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リアルママである私が、スナックのママを目指す理由《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:リコ(ライティングゼミ)

スナックに入ったことって、ありますか?
昔の私は、スナックと名がつくお店には足を踏み入れたことがありませんでした。
スナックってなんとなくいかがわしいところ。ちょっと薄暗い店内で、セクシーな女の人がお酒を作る、大人のお店。そんなイメージでした。
まさか、自分が行きつけのスナックを持ち、すっかり顔なじみになってしまうなんて、思いもよりませんでした

10年ほど前のことです。
当時24歳だった私は転勤で広島県のある街にに行くことになりました。
晴天の霹靂の辞令でした。
私は関東地方出身で、関東でしか生活したことがありませんでした。
私以外の同期の女の子たちはみな、関東地方で勤務しています。
なぜ、私だけが……。
同期の女の子たちは憐みの目で私を見ました。
いっそ会社を辞めてしまおうかとも思いましたが、その決心もつかず、私は途方に暮れたまま新幹線に乗りました。
4時間後、私は山陽新幹線から降り立ちました。
本当に一人でした。

私は、転校生のような気持ちで会社に顔を出しました。
配属先の部署には女性は1人もいませんでしたが、穏やかな優しい方ばかりでした。
会社に顔を出したその日に、歓迎会を開いてもらうことになりました。
一次会は明るい居酒屋でした。ビールや焼酎で少々ほぐれると、次は二次会へという流れになりました。
「今日はあそこに行こう」「いやあっちにしない?」
初めて来たばかりの私は勝手がわからず、ただただ、あとをついていきました。
居酒屋が立ち並ぶ通りから一本入ると、ひっそりとあかりをつけているのは、スナック、スタンド、ラウンジ。
どうやら課長のいきつけのスナックに行くようです。
え、こういうとこって女の私が入ってもいいのかな?
ドキドキしながら人生初スナックに足を踏み入れました。

「あら、いらっしゃーい。」
迎え入れてくれたのはパーマをかけたおばちゃんママとショートカットのチーママでした。2人とも年齢不詳のワンピースを着ています。
店内は薄暗く、7,8人が座れるカウンター席とボックス席が二つ。
ちょっぴり古ぼけて色がくすんだカーペットの上には観葉植物(よっばらった客がよく倒す)が置かれていました。
絵にかいたような「スナック」でした。
そこで、何をするかといえば、ただただロックや水割りを飲みながら、おしゃべりしたり、カラオケしたりするだけです。
ちょっぴり下ネタが出たり、ママがそれを上手にあしらってくれたりすることもあったけど、なんのいかがわしいこともありませんでした。
「スナックのママは女性には優しい」は本当でした。
私が転勤で初めて中国地方にきたことを話すと、ママは
「困ったことがあったらいつでも来なさい」
と、連絡先を渡してくれました。
それは、名刺ではなく、メモ用紙でした。
鉛筆のきれいな字で、携帯のメールアドレスが書かれていました。

その町にはスナックが文化としてしっかりと根付いていました。
みんながスナックに求めているのは、いつも同じ人が待っていてくれる場でした。
一次会は居酒屋で、二次会はメンバーの誰かの行きつけのスナックで。
これが勝利の方程式のように繰り返されました。
いい年した管理職は、みな必ずと言っていいほど行きつけのお店を持っていました。
いつしか私も、上司の行きつけのスナックではすっかり顔なじみになりました。

ある時のこと、一次会の後に、やはりそのスナックに行くことになりました。
その日は大きな会議があり、工場長や部長と、いつもよりえらい人たちが一緒でした。
最初はカラオケで盛り上がっていたのですが、そのうち仕事の話になりました。
「いやー俺はあの方針はどうかと思うね」
口火をきったのは部長でした。
会議で決まった方針が、何やら気に食わなかったようです。
カチンときた工場長は、
「俺は後からそう言うお前のそういう態度が気に食わないね」
と切り返しました。
今度は部長がカチンと来たようです。
2人はしばらく静かなトーンで言い合いをしていましたが、お互い引き下がらず、何やら怪しい雲行きになってきました。
でも、言い合いをしているのは、その場で一番偉い人と2番目に偉い人です。
周りの社員もやんわりなだめることはできても、きつくいさめることはできません。
「だいたいお前はいつもそうなんだよ」
工場長が声を大きくし、部長が腰を浮かせたところで、ママが工場長より大きな声でぴしゃりといいました。
「気持ちよく飲めない人は出てってもらおうじゃないの!」
その一言で店内がしーんとなりました。
言い合いをしていた2人はハッと我にかえり、お母さんに怒られた男の子のようにしょんぼりしてしまいました。
帰り際、ママは私の顔を見て「お疲れさま」とほほ笑んでくれました。
その日、朝からの会議と夜遅くまでのお付き合いで少々うんざりしていた私は、心のうちを見透かされてしまったような気がしました。
後日、喧嘩をした二人はママに謝りにいったとのことでした。

一度だけ、ママとお店の外で会ったことがあります。
ママの趣味は意外にも山登りとのことで、近くの小さな山に誘ってくれたのです。
転勤してきたばかりで、週末寂しく過ごしていた私を心配してくれたのでしょう。
約束の日の朝はママが車で迎えに来てくれました。30分ほど車に乗って、山につきました。ふもとにはこれから山を登るおばちゃんがたくさんいました。ママは顔が広く、色んな人と挨拶を交わしていました。
運動不足の私は、軽い山登りで汗ばみ、11月のひんやりした空気が気持ちよく感じられました。
ママは私のことは無理に聞き出しませんでした。
そのかわり、自分のことを色々話してくれました。こぶしの大きさくらいの子宮筋腫をとったこと、孫がいること、昔は大阪に住んでいたこと。
晴れ渡った広い空の下でママの話を聞いていると、心が澄んでくる感じがしました。
帰りにコーヒー屋さんに寄りました。
ママは言いました。
「山登りの帰りにここのコーヒーを飲むのが楽しみでね。このコーヒーを飲むために山に登るようなものなの」
熱いコーヒーは私の心にも染みました。

あれから10年。私は2児のママになりました。
幸か不幸か子どもは二人とも男の子です。
4人家族の中で唯一の女性であり、ママである私は、育児でどうしたらいいのかわからなくなるとき、ふと思い返すのです。
あのスナックのママは、理想のママだったんじゃないかなと。
ダメなときはぴしゃりとしかり、しんどいことを理解し、寂しいときはただ寄り添う。
そして、いつも同じ場、家で待っていてくれる安心感を与えてくれる。
毎年、お正月になるとママから届く年賀状を見ると、私は「ママ」みたいなママになりたいと、そう思うのです。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-11-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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