、私ったらどうかしている。つい2,3年前は天狼院書店なんて知らなかったのに。

私が天狼院書店を知ったのは、2013年がもうすぐ終わるというころだった。
何かのメディアで知って、少し興味を持ったのだと思う。
初めて訪れるその店は、池袋駅からずいぶんと歩いた先にあった。それも、人通りの少ない寂しい通りを歩く。

こんなに遠い所にお店を開くなんて、お金がなかったのかしら。

店までは長い道のりだ。いろいろと不心得な思いが、浮かんでは消え浮かんでは消えた。
だいたい、どうして池袋なのよ。新宿や渋谷ではない。大手町や丸の内でもない。池袋って、何だか中途半端だわ。
それに、「天狼院」って店名、「狼」っていう字が寂しい感じがする。一匹狼ともいうし。ほーら、現にこの道はこんなに寂しいじゃない。

いま思うと、失礼極まりない。
でも、恋の始まりは、第一印象が「いけすかないヤツ」だったりするし。
まぁ後付けだけど。

一人問答を繰り返しているうちに、店にたどり着いた。
ところが、店に足を踏み入れたとたん、そんな猜疑心は吹っ飛んだ。
店内は狭い。けれども、中身はその何倍にも広がるワンダーランドだ。
本のセレクトがいい。陳列の仕方もいい。テーマごとになっていて、本を選ぶ手が流れるように次へ次へと進む。

私が天狼院書店に惹かれたのは、そんな点ばかりではなかった。
むしろ、本ではないところ、天狼院書店の表現でいうと、本の先にあるものに興味をかきたてられたのだった。
それは、さまざまなイベントの企画や、プロの講師の方を招いての勉強会、フォト部や落語部といった多種多様な部活のあるところだ。

それからというもの、天狼院書店のことを知れば知るほど、このワンダーランドに魅了されていった。
恋は、はじめはいけすかないヤツだったのになぜかソイツが気になって仕方がない、と展開されることもある。
まぁこれも後付けだけれど。

天狼院書店があまりにユニークなので、これまで何度も友人たちに話そうと試みている。
だが、上手に説明できたためしがない。
「天狼院っていう面白い本屋さんがあるの。普通の本屋さんとちょっと違うのよ。いろいろやっているの」
「いろいろって?」
「イベントとか、部活とか……。とにかく、いろいろ」
「本は売っていないの?」
「本も売ってる」
「本屋さんなのに、本「を」売っているんじゃなくて、本「も」売っているんだ? 結局どういう本屋さんなの?」

この「どういう書店なのか」を説明するのが難しい。
天狼院書店は進化し続けているんだもの。その姿をとどめておかない。生き物のように、どんどんと変わっている。いわば、現在進行形の書店、~ingの書店である。てんろーいんぐ、というか……。
「こういう書店なのよ」と定義しづらい。

講演会やイベントを行う書店は他にもある。
本のセレクトに独自性を出している書店はいくつもある。

天狼院書店は、それらと何かが違う。
それが何なのか、自分でも漠としている。言葉に表すのは難しい。強いて言うなら、「参加している感じがする」ということだろうか。それも「能動的に」だ。

これまで出会ってきた講演会やセミナーを、「聴いた」とか「受けた」と表すとしたら、天狼院書店の企画は「参加した」という表現が合うのかもしれない。
私は地味で目立たない。もしかしたら、集合写真を撮っても写っていないんじゃないかというくらい、存在感がない。そんな私でも、天狼院書店に参加している気分でいる。そこが、今まで経験してきた他のセミナーなんかと違うところだ。自分が心躍っているのを感じる。
それは、ただ参加しているだけではない感覚なのだ。私以外の、天狼院書店の企画に参加している人たちと皆で、天狼院書店を作っているような、そんな気持ちでいる。まだ会ったことのない他の参加者たちを、同士のように感じている。

天狼院は、いい本を売ってハイ終わり、いい本を紹介してそれっきり、の書店ではない。
そこには、さまざまな企画がある。本を読んで得られた恵みをどう生かしていくかを、そうした企画をとおして提案してくれているような気がする。そして、私の人生を彩る手助けをしてくれる。

天狼院書店は池袋でよかったかもしれない。
新宿や渋谷といったメインタウンの箔付けはいらない。大手町や丸の内といったビジネス街書店へ区分けされて困る。そういう色付けは、かえってない方がいい。ボブ・ディランにノーベル賞なんて箔付けがいらないように。
天狼院書店の目指しているものは、既存の価値観にある大型書店ではないのだろう。天狼院書店は、どのジャンルにも属さない、別な次元にいる。
池袋という、どちらのイメージもない街だから、天狼院書店は自由な方向に変化していけそうだ。

「天狼」には、シリウスという意味があるという。
天狼院書店がそこから命名したかどうかは分からない。分からないが、夜空で最も明るく輝くシリウス星が店名に重なっているなんて、かっこいい。
ボブ・ディランが、権威や威光の横行する世界からかけ離れた次元で輝いているように、天狼院書店も、既存の概念とは違う次元で輝く一等星だ。

なんてこった! ここまで書いたところで速報が入ったのだ。
ボブ・ディランが、ノーベル文学賞を受け入れる意向であると伝えてきたというではないか。
しかも、「この栄誉をとても光栄に思う」と言ったらしい。
んもう、がっかりだ。
あとはこの原稿を投稿するだけだったのに。
いやいや、がっかりしたのはそんなことではなかった。彼がこの賞を喜んで受け取ると連絡してきたことである。そんな既存の価値観とは無縁の世界にいる人だと思っていた。
ボブ、私を裏切ったのね。
でも、天狼院書店だけは、この先もずっと、どんな枠にもはまらない世界で進化し続けると信じている。
恋は、相手を盲目的に信ずることで続いていくものだし。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2016-11-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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